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Act 13

迷いのないつくしさんの瞳に映し出される道明寺さんへの愛。
私が抱えている不安とは次元が違う。
「麗ちゃんは、彼と離れていることが不安なの?」
「離れている実感がないって言うか……」
「何が不安なの?」
「仕事を辞めてNYに来いって言われた時、彼の決めたことを受け入れてない自分に気がついたんです」
「それが不安の原因?」
「なんでも彼が一人で決めてしまう。 付き合い出した時も、NYに行った時も、彼が決めたことに従うだけ」
「仕事を辞めてNYに来い……か。 まるで司みたいね」
「……道明寺さんですか?」
「俺がどうしたって?」
ぎゃあ!
いきなり道明寺さんが現われて、息が止まりそうになった。
ええ?? まだ夕方の5時を過ぎたばかりだよ?
秒単位でスケジュールをこなす立場の人が、こんな早い時間に帰宅なんてあり得ない。
まさか、私のため?
「お帰りなさい、司。 早かったのね」
「ただいま」
そう言ってつくしさんに優しくキスをした。
私がいるのにキスをしている。
はぁ〜、昨夜からお熱いところを見せつけられて、言葉を失ってしまった。
見ている私のほうが照れちゃうよ。
「司、麗ちゃんが驚いているわ。 早く着替えてきたら?」
道明寺さんが部屋から出ていくと、つくしさんが悪戯っぽくウィンクする。
「ビックリした?」
ビックリしない訳ないでしょう?!
冷静沈着で、日本の財界を背負う経済界のトップリーダーと言われる男。
そんな人が人前で奥さんとキスするなんて。
ギャップありすぎだよ!
「あっ……、私の知っている道明寺さんとは別人みたいで」
「別人かもよ、ふふふ」
別人か……。
「つくしさんと道明寺さんって、仲が良いんですね」
「私も結婚するまで人前でキスをするなんて考えられなかったのよ」
「えっ? 結婚して、何かが変わったんですか?」
「ん……、変わったと言うより、振り出しに戻ったて感じかしら?」
振り出し?
私には、つくしさんの言葉が理解できない。
きっと、不思議そうな顔して考え込んでいたのかな。
つくしさんは、くすくすと可笑しそうに、私を見ていた。
「待たせたな」
私の思考を遮るように、着替えを済ませた道明寺さんがつくしさんの隣りに座った。
「昨夜はすみませんでした。 私、酔っぱらっちゃって……。 道明寺さんの顔に泥を塗ったんじゃないでしょうか?」
「気にすることはねぇ」
いつものスーツ姿じゃなくてカジュアルな服のせいか、道明寺さんの表情が見慣れているものと違う。
端整な容姿は変わらないのに、いつもの強烈なカリスマ性を感じない。
目の前にいるのは、財閥の総裁でもなんでもない『ただの男』。
昨夜もそうだったけど、つくしさんといると道明寺さんって『ただの男』になっちゃうんだ。
普段なら道明寺さんと一緒にいると少なからず緊張するのに、今はこの空間が心地良い。
二人を見ているだけで幸せな気分になれる。
私も樹とこんな夫婦になれたら良かったのに。
もう遅いかな……。
「で、何が俺みたいなんだ?」
「麗ちゃんの彼氏はね、なんでも一人で決めちゃうんだって」
意地悪っぽく微笑むつくしさん。
「強引なところが司みたいでしょ?」
道明寺さんは照れたようなバツの悪そうな顔をしている。
「おい……まだ根に持っているのか? 30年も前のことなのに」
呆れたようにつくしさんを見ていた。
二人の間に何があったかわからないけど、もしかして、つくしさんも私と同じ思いをしたのかな?
「司の我がままで俺様のところは、今でも変わらないでしょ?」
「余計なことを言うな!」
拗ねた道明寺さんって……激レア?
俺様か……樹にもそういうところあるかも。
樹って道明寺さんに似ているような気がする。
道明寺さんとつくしさんに、樹と私を重ねてみた。
自分自身に結婚願望があるとは思わないけど、二日前まではこういう結婚生活を夢見ていたのに……。
ううん、今も夢見ているんだ、きっと。
まだ、やり直せるチャンスはあるんだろうか?
「ところで、俺達に相談って、昨夜話していたプロポーズのことか?」
ふいに声かけられて、直視したくない現実に引き戻された。
「相手は、どんな男なんだ?」
「一馬の幼なじみとして大学1年の時、紹介されました。 第一印象は最悪だった。 すっごくエラそうで。 一馬もそうだったけど」
道明寺さん達が顔を見合わせている。
「我がままで強引で、だけど本当は心の優しい人です」
樹のことを、こんなふうに誰かに話すのは初めてで、少し照れくさい。
いったい、私はどうしたいんだろう。
道明寺さんとつくしさんから、どんな答えを待っているんだろう。

( 2006/12/5 )

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