私のベットの3倍はあるんじゃないかって思うくらい広いベットで、私は目覚めた。
あっ……私、気を失っていたのか……。
気がついた時、つくしさんが私の手を握っていた。
「あら? 気がついた?」
「……私?」
「ビックリしすぎて、気を失ったの」
そう言えば、一馬達が来たと思ったら、樹が現われて……。
とぎれた記憶を繋ぎ合わせた。
「ごめんなさいね。 驚かしてしまって」
「あの……、樹は?」
「私達の息子よ」
申し訳なさそうなつくしさん。
「ホント、バカ息子なんだから」
「……樹は、どうして日本に?」
「司が呼びつけたらしいわ。 もぉ、司ったら」
道明寺さんが時間を気にしていたのは、このためだったのね。
「つくしさんには……、道明寺さんも、私と樹のこと、知っていたんですか?」
「司は、ずいぶん前から知っていたみたい」
「道明寺さんが?」
「私は昨夜、司から教えられたけど。 まさか、麗ちゃんの彼氏が樹だとは思わなかったわ」
私だって、樹のご両親が道明寺さん達だとは思わなかった。
「樹は、私達に何も話さなかったけど」
「じゃあ、どうしてわかったんですか?」
「昨夜、麗ちゃん、司を見て『誰かに似ている』って呟いたでしょ?」
そうだ。
今までも、道明寺さんの優しい笑顔を見るたび、誰かに似ていると思ってた。
樹だったのか……。
そっか、親子なら似ていて当り前だよね。
「気分はどう?」
「もう平気です。 あの……樹は、どうしてますか?」
「私達の部屋にいるわ。 今頃、司に睨まれて小さくなっているんじゃない?」
「松岡先生や家元は、どうしてここに? もしかして……つくしさん達だけじゃなくて、松岡先生もご存知なんですか?」
「……多分」
一馬から聞いたのだろうか……。
「どうして、樹は牧野なんて名乗っているんでしょう?」
「さあ……どうしてかしら? 樹が牧野を名乗った理由は、本人に聞くしかないんじゃない? 樹をここに呼びましょうか?」
「いえ……大丈夫です。 皆さんのところに戻れます」
少し足元がふらつくけど、つくしさんと元いた部屋に戻った。
まだ動揺が静まらない。
でも、どういうことなのか、樹からちゃんと聞かなくちゃ。
部屋の中は重苦しい雰囲気が立ち込め、その中で、樹が道明寺さんに、一馬が家元に、それぞれに睨みつけられて小さくなっている。
くすっ、まるで叱られた子供みたい。
樹が私に気がついて、傍に駆け寄ってきた。
「……麗、大丈夫か?」
「うん……」
「ごめんな。 麗、ごめんな……」
大学にいた時も、二人で一緒にいた時も、樹はいつだって自信に溢れていて、こんな弱々しい樹を見るのは、初めて。
「ごめんな……。 隠すつもりはなかったんだ……」
「くすっ、まるで浮気がバレた時の言い訳みたい」
樹の顔を見ていたら、さっきまでの動揺が嘘のように落ち着いてきた。
いつもの俺様振りもどこへやら、小さくなって青ざめてる樹を抱きしめてあげたいと思う。
やっぱり私……樹が好きなんだ。
「俺は……。 俺はただ、一人の男として……麗と付き合いたかったんだ……」
消えそうな声で呟く樹。
「だからって! 素性を隠したまま、結婚を申し込むなんて、どういうつもりなの!」
つくしさんの剣幕に、その大きな身体をさらに小さくしている。
つくしさんも怒ると怖いんだ……。
「樹、あなたの気持ちはわからない訳じゃないけど……女の子にとって、結婚は大事なことなのよ。 それなのに!」
道明寺さんが『静の怒り』なら、つくしさんは『動の怒り』。
「あなた、自分が道明寺家の跡取りだって、わかっているの? 樹には、私達のような思いはさせたくないから、あなたの結婚に反対はしないつもり。 だからって、嘘をついたままプロポーズするなんて、許す訳にはいかないわ!」
「言えなかった……。 本当のことを話したら、麗を失いそうで……」
つくしさんの怒りの前で、消え入りそうに小さくなっている樹。
何も話してくれない樹に、愛されてないのかもって、不安になった夜もあったけど。
大事に思っていてくれていたんだ。
「麗! 樹のせいじゃないんだ。俺が……」
一馬のせい?
どういうこと?
「ちゃんと話して」
樹と同じように、小さくなって青ざめている一馬。
「俺が……。 俺が麗に樹を紹介した時……つくしおばさんの旧姓を教えたんだ。 だから……おばさん、樹を叱らないで」
「一馬くん、どうしてそんなことを?」
「……樹が雅と付き合っていなかったら……あんなに傷つかなかったら……」
雅さんが原因だと言うの?