ホテル内のブティックでドレスを買ってもらい、そのまま、レストランに連れていかれた。
きっと、あのドレスは自分じゃ買えないような高価なものだったに違いない。
ホント……知らないって怖い。
周囲の仰々しい態度で、一緒にいる人間の地位くらい感じるだろうに、鈍感な私は、一向に気がつかなかったのだ。
天下の道明寺財閥の総裁と知っていたら、多分食事なんかしていない。
脳天気な私は、さっきまで気になっていた樹のことも忘れて、次々と運れてくる料理に夢中になっていた。
我ながら、色気より食い気なのね……と呆れてしまう。
「お前、美味そうに食うんだなぁ」
「だって、美味しいんですもの」
「なんか、あいつの若い時みたいだ」
道明寺さんが満足そうに私を見ていた。
気がつかなかったけど、キレイな顔している。
「お前、いくつ?」
「えっ? 24です」
「ふーん、うちの息子と同い年か……」
「ええっ? 道明寺さんって、そんな大きなお子さんがいるんですか?」
「そっか……娘がいたら、こんな感じなのか……」
一人で納得している様子が、おかしい。
次の日、大杉先輩に説教されるまで、私は"素敵なおじさま"との楽しい一時を楽しんでいた。
何も考えず、何も知ろうとせず、時間に流されていただけの私。
この一年、道明寺司という人を通して、仕事に対しての意識や自分に対しての認識が大きく変ったと思う。
はぁ〜。
取材時の緊張から解放されたのと、これから起きようとしていることに対する不安とで、大きく溜息をついた。
あっと言う間に、時計の針は6時を過ぎていて、私はあわてて玄関へ急いだ。
「すみません、遅くなりました」
「この俺を待たせた女は二人目だなぁ」
大きく笑う声に怒りはなく、私はホッとしてリムジンに乗り込む。
何回乗っても、慣れない。
「今日は、本当にありがとうございました」
落ち着かないのを隠すように話し出す私を、いつもの優しい目で見ている。
「おぅ、お疲れだったな」
昼間見た企業人としての顔を持つ男と同一人物とは思えない優しい笑顔が気持ちを楽にしてくれる。
「本当に私なんかが行ってもいいんですか?」
「気にするな。 仲間内の集まりだから」
うわっ……また緊張してきちゃったよぉ……。
青山の高級レストランに着くと、店の人がVIPルームに案内してくれた。
私って、場違いじゃないのかな……?
かなり不安になる。
「よぉ!」
道明寺さんが一声かけただけで、中にいた人達が一斉に入口に注目した。
な、な、な、なんなの? この美形集団は??
「司!遅いぞぉ!」
「悪りぃ」
奥のほうから、ものすごく綺麗な、多分この中でも一番綺麗な人が道明寺さんに近づいていた。
「司!」
「遅くなったな、ゴメン」
Chu♪
道明寺さんがその人の頬にキスをした。
ち、ちょっと、天下の道明寺司が人前でキスするの??
あまりにも自然すぎて、他の人は気にならないのか、私だけ心臓がバクバクしているのか。
ものすごいものを見た。
「おい、司! そちらのお嬢さんが驚いているぞ!」
中の人に声をかけられて、照れくさそうに私を見て「ビックリさせたな」と笑った。
私は驚きのあまり息ができない。
かなり間抜けな顔していただろうな、恥ずかしい。
「昼間話した、妻のつくしだ」
「初めまして、香山さんね? 道明寺つくしです。 お会いできて、うれしいわ」
綺麗なだけじゃない。
大きな瞳。
道明寺さんとは違う人を魅きつける瞳。
仕種の一つ一つが優雅で、なんてすてきに笑う人なんだろう。
「香山 麗です。 道明寺社長にはいつも良くしていただいて」
「気を楽になさってね」
「ありがとうございます」
部屋の中央では、道明寺さんが旧友達と楽しそうに話している。
つくしさんに導かれるまま、私はこの美形集団に囲まれてしまった。
ううっ、緊張するぅ〜。
「おい、司! 俺達にも紹介しろ!」
和服を着た男性が叫んだ。
「香山麗だ。 『ビジネスライフ』の編集者さんだ」
「は、はじめまして、香山麗です」
これから私はどうなるんだろう……。
驚きの連続の予感する。
がんばれ! 私!