総 評
2003年に出版された本をここで思い起こしてみたい。傾向としては特筆すべき点はなく、どの出版社も近年の状況と変わらず、順調に本を出していたのではないだろうか。各出版社のシリーズに着目すると、原書房の「ミステリー・リーグ」は第2期へと入り、講談社から「ミステリーランド」、東京創元社から「ミステリ・フロンティア」が新たに開始されたというところか。それ以外の既存のシリーズもそれぞれ順調のようである。個人的に気になっているのは扶桑社の「昭和ミステリ秘宝」はどうなったのだろうと心配しているところである。
このようにさまざまな形態でミステリーが出版されている中で、今年は本命不在の年ではなかっただろうか。よって、各種ランキング等もそれぞれ違う結果になり、混迷を極めると思ったのだが、そこで1人勝ちしてしまったのが歌野晶午氏の「葉桜の季節に君を想うということ」である。この本はこのサイトでも推しているし、また歌野氏の本は読み続けていたので個人的にはうれしいことである。でもさすがにこういう結果は予測していなかった。
また2003年の驚くべきことは、島田氏の活躍である。今年は「上高地の切り裂きジャック」「透明人間の納屋」「ネジ式ザゼツキー」とレベルの高い3作を出版。しかも年末には、推理雑誌「ミステリーズ」と「メフィスト」に寄稿している。これは2004年も充分に期待ししていいのではないだろうか。
2003年ブレイクした作家といえば、伊坂幸太郎氏であろう。新刊3冊も出版し、飛ぶ鳥を落とす勢いである。またミステリー界では石持浅海氏の「月の扉」が話題になった。石持氏も来年以降の活躍が楽しみな作家の1人である。また、個人的には「七度狐」「無法地帯」を書き上げた大倉崇裕氏に期待をしている。
逆に残念なのは、新本格推理作家陣の本が少なかったように思えること。例年がんばっているのは二階堂氏、有栖川氏といったところ。それ以外の多くの作家の方々にも2004年は一つがんばってもらえればと期待しているところである。
ちなみに実際に2004年に出版してもらいたい作家ベスト3といえば、綾辻氏、法月氏、麻耶氏の3名。
2003年の海外作品はどうだっただろうか。ふりかえってみて感じられることは、従来の人気作家がそれなりに活躍した年であるというように思える。2003年はパワーのある新進の作家の活躍というのが少なかったのではないだろうか。新しい作家といえば「半身」のサラ・ウォーターズと本格ミステリーではないようだが「ボストン沈黙の街」のウィリアム・ランディくらいではないだろうか。あと、ニュースとしてはマキャモンの復活という話題もあった。
それ以外では、国書刊行会と晶文社の復刊作品に良いものが多く見られているというのは去年と同様の傾向である。本格推理小説という観点から海外の作品を見ると、復刊でしかそれを満たすものがないというのは寂しいところ。サラ・ウォーターズやジル・マゴーンのような近代作家がもっと増えてくれればと強く希望したい。
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