旅は道連れ 世は情け |
2 おねえは僕と目を合わせるのが嫌なのか、横を向いたままだ。 ゆるくカールした髪の向こうに、少しふくらんだ頬が見える。 春になったとはいえ、夕方になるとまだ肌寒いのに、外にどのくらいいたのだろう。 ・・・・・・いやいや、同情してはいけない。 「おねえ」 僕はつとめて冷たい声を出した。 「コンジョウの別れって意味わかってる?」 「わ、わかってるよ。生きてる間はもう会えないって事でしょ。だからお別れを言いにきたんじゃない」 「そう、じゃあさようなら」 おねえを放置し、家に入ろうと門扉を開けた僕の腕をおねえは慌ててつかんだ。 「ちょ、ちょっと、冷たいんじゃないの?」 「そんなことないよ。今生の別れなんでしょ?もうさようならもしたし」 「普通、ひきとめたりするもんじゃないの?」 しなくたって、どうせ帰ってくるつもりじゃないか。 僕は旅行カバンをちらりとみた。そこまで大きな荷物ははじめてだ。 遠出でもするつもりなんだろうか。 「どこにいくの?」 「あら、知りたいの?」 おねえはにっこりと笑った。ひっかかったといわんばかりだ。 「・・・・・・やっぱり、いいや。僕今日は疲れたから早く寝たいし」 昨日飲み会があって、ほとんど徹夜したまま授業を受けてきたのだ。おかげで授業もほとんど聞いていた覚えがない。 おねえは手を離しよろよろとよろめいた(いや、ふりをしただ。ごまかされてはいけない) 「ユズルは小さい頃はもっとかわいかったのに。散々遊んであげて、手作りお菓子もたくさんあげたのに、なんでこんなに冷たい子になっちゃったのかしら。」 人が信じられなくなったのは、おねえのせいだと思うのだが。今まで僕にしてきたことを何だと思っているのだろう。 日暮れ前、公道に面した僕の家の前は、当然のように帰宅する人の姿が多い。 彼らは泣きまねをするおねえと僕を見比べ、僕のほうを見て、「ひどい奴だ」という顔をする。 誤解だ。 僕は断じて何もしていない。 それでも今おねえを振り切って家にはいったら、この辺りに変なうわさがたちかねない 家にさっさと入ってしまえばよかったのだが、もう今更入れなくなってしまった。 一度開けた門扉をガシャンと閉める。 「ユズル?」 上目遣いに僕を見る目は、案の定涙のかけらすらなかった。 「わかったよ、行けばいいんでしょうが。」 「やっぱりユズルはいい子ね。はい、これよろしく。」 どさりと旅行カバンを渡される。それなりに重い。何が入っているのだろう。 「何で僕が持つの。」 「じゃあずっと私に持たせるつもり?」 これ以上の抵抗は無理だ。僕はあきらめてカバンを持った。 |