旅は道連れ 世は情け |
3 深夜の池袋は、夜をどこかに置いてきてしまったみたいに浮かれている。 歓迎会だろうか。飲んで上機嫌のサラリーマンの集団。どうみても高校生にしか見えない少年少女たち。 「で、どこに行くの?」 おねえは無言のまま駅の東口を抜け、信号を渡る。そこでぴたっと立ち止まった。 「ここ。」 おねえが指差した先は、夜行バスのバス停だった。電車で行くより安上がりなので、僕もたまに使っている。同じ考えの人も多いのか、旅行姿の人がかなり多かった。行き先を見ると。 「とやまぁ?」 なんで富山。大阪とか京都ならわからないでもないけれど。 「いいじゃない。今の富山は見所いっぱいよ?」 「あ〜・・・・・・。」 そういえば両親が何年か前、春先に旅行に行っていた気がする。雪の壁がすごいんだとか言っていた。 雪があるってことは、まだ寒いんだろうな。とまで考えて、僕ははっとした。薄手のシャツにジャケット、コットンパンツ。東京では当たり前の格好だけど、富山じゃ早過ぎる。 見ればおねえはさりげなく薄手のコートに厚めのジャケットを着ていて、寒さ対策万全だ。 「おねえ、僕向こうで間違いなく寒いと思うんだけど」 「大丈夫。セーター持ってきたから、貸してあげる。」 なるほど。だから荷物が大きいのか。 「言っとくけど、おねえのは着られないよ?」 昔ならいざ知らず、今はおねえの身長を楽に越えている。 「私のじゃないから平気。」 じゃあ誰のなんだと聞きかけて、僕は口をつぐんだ。 なんだかおかしい。 そもそも富山に行くこと自体、もとから計画してあったみたいだ。 夜行バスの切符だって、前から用意していたのだろう。途中で買いに行くそぶりもなかった。 ぼんやりと池袋の街をみているおねえは、どこか質問を拒絶してるみたいに見える。 バスはまだしばらく来ないだろう。手持ちぶさたになった僕は、携帯を取り出した。明日と念のため明後日のバイトを代わってくれと友人にメールする。3分もかからずに震えだした携帯には『デートか??』と妙に嬉しそうな文字が浮かんでいた。冗談ではない。 「誰とメールしてるの?」 返事をしようと思ったところでおねえが僕の携帯を奪い取った。 「友達だよ。明日のバイト代わってもらったんだ。」 「そっか。ユズルにも付き合いがあるか。」 そういいながら、僕の携帯を自分のコートのポケットにしまいこんだ。 「それ、僕の携帯なんだけど。」 「バイト代わってもらえたんなら、もう用はないでしょ? それとも他にも用があるの?彼女でもいる?」 僕はすごすごと引き下がり、バスが来るのをひたすら待った。 |