MMORPG パチンコ 求人

Act 2

約束の時間より30分ほど遅れて、優希は店に着いた。
「ゴメン、ゴメン。 面接が長びいちゃって」
「遅いじゃない! 優希から誘ったくせに」
久しぶりに見る友の顔に気持ちが軽くなるのを感じる。
「こんばんは」
店に入った時は慌てていたため、未来の隣に連れがいたことに気付かなかった。
「明美! よく出てこられたじゃない? びっくりしちゃったわ!」
「未来から電話もらって。 親友の一大事だからって、子供達を実家に預けてきちゃった」
学生時代からの友人後藤明美が思いがけず同席していたことが、優希にはうれしかった。
「職探しか……。 で、どうだった?」
姉御肌の未来が手早く料理のオーダーを済ませ、優希達に向き合う。
「全然ダメ……。 話は聞いてくれるんだけど、専業主婦だったてだけで断られちゃう」
「優希がダメなら、こぶ付きの私はもっとダメってことか……。 間違ってもダンナとは離婚できないわね」
沈みがちな場の雰囲気を盛り上げようと、明美がおどけてみせる。
「確かに難しいかもね。 うちでも中途採用は少なくなったし」
わかっていたとは言え、未来に現実を突き付けられたようで、優希の心は沈んでいく。
「今夜はせっかく3人が揃ったんだから、美味しいものを楽しまないと」
「そうよ、未来の言う通り。 悩むはの明日からにして、今夜は優希の新しい出発に乾杯しましょうよ」
旧友の励ましに優希は感謝した。
英則との離婚に向けての話し合いや就職活動に気の休まらない日が続いている。
子供はいないが専業主婦だった優希。
二人の子育てに追われる明美。
独身でキャリアウーマンの未来。
それぞれ環境も変わり、三人で揃うことは少なくなったが、やはり昔からの友人は気がおけず、心が休まる。
これからのことを考えると不安は大きいが、なんとかやっていけそうな気がした。
「明日と言えば……。 明日、誠吾に会うことになった」
「どうして?」
優希は誠吾から渡された名刺を明美に見せた。
「明日の一時に来いって」
明美が興味深そうに名刺を取り上げる。
「ふーん。 "タダ・フラワーファクトリー"って書いてあるけど、誠吾って何しているの?」
「さぁ?」
優希だって10年ぶりに再会し自分の近況は話したものの、誠吾の話は聞いてない。
「二人とも知らないの? フラワーデザイナーとしては、ちょっとは有名なのよ」
「フラワーデザイナーって花を活けこむんでしょ?」
「フランスで修業して5年前に帰国したんだって。 うちの雑誌でも何度か特集したし……」
「未来、知っていたんだ?」
優希は明美と顔を見合わせ、呆気に取られた。
「先月、アシスタントが一人辞めたって言っていたから、優希のこと雇う気かも」
「そんなんじゃないわよ。きっとなつかしかっただけ……」
未来の横顔が気になる。
私の知らない誠吾を知っているのに、何故、なにも教えてくれなかったのだろう。
もう一度未来の横顔を見ながら、優希はそう思った。
けんか別れした訳じゃないけど、誠吾の元で働くことには多少の抵抗がある。
誠吾に呼ばれた理由が、未来の言う通りでないことを、心の中で願っていた。
誠吾の話題を打ち切り、取りとめのない話を楽しんでいると、時間はあっと言う間に過ぎていく。
別居前から囚われていた孤独感も、将来が見えない焦燥感も上等のワインに流される。
旧友との語らいが新たな希望を育み、満たされていく「生きること」への思い。
「離婚」と言う選択が、新しい自分自身を作り上げていくであろう。
久しぶりに得られた楽しいひとときを抱きつつ、家路につく。
翌日、誠吾との面会に一抹の憂うつさは残るが、心安まる時間を過したことで、ぐっすりと眠りにつくことができた。
こんなに穏やかに寝たのは、いつ以来だろう。
朝日が眩しくて目覚めた朝は、いつになく快かった。
服を選ぶのにも、化粧をするのにも、心が浮きだっているのがわかる。
鏡の中の自分に問いかけてみた。
「心が晴れやかなのは、昔の恋人に会うせいなの?」
「違う」と否定しない優希がいることを、はっきりと感じた。

( 2007/1/23 )

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