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Act 12

私に会うことを楽しみにしていていたと言うつくしさんの言葉に、背筋が冷たくなるのを感じる。
「私の若い頃に似ている女の子がいたって、すごく機嫌の良い日があってね」
「も、もしかして…?」
優しく微笑んでいるけど、それって、あの日のこと?
「それって……パーティの日のことですか?」
「ええ。 慣れないパーティで怒鳴られて脅えた姿に30年前の私を思い出したって。 会場から連れ出したんですってね」
「30年前の……つくしさん?」
「司の18の誕生パーティで初めて会ったお義母様の凄みに脅えちゃってね。 司に引き摺られるように、その場から逃げ出したの」
懐かしそうに笑っているけど、私のほうは冷や汗が出そう……。
「あの時は、いきなり怒鳴られて、どうしていいのかわからなかったから……。 思い出すのも恥ずかしいです」
「大丈夫ですよ。 慣れちゃえば、パーティも怖くないから」
「はは……、そんなもんですか……?」
笑い方が引き攣っている、私……。
「それから、麗ちゃんと食事に行った日は、司の機嫌が良くてね。 私達に娘がいたらっていつも麗ちゃんのこと話してくれたの」
「道明寺さんとつくしさんが親だったら、すごく素敵ですよ」
「あら、そう? 息子は嫌がっているけど?」
「贅沢ですね」
「うふふ、誰に似たのかしら?」
おどけて道明寺さんを腐肉るつくしさんに、今まで以上の親しみを感じた。
「パーティに出る機会もないし、慣れることもないような気がします」
「あら? 麗ちゃんの彼氏さんはJrだって聞いたけど。 パートナーになることもあるでしょ?」
「仕事のことは良くわからないので」
道明寺さんと初めて会ったパーティで樹に似た人を見かけたけど、樹がそういう所に出たなんて聞いたことない。
私って、本当に樹のこと知らないんだなぁ……。
「結婚したら、パーティに出る機会も増えるから、すぐ慣れるかもね」
「パーティは苦手です」
大袈裟に溜息をつきながら呟く私に、「私もよ」っと、肩を竦めておどけたように微笑むつくしさん。
だけど、その顔に陰りが見えた気がする。
まずいこと言っちゃったかな……。
真っ直に向けられるつくしさんの視線が痛い。
一瞬の沈黙だったのに、すごく長く感じた。
「麗ちゃんは、結婚に迷いを感じているみたいだけど」
「……はい」
つくしさんは、また何かを考えている。
その沈黙の時間が怖くて、私が聞きたかったことを思いきって尋ねた。
「つくしさんは、道明寺さんと結婚する時、迷いはなかったんですか?」
「私?」
「だって、世界でも有数の財閥の御曹司との結婚なんて、いろいろ大変そうじゃないですか?」
「そうね……。 大変だったけど自然の流れだと思ってたわ。 私より司のほうが大変だったと思うし。 結婚を反対されないように6年も頑張ったから」
『自然の流れ』という言葉の持つ重み。
二人で生きていくために過した6年という月日に、さらに重みが増す。
それに比べて、私は樹のことを何も知らずに、二人のために何もせず、4年という月日を過してた。
「昨夜、私に離れていて不安じゃなかったのか、そう聞いてたわね?」
つくしさんは不安だったと答え、その答えに道明寺さんはショックを受けていた。
「私の答えは意外だったみたいだけど」
「はい……。 なんとなく……」
そう。
つくしさんが不安だった理由が、道明寺さんに対する自分の気持ちだったと聞いて、私はビックリしたのだ。
「相手の心変わりを心配するならわかるけど、自分の気持ちに不安になるなんて……」
「司の熱愛報道は毎週のように伝えられたし、そのお相手も毎回違うし。 政略結婚の噂も絶えなかったから、考えてもキリがなかったのよ」
道明寺さんが高校時代からF4と騒がれ注目の的だったことからも、想像できる。
「それでも、道明寺さんを信じていられたんですね?」
「司は、私が幸せにしてあげたいと思った唯一の人だった。 だから、"二人で生きていくため"、それだけを考えて、お義母様に出された課題を熟すことで精一杯だったの」
二人で掴んだ幸せか……。
「私と司の間で"結婚"って言葉が出たのは、17の時だったわ」
「17才?」
「優紀が言っていたでしょ? 女の子なら誰だって結婚に夢を持つと同時に不安を抱えるって」
「……はい」
「まだ高校生だった私には結婚への夢もなければ不安もなかった。 だって、結婚そのものが考えられないでしょ? それなのに『俺ら結婚しねえ?』って司に言われた時は、"また道明寺が馬鹿なこと言ってる"ぐらいにしか思えなかったの」
笑いを堪えながらも懐かしそうに話すつくしさん。
美作さん達から聞いた道明寺さんとつくしさんの恋愛話は、ジェットコースターみたいで劇的でロマンチックで、だけど切ない恋。
「私の家はね、普通のサラリーマン家庭で、けして裕福じゃなかったし、英徳に行けるような家じゃなかったの。 それに比べて、司は財閥の跡取として育って、 二人が釣り合わないことは一目瞭然だった。 今なら、あの時お義母様が反対したのも理解できるけど、まだ幼かった私達は"好きだ"と言うだけで一緒にいたいと思ってたのね」
インタビューの時、「俺達は若い頃いろいろあったから」そう言った道明寺さんの気持ちが理解できる気がする。

( 2006/11/26 )

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