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Act 6

「おい、司! 麗ちゃんって、あのパーティの時の子か?」
「そうだ」
「えっ、美作さん、あそこにいらっしゃってたんですか?」
家元のおかげで少し気も楽になり、旧友の到着を待つ間、談笑しながらしっかり取材のアポを取りつけた。
あは……社長賞間違いなし!
適度なアルコールにも助けられて楽しかった所に美作さんの一言は、一瞬心を凍せた。
別に悪いことをした訳じゃない。
だけど、恥かしくなる。
世間知らずだった自分を知られてる恥かしさ。
「あの時は災難だったね。 後藤物産の専務はしつこいから」
「なんだ? アイツ、専務だったのか?」
私を気使っているのか、興味ないって口ぶりの道明寺さんに対して、美作さんは面白がっている。
「アイツ、司の機嫌を取りたかったのに、反対に一喝されて、スゴスゴと引揚る時の顔ったらなかったぜ。しかし、司も大人になったよなぁ〜。 昔だったら暴れていただろうに」
美作さんは可笑しくたまらないって感じで、笑いを押し殺している。
「暴れていた?」
噂には聞いたことあるけど、本当だったのか……。
「コイツはガキの頃から凶暴で手がつけられなかったのさ……。 牧野と出逢ってなかったら、どんな大人になっていたんだか……」
懐かしそうに話す美作さんに、道明寺さんは「余計なこと言うな」って言うだけだった。
だけど、私はしっかり見ていた。
道明寺さんがバツの悪そうな顔をしていたことを。
そ、それより、牧野って、誰?
「牧野……?」
まさか、樹の親戚とかじゃないよね?
いくらなんでも、そんな偶然続く訳ないか。
なんでこの時、こんな楽観的な考えしかできなかったんだろう。
後悔しても遅い。
「あっ、つくしの旧姓だよ。 このメンバーで集まると、つい昔のクセが出る」
バツが悪そうに笑う美作さんの言葉に納得してしまった。
今、私の目の前にいる8人は、高校時代の自分に戻っているんだね。
年齢も、肩書も、立場も忘れて、30年近い月日に色褪ることなく笑い声の絶えない友情が続いている。
素直に羨ましいと思う。
自分でも気がつかないうちに、道明寺さんとつくしさんを目で追っていた。
美作さんが、二人は高校の頃からつき合っていたと言っていたけど、今でも仲がいい。
二人が見つめ合っている姿を見ていると、私も幸せな気分になる。
結婚か……。
私は、どうする?
昨夜のことを考えていると、店の人が一馬の到着を知らせてくれた。
一馬が面倒くさそうに、家元に文句を言っている。
「親父、なんだよ? いきなり呼び出して」
その悪態ぶりが、学生時代と変らずでおかしい。
笑っている私を見つけて驚いた顔をした。
「ふふ、やっぱり驚いた? 1年ぶりかな?」
「あっ! 麗? なんで麗がいるんだ?」
「道明寺社長に連れてこられた」
「司おじさんに?」
「今日、道明寺社長のところに取材で行ったら、奥様に会わせたいって」
「お前、司おじさんと知り合いなの?」
「うん、仕事が縁で……」
一馬は「ふーん」と言ったまま、何かを考え込んでいる。
「でも、まさか一馬のご両親に会うなんて思わなかったわ」
「俺もビックリしたよ。 親父に仕事以外で呼び出されるなんて初めてだから」
「やっぱり、お家を継ぐんだ?」
「いろいろ反発したこともあったけど、お茶のない世界は考えられない。 親父達見ていると茶の世界も悪くないって思えてさ」
「そう言えば、松岡優紀先生って一馬のお母さんなのね? 私、高校時代からファンで松岡先生の影響でお茶を始めたのよ」
「子供の頃から西門流の跡取だの言われるの嫌だったし、おふくろもいつの間にか"ティースト"なんてわけの判らない肩書きになって、松岡先生なんて呼ばれるおふくろが嫌だったから、人に言わないんだ」
だから、初対面のときあんな態度だったんだ……。
「私には縁のない悩みね」
「大学はともかく、英徳の高等部にいたころは、誰でも一度は考えたと思うよ。 跡取という親の敷いたレールを歩くだけでいいのかって。 樹だって、随分悩んでいたし」
高校生だった樹って、どんな感じだったんだろ?
「一馬のお父さんや道明寺社長って、高校の頃から仲が良かったんだってね?」
「……麗、F4って知っているか?」
「F4って、英徳伝説のF4?」
伝説のF4……大学に入って最初に耳にした言葉だった。
"今年の新入生に伝説のF4の子供がいる"
入学式の日、講堂で他の新入生が話していた時、出て来た言葉だった。
幼稚舎からの幼なじみで、容姿抜群の財界ジュニアの4人組。
20年前以上の話だと聞いていた。
「そ、あそこにいる4人が伝説のF4。 俺の親父、司おじさん、おきらおじさん、類おじさん。 幼稚舎からのつき合いだよ」
「伝説の……F4……」
「麗ちゃん、F4を知っているんだ?」
美作さんに声かけられた。
「あっ、一応英徳大生でしたから。 噂だけですけど」
「へえ、麗ちゃん、後輩か? 司、知ってた?」
「いや、初めて聞く」
あれ? 道明寺さん、変だ。
いつもの道明寺さんとも、さっきまでの道明寺さんとも違う。
何か隠してる?
気のせいかな……。
F4……か。
樹はF4の名前が出ると機嫌が悪くなるから話題にしなかったけど、伝説化されるほど有名だったもんね。
まさか、実物に会えるとは……。
本当に、今日は驚かされることが多い。

( 2006/9/12 )

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