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Act 7

偶然を神様のいたずらと言うなら、今の私に起きている偶然の数々は神様の嫌がらせなのだろうか?
嫌がらせされるほど悪いことしてないつもりなのに……。
少しずつ狂っていく人生の歯車は、いくつものサプライズと共に、ジグソーパズルのピースに形を変え、その完成の時を待っている。
道明寺司との出会いも偶然だった。
あの時、ぶつかっていなかったら、彼と話す機会などなかっただろう。
そして今、道明寺司を通じて、友人の両親、尊敬していた人、財界でその名が知れた人たちと出会えた。
道明寺司と出会ったことで、私は少しずつ変っていく。
何より、今日の道明寺つくしとの出会い。
たった数時間しか過っていないのに、私はつくしさんから目を離せなくなっている。
道明寺さんの「パワーの源」って言った理由も少しだけわかる。
世界にその名を轟す財閥のトップを「ただの男」に変えてしまうほどの魅力を持った人。
そして、愛しい人に向けられる笑顔は周りの人全てを幸せな気分にしてしまう。
憧れちゃうな……。
「なぁ……? 樹から連絡あるのか?」
急に、一馬がぽつりと言う。
「月に一回くらい電話があるけど、仕事と学校で忙しいみたい」
「樹、何か言っていたか?」
「昨夜は、道明寺社長へのインタビュー前で緊張しているだろうからって心配してくれた」
「それだけ……か?」
一馬が言いたいことは、何となくわかっている。
樹がNYに行くと言った時のわだかりを残していることを知っているから、気にしているのだろう。
学生だった私には、どうして樹がNYに行くのか理解できなかった。
今でも良くわかっていない。
樹も、特に理由を告げなかったから。
受け入れられないまま、胸の中にもやもやを残して、樹の背中を見送った私。
幼かったあの頃。
一緒にいたくて、離れていることが不安で、それでも樹には何も言えなかった私。
心のどこかで、樹には親の跡を継ぐというレールが決まっていて、そのレールの上を歩くという樹の宿命を、なんとなく感じていたのかもしれない。
確かに、樹を好きだったし、遠距離恋愛になることが別れる理由にはならなかった。
だから、微妙な気持ちを抱いたまま、遠距離恋愛を始めたことになる。
終点の見えている恋だったからできた選択だったと思う。
時間に流されていた私と違って、樹ははっきりとした目標を持っていたようだ。
そして、その一つが結婚。
樹が大学院を卒業したら……いつしか、二人にとって暗黙の了解となっている。
私には現実味のない未来。
「ねえ? 道明寺さんとつくしさんって、いつもあんな感じなの?」
一馬は、突然の私の質問に驚いている。
「ほら、道明寺さんはずっと腰に手を回してつくしさんから離れないし、ときどきキスとかしちゃうじゃない?」
「あー、俺がガキの頃からそうだから、気にも留めてなかったけど」
「私が知っている道明寺司とは、まるで別人なんだもん。 ビックリしちゃうよね?」
「俺は、仕事中の司おじさんを知らないけど」
「そっか……。 あの二人を見ていると結婚も悪くないと思えない?」
「はぁ? 急に何言い出すのかと思えば」
「一馬のご両親だって、道明寺さん達ほどじゃないけど、ラブラブじゃん」
「ああ……、時々見ているこっちが恥ずかしくなる」
うんざりって顔する一馬がおかしい。
「お前、なんだよ? 急に」
「ん、んん……」
いつも私なら、言葉を飲み込んで、何も言わなかっただろう。
アルコールが助けたのか、抱えている思いに耐えきれなくなったのか、その言葉は簡単に口から出た。
「……ん……昨夜、樹にプロポーズされた……」
「プロポーズ!?」
皆が一斉に私達のほうを見る。
もぉー、一馬ったら声大きすぎ……。
「どうしたの? 一馬くん?」
滋さんが心配そうに、一馬の顔を覗いた。
「あっ、いや……麗がプロポーズされたなんて言うから、驚いちゃって……」
「麗ちゃん、プロポーズされたの? 彼氏に?」
「……はい」
「で、返事したの?」
私は、小さく首を横に振った。
「ち、ちょっと、滋おばさん。 ここでそんな話しなくても……」
一馬がすごく慌ててる。
「迷っているんだ?」
「あー、桜子おばさんまで……」
慌てふためき、頭を抱えている一馬を尻目にアルコールが入っていたせいか、自分でも信じられないくらいに、ペラペラと喋り始めた。

( 2006/9/27 )

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