道明寺さんが美形集団を一人一人紹介してくれる。
「こっちから、美作商事社長の美作あきら」
美作って、総合商社のあの美作商事?
「あきらの奥さんで、大河原コーポレーション社長の美作滋」
「麗ちゃんね、よろしく!」
この人の噂は聞いたことがある。
すごいヤリ手の女社長だって。
「花沢物産社長の花沢類」
確か藤堂商事の社長も兼任していたはず……。
イメージしていたより、優しい感じね。
ビー玉みたいな目がキレイ。
「桜花グループ社長の三条、いやもう青池桜子だな」
あっ、次のインタビュー候補にあがっていたっけ。
アポ取れるとラッキーなんだけど。
いや、仕事のことは忘れないと。
「桜子の旦那を合せれば、5回分のアポが取れるだろ?」
可笑しそうに道明寺さんは笑うけど、すごすぎない? このメンバー。
5回分のアポ取ったら、社長賞で金一封が出るかも。
って、仕事のことは考えちゃだめ!
でも、桜子さんのご主人もすごい人なのかしら??
「あの……、桜子さんのご主人って……?」
「青池コーポレーションの社長」
ああっ……聞かなきゃよかった……。
"類は友を呼ぶ"って言うけど、これだけ揃うと見事って言うしかないよね。
超がつく一流企業だし、おまけに美形揃いだし。
「で、こっちが麗が尊敬しているって言っていた松岡優紀と旦那の西門流家元、西門総二郎だ」
「おい、それじゃ俺がおまけみたいだろ!」
拗ねた口調だけど目は笑っている。
「す、すみません……。 道明寺さん、そういうつもりで言った訳じゃないので……」
テレビや雑誌にほとんど姿を見せない松岡先生は、地味な感じがしていたけど、実物は淑やかな人だった。
ご主人がそばにいるせいなのかな……控めだけど華やかさが滲み出ている。
あれ? 西門流って、茶道の西門流のことだよね?
……もしかして、一馬のご両親?
「ま、司にしちゃ、まともに紹介できたんじゃないの」
美作さんの突っ込みに「うるせー」と言いながら顔を赤らめる道明寺さんに、思わず笑い出しそうになっちゃった。
「でも、松岡先生にお会いできるなんて、光栄です。 先生の本の読んでから、私もお茶にはまっちゃって」
「まぁ、うれしいわ。 "たかがお茶、されどお茶"だけど、奥が深いの」
はにかんだ風に家元を見ている。
いいな……こんな感じ。
夫と妻が一つのものを通して、互いに理解し合っている。
そういう感じがする。
それにしても、改めて場違いな私を感じちゃうよ。
「道明寺さんも意地悪ですよね? 松岡先生とお知り合いなら、もっと早く教えてくれればいいのに……」
「優紀は、つくしの中学からの親友で、ま、縁あって俺と結婚したけど、つくしから紹介させるつもりだったんだろ、司は。 アイツはそういうとこ、意外と気にするから」
へぇ〜、本当に意外だ。
友達やつくしさんを大事に思っているからできる心くばりかもしれない。
でも道明寺さん、私が松岡先生を尊敬しているって話したこと、覚えていてくれたんだ。
なんか、照れくさい。
「しかし、司が若い女の子を連れてくるとは、驚いたね。 麗ちゃんはいくつ?」
「24です」
「うちの息子と一緒か?」
「道明寺さんの息子さんと同い年で、娘ってこんな感じなのかって、可愛がってくれるんです」
「司のとことうちは子供達も一緒だし、司のところは一人息子だからな」
「……あの? もしかして、息子さんって西門一馬ですか?」
「麗ちゃん、一馬のこと知ってるの?」
「大学時代からの友人です。 最近会ってないけど」
「じゃあ、い……」
家元が何かを言いかけた時に、松岡先生が羽織の袖を引っ張った。
「一馬をすぐここに呼びなさい。 あっ、麗ちゃんのことは内緒にして……な」
悪戯を企むような顔した家元にそう言われ、松岡先生が部屋の隅で電話をしている。
世の中は狭い。
こんなところで、友達の親に会うなんて。
しかも、尊敬する人が友達のお母さんだったなんて。
僅かな時間の中で、次々と起きることに、私の頭の中はパニック寸前で、放心状態。
「一馬でもいれば、麗ちゃんも少しは気が楽になるでしょ?」
「お気使いありがとうございます」
今日より驚くことが起き、完全にパニック状態になるなんて、全然思ってもいない私はこの時、ここに私がいて、ビックリする一馬の顔を想像しては、一人でニヤけていた。
そう……悲劇? 喜劇? どっちでもない。
多分人生最大の大芝居の幕は開けられた。
知らず知らずに、舞台の中央に私はいる。
悲劇になるのか?
喜劇になるのか?
それは、神のみぞ知っていた。