旅は道連れ 世は情け



 深夜の池袋は、夜をどこかに置いてきてしまったみたいに浮かれている。
 歓迎会だろうか。飲んで上機嫌のサラリーマンの集団。どうみても高校生にしか見えない少年少女たち。
「で、どこに行くの?」
 おねえは無言のまま駅の東口を抜け、信号を渡る。そこでぴたっと立ち止まった。
「ここ。」
 おねえが指差した先は、夜行バスのバス停だった。電車で行くより安上がりなので、僕もたまに使っている。同じ考えの人も多いのか、旅行姿の人がかなり多かった。行き先を見ると。
「とやまぁ?」
 なんで富山。大阪とか京都ならわからないでもないけれど。
「いいじゃない。今の富山は見所いっぱいよ?」
「あ〜・・・・・・。」
 そういえば両親が何年か前、春先に旅行に行っていた気がする。雪の壁がすごいんだとか言っていた。
 雪があるってことは、まだ寒いんだろうな。とまで考えて、僕ははっとした。薄手のシャツにジャケット、コットンパンツ。東京では当たり前の格好だけど、富山じゃ早過ぎる。
 見ればおねえはさりげなく薄手のコートに厚めのジャケットを着ていて、寒さ対策万全だ。
「おねえ、僕向こうで間違いなく寒いと思うんだけど」
「大丈夫。セーター持ってきたから、貸してあげる。」
 なるほど。だから荷物が大きいのか。
「言っとくけど、おねえのは着られないよ?」
 昔ならいざ知らず、今はおねえの身長を楽に越えている。
「私のじゃないから平気。」
 じゃあ誰のなんだと聞きかけて、僕は口をつぐんだ。
 なんだかおかしい。
 そもそも富山に行くこと自体、もとから計画してあったみたいだ。
 夜行バスの切符だって、前から用意していたのだろう。途中で買いに行くそぶりもなかった。
 ぼんやりと池袋の街をみているおねえは、どこか質問を拒絶してるみたいに見える。
 バスはまだしばらく来ないだろう。手持ちぶさたになった僕は、携帯を取り出した。明日と念のため明後日のバイトを代わってくれと友人にメールする。3分もかからずに震えだした携帯には『デートか??』と妙に嬉しそうな文字が浮かんでいた。冗談ではない。
「誰とメールしてるの?」
 返事をしようと思ったところでおねえが僕の携帯を奪い取った。
「友達だよ。明日のバイト代わってもらったんだ。」
「そっか。ユズルにも付き合いがあるか。」
 そういいながら、僕の携帯を自分のコートのポケットにしまいこんだ。
「それ、僕の携帯なんだけど。」
「バイト代わってもらえたんなら、もう用はないでしょ? それとも他にも用があるの?彼女でもいる?」
 僕はすごすごと引き下がり、バスが来るのをひたすら待った。
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