旅は道連れ 世は情け

 
「あんたにコンジョウの別れを言おうと思って待ってたのよ」
そういうとおねえは旅行カバンを手に持ってそっぽを向いた。

思えば最初に情けをかけたのがまずかった。
おねえは僕の隣の家に住む、5歳年上のおさななじみだ。
本当の名前を宮下楓というが、その名前で呼んだことはあまりない。
小さい頃から何かというと声をかけて遊んでくれた。
「お菓子つくったから食べてくれる?」とクッキーやらチョコレートをもらった時は、
「なんて優しいお姉さんなんだ!」と感激したものだ。
弟しかいなかったから、女きょうだいというものに幻想を抱いていたのかもしれない。
中学、高校と進むにつれて、遊ぶことは少なくなったけれど、
隣同士のよしみで、会えば簡単に話くらいはしていた。
おねえが就職したと聞いたときには、就職祝いを贈ったし、僕の大学合格を聞いたおねえは、
僕に図書カードをくれた。
まあ、その程度の付き合いはあったのだ。
それが変化したのは、去年の夏。
バイトから帰る途中、駅に向かって猛然とダッシュしていたおねえに会ってしまった。
たそがれ時でよく見えないけれど、目が赤いような気もする。
なんだか良くわからないが、ただ事ではない。
「おねえ?」
僕の声におねえは足を止めた。
「ちょうど良かった。ユズルくん(僕の名前だ)にもお別れを言わなくちゃって思ってたの。」
「・・・・・・はい?」
なんのことだ。
「何があったのさ。」
おねえはぷいと横を向く。
「もう、ここには戻ってこないから。」
それは答えになってない。
「親と喧嘩でもしたの?」
おねえは冷たい視線を僕に投げるとすたすたと歩き始めた。はずれだったらしい。
僕は慌てておねえの後を追った。
「とりあえず、理由聞かせてよ。しばらくつきあうからさ」
「ほんとに?」
まあ、ユズルならいいかという独り言が聞こえた気もする。
そのまま僕は、夜の街へと連れて行かれた。
アーケードゲーム、飲み屋、カラオケ・・・・・・。
理由を聞く僕をはぐらかし続け、おねえは朝まで僕を連れまわした。
どこからそのパワーが出てくるのか不思議なほどだった。
その挙句、疲れ果てた僕の横でおねえは、
「さて、帰ろうか」
と涼しい顔して言ってのけた。もう戻らないんじゃなかったのかと言うツッコミをする気力すら僕にはなかった。
それでも、元気になったんだからまあいいか、と思っていたのだ。

ところが。
それ以来おねえの家出(?)に付き合わされること3回。
道の途中で会うならともかく、最近は家の前で待ち伏せしている。
しかも毎回、グレードアップしている気がする。
ちなみに前回は中華街食い倒れツアーだった。
高そうな中華料理屋から屋台のアイスクリームまで付き合わされた。
今度は一体何だ。

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