<内容>
早朝の教室で、高校生中町圭介は死んでいた。コピーの遺書が残り、窓もドアも閉ざしてある。しかも異様なことに48組あったはずの机と椅子が、すべて消えていた! 級友工藤順也がその死の謎に迫るとき次々現れた驚愕すべき真相とは?
<感想>(<ノーカット版>による再読より)
この小説は文庫ですでに読んでいるので再読となる。とはいえ内容もほとんど忘れていたので、それなりに新鮮に読むことができた。さすがに既存のものとノーカット版とで見比べてみることまではしなかったが。
読んでみて、やはりすこし冗長かなと感じた。序盤の文章も慣れるまでは、遠まわし気味な表現というか無意味な持ちまわしに少々じれながら読んでいた。それでもその表現に慣れてきた中盤からは話も読み進めやすくなったような気がした。しかし、最後の解決部はかなり長く感じられた。ラストはもう少しあっさりとまとめてもらいたいというのが正直な感想である。
まぁ、もう過去に書かれた話なのであれこれ注文を付けてもしょうがないのだろう。今はもうすっかり安定した書き手となって活躍している法月氏であるから、デビュー作は法月綸太郎が登場する「雪密室」かともふと思うのだが、こんな小説も書いていたんだなぁ、となんか妙な感心をいだいてしまう。今現在に出版されたとすれば間違いなくメフィスト賞受賞作となって出版されただろう内容。
中味はまさしく青春ミステリというにふさわしい。とはいいつつも高校が舞台にもかかわらず、もっと大人びているというか、高校生というよりは学生というにふさわしいような、ちょっとひねた少年たちの話になっている。法月氏のデビュー頃の若々しさ(喜びや悲しみ、妬み、恨み、恋などもみんな含んだ意味で)をすべて作品にぶつけたという思いがひしひしと伝わってくる作品。今の法月氏の大人びた悩みとこのころの若々しい法月氏の悩みとをぜひ比べてみてもらいたい一冊。
でもこの本を読んで一番恥ずかしいのはやっぱり著者自身なんだろうなぁともひしひしと感じる。
<内容>
篠塚真棹により“月蝕荘”に集められた面々。その中には法月警視も含まれていた。山荘に集められた者は皆、真棹から恐喝されていて、それぞれ複雑な思いを抱いていた。そうした中、真棹が死亡するという事件が起こる。真棹が死んでいた離れまで雪の中、発見者以外の足跡は付いていないという状況。地元の警察が自殺と断定する中、法月警視はただ一人、殺人を主張する。警視は息子の綸太郎の力をかりて、不可能犯罪の真相を明かそうとするのであったが・・・・・・
<感想>
法月氏の2作目にして、探偵・法月綸太郎が初登場する作品・・・・・・なのだが、なんと主で登場するのは法月警視こと、法月貞雄。再読であるが全くどのような内容なのかは覚えておらず、先入観なしで読むことができた。
本書の感想はというと、他の新本格ミステリの書き手と比べると作調が固いかなと。もっと気楽に読める作品かと思っていたが、思っていたよりは読み進めづらかった。ミステリ的な内容としては、雪の上の足跡にまつわるトリックを暴くというゲーム性の高いもの。しかし、物語の筋立てとしては、宗教めいた施設(結局何をしているところなのかわかりづらい)の中で、一人の女に脅迫され続けられている者たちが集められるという妙な雰囲気のもの。
足跡トリックについては、捜査するときに詳しく調べればわかりそうなものであるのだが、それを構成した複雑な方法については見るべきものがある。さらに、しっかりと読者への挑戦を付けて論理的に事件を解決しているところはさすがと感じられた。
ミステリのトリックについては明快でわかりやすく語られるのだが、話の背景については、やけにもやもやしたものが残り続ける。独特の雰囲気の新本格ミステリという印象の小説であった。
<内容>
法月綸太郎は、学生時代の知り合いで今は新興宗教の教祖の元で秘書をしている山岸裕実から依頼を受ける。それは、教祖に対して何者かから死の予告状が届いており、その犯人を探し出してもらいたいというのである。そうしてある日、教祖は地上80メートルある塔の最上階にて、一人きりで3日間こもるという業を行うという。一方、法月警視はマンションで発見された首なし死体と直面していた。そのマンションはフィリピン人の女性が住んでおり、定期的に男が通ってきていたという。彼女が家を出て、戻ってくると死体が置かれていたというのである。どうやらその死体の主は偽名で部屋を借りていたものであるようなのだが、身元がつかめない。法月綸太郎がその事件を聞いたとき、塔の最上階にこもっている教祖の様子を見たいと言い張り、部屋を確認してみると、そこには誰もいなかった!!
<感想>
法月氏の3作品目の小説なのであるが、読んでみて感じたのは、結構粗い内容の作品だったなということ。法月氏の作品に関しては、必要以上に論理立てたり、秩序立てたりというイメージがあるが、この作品い関しては論理的という部分がやや薄いように感じられた。
物語の核となるのは、3人の兄弟の存在。一人の兄と、その弟の双子の兄弟。双子は親元から離れ、別のところで養子として育てられることとなる。実の親に育てられた男は、やがて新興宗教の教祖となる。双子のほうは兄は普通に暮らし、弟は家を飛び出し革命家として生きることとなる。作中で死体が発見されることとなるのだが、これらの兄弟がどのように絡み合い、そして最終的に首無し死体の正体は誰なのか? ということが大きな焦点となる。
法月綸太郎と法月警視による捜査が行われるものの、捜査というよりは新たな事実関係から、3人の兄弟がどのようにからんでくるのかをひたすら推理するという展開がなされる。一つの推理が覆されれば、新たな事実によって次の推理を披露していくということが繰り返される。ただ、これが必要以上に繰り返されることにより、徐々に真相がぼやけていくという気がしてならなかった。最終的な解が明かされても、それがぴったりとはまるというものではなく、なんとなくもっと単純なところに解はあるのではないかとすら思えてしまう。
本書を読んで感じたのは、実験的な小説であったなということ。ただ試みは面白かったものの、あまり成功していないというイメージが強い。設定や背景について、きっちりと描いたがゆえに、推理の繰り返しという行為が浮いてしまったかのように思われる。もっと単純捜査の繰り返しで真相に迫れたのでは、という内容の事件に感じられた。
<内容>
西村悠史は最愛の娘が殺されたことにより、犯人に対する復讐を誓い、体が不自由な妻へ遺すための手記を書くこととした。その手記には、娘を妊娠させたうえ、絞殺して殺した犯人を見つけ出し、西村が手を下すまでの顛末が書かれていた。女子高生殺害の汚名をきせられた高校教師が勤める女子高の理事長はスキャンダルをもみ消すため、事件捜査を法月綸太郎に依頼し・・・・・・
<感想>
法月氏の4作品目であり、法月綸太郎シリーズ第3弾となる本書。「誰彼」と比べればまっとうな新本格ミステリという感じであるが、かなりハードボイルド色が強いとも感じられた。法月氏が影響を受けた作家と言えば、エラリー・クイーンだけではなく、ロス・マクドナルドも挙げられる。本書はそのロス・マクドナルド調と言ってもいいほどの作品(特に最後の締めは)である。
本書の新本格ミステリらしいところは、最初に娘を殺害された男親の手記が紹介され、その手記を元に、真偽を推理しつつ法月綸太郎が真相を暴いていくところ。ただし、その捜査に関しては前述したとおり、やけにハードボイルド調。特に、暗黒街のボスならぬ、政治家のボスまでも登場させているところは狙っているとしか思えなかった。
最後はミステリらしく、どんでん返しも含め、きっちりとした解決がもたらされる(どこかもやもやするところもあるけれど)。そして、最後にこの作品のタイトルが皮肉のようであり、ミスリーディングを誘うようでもありと、その奥深さに気づかされることとなる。
<内容>
山倉史郎の息子を誘拐したと誘拐犯から連絡が入るも、当の息子は病気で家で寝ていた。どうやら山倉の息子と間違えて、友人である富沢家の息子を誘拐してしまったようなのである。山倉史郎は誘拐犯に子供を間違えて誘拐したという事を悟らせないまま、警察の力を借りて身代金の受け渡しに臨むことに。公衆電話を使った犯人の誘導により振り回される山倉は、途中転んで意識を失くしたために身代金の受け渡しに失敗し、富沢家の息子は殺害されてしまう。その失敗に悩む山倉であったが、実は彼は富沢家の妻と以前、関係を持っており・・・・・・
<感想>
久々の再読。誘拐ものであるということ以外は全く覚えていなかったので楽しんで読むことができた。
内容は息子が誘拐されたと告げられるものの、実は自分の息子ではなく、息子の友達が誘拐されていた。かと思いきや、実はその誘拐された子こそが自分の血をひく者であり、一方自分が育てている息子は自分の血をひいていないという皮肉。そうしたややこしい人間関係のなかでの身代金受け渡しが行われるものの、それが失敗に陥り、誘拐された子供は死亡してしまう。
そしてそこから犯人探しが始まってゆく。走査線にあがったものがいるものの、なんとその男のアリバイを証明するのは法月綸太郎。そうした関係により法月綸太郎が登場し、事件に関わってゆくこととなる。
内容に関わるので省略するが、とにかく人間関係がややこしい。といいつつも登場人物がそれほど多いわけではないので、相関図は十分に理解できる。その限られた登場人物のなか、犯人さがしがなされてゆくのだが、これがどんでん返しに告ぐ、どんでん返しとなっており、最後まで予断を許さない状況。
なかなか面白い作品であった。ただ、どんでん返しが続き過ぎで、ややサプライズが薄れてしまっているかなという気にもなってしまう。心情的には、誰が犯人であってもおかしくなかったかなと。要はタイトルである「一の悲劇」が表す通り、最後の最後まで”私”が振り回される事件であったと。
<内容>
法月綸太郎のもとに深夜かかってきた電話。相手は以前“月蝕荘”の事件で法月親子と関わったアイドル歌手の畠中有里奈。彼女が言うには、ラジオ局で何者かに襲われ、ナイフで刺され意識を失ったと。その後、気がついたら自分は無傷であり、何が起こったのかわからないという。有里奈は男から彼女の母親の件で脅しを受け、それによりいささか混乱した状態になっていたらしい。そしてその後、ラジオ局近くの公園で有里奈を刺したはずの男が刺殺体として発見され・・・・・・
<感想>
この作品はあらかじめ「雪密室」「頼子のために」を読んでから着手した方が、より内容にのめり込めると思われるので、お薦めしておきたい。分量的には法月氏の作品緒のなかでも一番のボリュームと言えるかもしれない。
本書における一番のミステリらしき謎は、ラジオ局と公園をつなぐ惨劇の怪事。なぜラジオ局でナイフで刺されたはずの畠中有里奈は無傷だったのか? そして有里奈を襲ったはずの男が何故ラジオ局外の公園で刺殺されているのか? というところ。また、他にもう一つ、有里奈の母親にまつわる過去の事件があるのだが、こちらについては、なんとも昼メロドラマ的な印象のもの。謎というよりは、経験者の証言を聞くといいうだけ。
最初はこうした内容のものに、これだけのページ数が必要なのかと思っていたのだが、話が進むにつれてそれだけの分量が必要な物語が語られているゆえに納得せざるを得なくなる。と言いつつも、作者を投影した探偵・法月の悩みに関するあれこれとか、長々としたアイドル論などが過剰に詰め込まれているのには、正直うんざりしてしまう。
ただ、この作品を出版されてから、だいぶ時が経過(26年くらいか)してから再読しているのだが、そうすると法月綸太郎の小説の流れとか、TV史の経過などを改めて体現することができる。故に、時が経ってから読む分には良いと思われるのだが、リアルタイムで読む分にはなんとも受けが悪そうな作品であったのではないかと思われる。何にしても、もう少し少ないページ数で書いてくれた方が、具合が良かったのではなかろうか。
余談であるが、作中で“吉本ばなな”のパロディ名を“吉本ばぎな”とするのはセンスが悪すぎやしないかと・・・・・・
<内容>
「死刑囚パズル」
「黒衣の家」
「カニバリズム小論」
「切り裂き魔」
「緑の扉は危険」
「土曜日の本」
「過ぎにし薔薇は・・・」
<感想>
再読・・・・・・というか、もう3、4回くらい読んでいるような。にも関わらず感想を書いていなかったので、改めて読んでみた。記憶に残っている作品ばかりであるが、やっぱり読んでいると楽しい本格ミステリ作品集。
個人的に法月氏の短編作品のなかで一番の出来と思っているのが「死刑囚パズル」。刑務所を舞台にしていたり、凶器にニコチンを用いたりと、ところどころでエラリー・クイーンの「Xの悲劇」や「Zの悲劇」などを思い起こさせる。しかも雰囲気のみならず、論理的な解決っぷりが冴えわたっている。ただ、この作品一番インパクトがあるのが“何故死刑が執行される直前に死刑囚を殺さなければならないか”という動機であろう。
「黒衣の家」もなかなか。これは今回読んで、いまさらながらに気づいたのだが、犯行動機が謀長編作品(法月氏の著作ではない)に通じるものがあるところ。個人的にその長編が好きであったので、ここでも同様のことをやっていたのかと(こちらが先か)感嘆。
「カニバリズム小論」は、バカミスならぬ、変態ミステリとでもいいたくなる内容。何気にサイコチックに幕が下りる。
残りの4編は図書館司書の沢田穂波と法月綸太郎コンビを組んで事件を解決するという趣向。4作全部が図書館がらみではないのだが、図書館探偵とでも言いたくなる。これらは長編で見られる法月綸太郎とはちょっと異なる感じで、コミカルな作調。法月氏の作品が苦手という方でもこれらはライトな感じで楽しむことができるであろう。
ちなみに「土曜日の本」は、有名な「五十円玉二十枚の謎」に挑んだ作品となっている。ただ、肝心な謎の焦点がボケていて、違う方面に力を入れているような感じがなんとも・・・・・・
<内容>
都内マンションでOLが殺害されるという事件が起きる。しかも何故か顔を焼かれた状態で発見された。ただし、同居していたルームメイトの女が逃亡しており、犯人はその女とみなされていて、あとは女を捕まえるのみ。ただひとつ、奇妙に思われた点は死亡した女が、殺害される直前に何かの鍵を飲み込んでいたということ。その事件を父親から聞いた法月綸太郎は、被害者の入れ替えを示唆するのであったが・・・・・・
<感想>
久々の再読。個人的には法月氏の長編作品のなかで一番好きな作品かもしれない。
この作品、最初に読んだときは、なんとも読みづらいなと感じられた。それが何故かといえば、人称で“きみ”というのを連呼しているからである。それがなんとも触りが悪いというか、居心地が悪いというか微妙なものを感じてしまう。ただ、最終的に何故に“きみ”なのかという真相が明らかになると、作品に対する印象が大きく変わることとなる。
実は、起きている事件はさほど大したものではない。基本的にOLが殺害され、その友人で同居人のOLが最重要容疑者というもの。それを些細な事で法月綸太郎が引っ掻き回し、県警から白い目で見られるという場面が続いてゆく。何気に真相が明らかになったとしても、基本的な事件の構図は変わらず、実はミステリ的には大したことのない作品であるのかもしれない。そんな内容のわりには、意外と長めの作品であり、冗長と捉えられるところも多々ある。
この作品に感銘を受けるところは、あくまでも“きみ”が関わる男女の物語であり、事件に対するものではない。その男女の物語が、とあるすれ違いにより悲劇を巻き起こし、想像しえない騒動を巻き起こすこととなってしまう。そのちょっとしたボタンの掛け違いさえなければ、普通の恋愛になったのではにかと思うと、何とも言えない感慨が残されるのである。まさにタイトルにある“悲劇”と呼ぶにふさわしい作品であると思われる。
<内容>
「重ねて二つ」
「懐中電灯」
「黒のマリア」
「トランスミッション」
「シャドウ・プレイ」
「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」
「カット・アウト」
「......GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」
<感想>
角川文庫より新装版が出たので、久々の再読。法月氏のノンシリーズ、初期短編集。副題として“WHODUNIT SURVIVAL”と付けられているのだが、実際に読んでみると、非ミステリ的な内容のものもしばし、見受けられる。
「重ねて二つ」は、女性の上半身と男性の下半身のみが発見されるというショッキングな事件。久々に読んだ割には、しっかりとトリックを覚えていた。それだけに、なかなかインパクトのある内容。
「懐中電灯」は、法月氏らしい作品と言える。倒叙小説であり、懐中電灯から犯行がばれるというものなのだが、読者が予想するような単純なものでなく、一捻り入れているところはさすが。
「黒のマリア」は、密室殺人を描いたもの。部屋の中で殺害されていた者、金庫のなかの死体、キャビネットに閉じ込められていた生者。どのような方法により、このような状況が成り立ったのか? ホラー的な展開の中、推理がなされる。一見、微妙な真相にも思えるが、なんとなく「黄色い部屋の殺人」を意識したトリックのようにも・・・・・・
「トランスミッション」は、代理誘拐を描いた作品。まるで岡嶋二人氏が描いたかのような内容。ただし、ラストがこれまた変わった終わり方をしている。
「シャドウ・プレイ」は、ドッペルゲンガーを用いた内容でありながら、交換殺人を描いたかのような。一見、ボツネタのようにも。これがやがて「キングを探せ」に発展していったのか!?
「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」は、リュウ・アーチャーを主人公とした小説であるのだが、マーロウのようにも見え、描き方が微妙。著者本人は真面目に書いた作品とのことだが、読む側としてはとても真面目には捉えることができない。
「カット・アウト」は、ミステリというよりも美術小説というような。著者の美術に対する造詣の深さを感じ取ることができる。
「......GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」は、チャンドラーの「長いお別れ」のような・・・・・・と思いきや、未完成小説であった。せっかくだから、20年後の今、再度書き始めたらどうかと薦めてみたくなる。
<内容>
名探偵・法月綸太郎の生みの親の著書が挑んだ、初めてのミステリー評論集。実作者としての経験と豊富な知識に裏打ちされて、中上健次からジェイムズ・エルロイまどを自在に論じた本書は、ミステリーの枠を超えた優れた文芸評論になっている。親本刊行後に発表された五編も収録した、ファン必携の「増補版」
<感想>
おおまかにいうと、国内編と海外編に分かれている。どちらかというと短く簡潔に書かれている海外編のほうが好みである。「コリン・デクスター」について書かれているのを読んで、何冊かまで読んで止めていた“モース警部”シリーズを再び読んでみようかなという気になった。海外編は結構そんな気にさせてくれた。まぁ、あくまでもあらかじめそこで評されている本を読んでいたらの話しではあるが。残念ながら国内編ではそういった気にさせてくれるものがなかったので、そのへんもう少しうまく書いてもらいたかった。
<内容>
「イントロダクション」
「背信の交点」
「世界の神秘を解く男」
「身投げ女のブルース」
「現場から生中継」
「リターン・ザ・ギフト」
<感想>
久々の再読。「法月綸太郎の冒険」に関しては、何度か読んでいたせいか、最近再読してもほとんど内容を覚えていたものの、この“新冒険”に関しては全くと言っていいほど覚えていなかった。改めて読んでみると、わかりやすいインパクトのある内容というよりは丁寧に作り込まれたミステリという感触が強かった。それぞれの作品がノベルス版で60〜70ページのボリュームのある短編集。
「背信の交点」は、列車のなかで起きた毒殺事件に法月綸太郎が遭遇する。事件はやがて無理心中ではないかという事実がわかり、事態は収束するかにみえたものの・・・・・・
これは、物語が細かくきっちりと作り上げられている。事実関係がわかってくるなかで、事件に対する動機とか、無理心中に至った経緯とかが納得させられるように描かれている。少々できすぎというような背景ではあるものの、それよりも細かく作り上げているという印象のほうが強い。また事件の真相が明らかにされるひとつの挙動にも注目。
「世界の神秘を解く男」は何とも意味深なタイトルだが、これはなんと法月綸太郎を指す言葉。このような言葉で示される怪しげなテレビ番組に出演することになった綸太郎。子供が起こしているとされる霊能現象を測定しようというなか、チーム中心である教授がシャンデリアの下敷きになって死亡する。
これは事件や真相のみであれば、普通のミステリというくらいのものなのだが、やはりこれも丁寧に作り上げられている背景があるゆえに、それなりのミステリとして読めるものとなっている。有能(?)なディレクターに翻弄される綸太郎の様子にも注目。
「身投げ女のブルース」は、ひとりの刑事が飛び降り自殺を図ろうとする女を助けたことにより明るみにでた事件。その女は人を殺してしまい自殺を図ろうとしたとか。その事件の顛末とは!?
この作品集のなかで一番出来がよかったと思える事件。あまりにも大胆なアクロバティックなトリックが用いられ、途中で事件の様相が一変してしまう。後半に明らかにかる事件の真相もまた何とも・・・・・・
「現場から生中継」は、とある殺人事件の容疑者が、別の重大犯罪の犯人が捕まった際のテレビ中継のなかに映っていたことによりアリバイが確保されるという事件を描く。法月綸太郎がアリバイ崩しに挑戦する。
普通のアリバイ崩しかと思いきや、これまた何ともいえない展開により、ひっくり返される。それは読者のみならず登場人物も同様。もはや、なるほどと感嘆するほかはない。
「リターン・ザ・ギフト」は、交換殺人を描いた作品。単なる交換殺人事件で終わるかと思いきや、そこから法月綸太郎が別の真相を提示する。
意外と法月氏の作品で、“交換殺人モノ”って多いような。今回はその裏に潜むものも単純なもので推理も簡単・・・・・・かと思いきや、真相は想像の斜め上をいっていた。これまたなるほどと。そして真相を表すだけではなく、真犯人が何故あのような行動に出たのかまでもをきっちりと説明しているところがすばらしい。
<内容>
「イコールYの悲劇」
「中国蝸牛の謎」
「都市伝説パズル」
「ABCD包囲網」
「縊心伝心」
<感想>
今回の作品群のいくつかはアンソロジー等に掲載されていたので3編ほどすでに読んでいた。ただ法月氏の作品がこう並ぶと感慨深いものがあり、再読を含めて楽しく読ませてもらった。最近めっきり少数派になっているが新本格として登場して以来、論理性を貫き通している法月氏、これらの作品群もその“論理”を十分に楽しませてくれる内容となっている。
「イコールYの悲劇」、「ABCD包囲網」の2作はそれぞれ、題材を与えられてのアンソロジーの一編として書かれたものである。これら2作は論理性というよりもアイディアを買いたい作品となっている。
「都市伝説パズル」は論理性がかなり高い作品であるのだが、それがかえってわかりやすい結果になってしまったな、というのが感想。ちょっと限定されすぎたような気もするが短編であるならばそれはいたしかたないことであろう。
「中国蝸牛の謎」はトリックが作品に追いつかなかった感じがする。“チャイナ橙”を意識しすぎたのかもしれない。
「縊心伝心」が今回の“論理性”の中では一番だったように思える。ホットカーペットから犯人を限定し割出すというのはなかなか面白い趣向である。ただ、クイーンの「エジプト十字架」というよりはメケルマンの「九マイルは遠すぎる」的な感じがするのではあるが。
バラエティにとんだ出来栄えのミステリ作品集。法月氏の作品はアンソロジーなどに載っていても他の作品と比べて群を抜いているといつも感じられる。これだから彼の作品を待ちつづける人は、決してあとを絶たないのであろう。
<内容>
法月綸太郎は友人が開いた写真の展覧会に呼ばれ、顔を出してみることに。そこで会ったのは知り合いの翻訳家の川島敦志とその姪で写真家を目指す学生の江知佳であった。展覧会で二人に会った後、法月は江知佳の父親で有名な彫刻家である川島伊作が病死したことを知らされる。その告別式に出席した後、法月は川島敦志から頼みごとを受けることになる。
その頼みごととは、亡くなった川島伊作はある彫刻を造っている最中であったという。その彫刻はある程度完成しているはずであったのだが、伊作の死後、アトリエに入ってみると当の彫刻は首だけが切り取られ持ち去られていたというのだ。いったい誰が? 何のために? 綸太郎はそのアトリエを調べて、ある結論に達する。しかし、その後この事件は殺人事件までへと発展していくことに!
<感想>
久々の法月氏の長編という事で嬉々として読んだのだがその感想はというと・・・・・・法月氏ってこんな作風だったっけ? と疑問に思わずにはいられない出来であったように思える。話自体は良いと思えるし、事件全体の整合性も良く出来ていると思われる。では、何が問題かと言えば事件の見せ方、解き方の構成にあると思う。
まず読み終わって感じたのは、あっさりと終わってしまったという事。物語全体が本格推理というよりはハードボイルド的なサスペンスミステリーに感じられ、通俗のサスペンスものの流れに納まってしまったという気がした。
特に不満を述べさせてもらうとすれば、首の切断に関する云々。本書では彫刻の首が切り取られ、後に殺人事件が起き、ある人物の首が切り取られる。この“人の首を切る”という行為が行われ、犯人はそれなりの意図により切り取ったのであるが、その意図が解決で提示されるまで全く伝わってこなかった。それもそのはず、彫刻の首が切られた後に、芸術の観点により何故切り取られたか云々が繰り返され、それらが延々と続いた後にようやく殺人事件が発生するという具合になっているので、そこに到達したときには既に“首切り”のインパクト自体が全く薄まってしまっているからである。
また、そういった事柄だけでなく、事件の解決のされかたもそうなのだが大団円の場が設けられることも無く、淡白に解決されてしまう。本書はそういった見所となるべき場面の見せ方に問題があったのではないかと考えてしまう。
事件自体の細部とか芸術的な観点からの石膏像に込められた意味とかそういった事にばかり力がそそがれてしまったために全体的に地味な作品になってしまったというのは真に残念な気がしてならない。悪い作品ではないと、思うのだが、私個人としては近年法月氏によって書かれた短編小説での活躍の延長を長編として見たかったために残念に思えてならない。
<内容>
怪盗グリフィンの元に“国際泥棒コンテスト”なる招待状が届いた。グリフィンはその招待状を一笑して棄ててしまう。実はそのときからグリフィンは大きな陰謀に巻き込まれていたのであった。
メトロポリタン美術館からの絵画の強奪、暗躍するCIA、カリブ海に浮かぶ島に伝わる呪いの人形。絶体絶命の危機に追い込まれる怪盗グリフィンの運命や如何に!?
<感想>
これは面白く読むことができた作品。怪盗ものというよりはスパイもの、冒険ものという感じであった。速いテンポで二転三転しながら小気味よく話が進んでゆく。さらには単なる冒険だけで終わるものではなく、結末もなかなかひねりが効いており、法月氏の本格ミステリが好きだという人も満足できる内容になっている。
これは子供でも楽しく読めるだろうと思えるのだが、子供が読むには少々説明が冗長すぎるかなと思えなくもない。子供向けの冒険ものとするのであれば、もっと説明の部分を省略したほうがテンポよく読めるのではないかと感じられた。しかし、子供向けの本であっても手を抜かずに細部まで書き込むというこだわりは法月氏らしいといえなくもない。
子供であれば高学年向け、大人であれば安心して楽しめる冒険活劇、今までの法月氏の本とは違う味わいが楽しむことのできるお得な本である。
<内容>
[牡羊座] ギリシャ羊の秘密
[牡牛座] 六人の女王の問題
[双子座] ゼウスの息子たち
[蟹 座] ヒュドラ第十の首
[獅子座] 鏡の中のライオン
[乙女座] 冥府に囚われた娘
<感想>
どの短編が突出しているというのは特になかったように思えたが、それなりにレベルの高い本格ミステリ短編が6作品もそろえば、作品集としての評価は俄然高くなる。読み始めれば夢中になること請け合いの、最近では珍しいくらいの本格ミステリにこだわった短編集といえよう。
また、昔の講談社から出ていた同じく法月綸太郎が活躍する短編に比べると作風が変わってきたなとも感じられる。特に「生首に聞いてみろ」あたりから、ハードボイルドタッチになってきたように感じられ、まさに法月綸太郎第二期というものをうかがわせるような創りともなっている。
[牡羊座]ギリシャ羊の秘密
ホームレスが殺害され、そのホームレスの羊のタグがついたジャケットが盗まれたことを手掛かりに犯人の正体を突き止めるというもの。
物語の展開や、事件のきっかけとなった出来事は面白いといえよう。ただし、ミステリとしては少々強引のような気も。とはいえ、きちんと手掛かりらしきものは読者の前に与えられていたりする。
[牡牛座]六人の女王の問題
売れっ子ライターが誌上で辞世の句を残して殺害された事件。その句に隠された真相とは?
この作品を読んで、短編集全体のテーマとしてサブカルチャー的なものを取り扱っているのかなとも感じられた。本編のなかでは“ドラァグ・クイーン”と“劇団”が取り扱われている。内容は事件というよりも暗号解き。そこから真相が垣間見えてくる内容となっている。ただし、感心したのは暗号よりも、被害者の心理をうまく取り扱った作品であるということ。
[双子座]ゼウスの息子たち
双子同士で結婚し、その片割れは事故で死んでしまい、残された兄と姉の夫婦。彼らは協力して事業を成功させたものの、そのお膝元といえるホテルで恐喝者と目される人物が何者かに殺害されてしまう。
これは別の作品集で一読していたのだが、改めて読んでみてもうまくできていると感じられた。ネタとしては一発ネタとはいえ、そこまでの誘導が事細かに作られている作品といえよう。
[蟹 座]ヒュドラ第十の首
自殺した妹の恨みを晴らそうと、妹と付き合っていた男を捜そうとした兄が返り討ちに会って殺害されてしまった。容疑者は三人のうち誰か?
これも再読で、別の作品集で読んだときは犯人当てになっていたのだが、全く検討がつかなかった作品。ヒントはラテックス・アレルギーにあるのだが・・・・・・いまだに納得いかないのは、犯人の正体よりも、この犯人を当てた人がいるということ。よくそこまで発想を飛ばすことができるなと。
[獅子座]鏡の中のライオン
本人の車の中から発見された女優の死体。監視カメラに囲まれたマンションを利用して犯人がとった行動とは?
これも話としては非常にうまくできていると思える。しかし、犯人を当てるきっかけとなるものがあまりにも飛躍しすぎているように思えた。いや、本当にそれ以外はうまくできていると思えるのだが。
[乙女座]冥府に囚われた娘
水中毒で入院していたはずの女子大生が意識不明にもかかわらずメールを送っていたという都市伝説にちなんだ事件に法月綸太郎が挑む。
この都市伝説のような話は、うまくできていて面白かった。また、どこかしら島田氏の「21世紀本格」につながるような要素が感じられる。さらには、それだけにとどまらず、最終的に犯人についてもひねりをくわえることによって完成度を高めた作品。
<内容>
「使用中」
「ダブル・プレイ」
「素人芸」
「盗まれた手紙」
「イン・メモリアム」
「猫の巡礼」
「四色問題」
「幽霊をやとった女」
「しらみつぶしの時計」
「トゥ・オブ・アス」
<感想>
法月氏によるノンシリーズ短編集。「二の悲劇」の元となった「トゥ・オブ・アス」のみ法月父子が出てくるものの、他は全てノン・シリーズ・キャラクターが登場する作品集となっている。
総論から述べれば、これも法月氏らしく、よく出来ている短編集であるということ。本格ミステリとはいえないような作品も混じっているとはいえ、どれもがよくできた作品であり、一冊の短編集としてはミステリ作品としての評価は充分に高められるものである。
「使用中」はリドルストーリというものをうまく利用した、どんでん返しが繰り返されるミステリ作品。トイレの中での状況に疑問が抱かれなくもないのだが、まぁ、それはそれということで。
「ダブル・プレイ」は交換殺人を描いた作品。もちろん結末は一筋縄ではいかないものとなっている。
「素人芸」は、なんとなく、たちの悪い冗談といえなくもない作品。ミステリ性よりもブラック・ユーモア性が強調されている。
「盗まれた手紙」は既読であるが、よく出来ている作品と再感心させられた。コンピュータにおける秘密鍵や暗号鍵というものを現実的に表現したミステリ作品。
「イン・メモリアム」はショート・ショートであり、追悼の辞を利用したミステリ作品。
「猫の巡礼」はミステリ作品ではなく、猫にまつわるちょっと奇妙で心温まる作品。
「四色問題」は都筑道夫氏の“退職刑事”シリーズのパスティーシュ。色彩を用いての独特なダイイングメッセージが面白い。
「幽霊をやとった女」は、あとがきを読むまでわからなかったが、これも都筑氏のシリーズ作品のパスティーシュとのこと。しかもその都筑氏のシリーズはエド・マクベイン描く酔いどれ探偵カート・キャノンのパスティーシュらしい。ハードボイルド小説でありながら、さりげなく伏線をばらまいた謎解きの要素が強い作品となっている。
「しらみつぶしの時計」は法月氏がこのような作品を書くのかと驚かされた、ロールプレイ系のミステリ作品。1440個のそれぞれ異なる時刻をさす時計のなかから、唯一正確な正時間を示しているものを捜し出すという内容。話としては法月氏らしくないと思いながらも、真実の時計を捜し出すためのロジックについては、あまりにも後ろ向きな論理であるところが法月氏らしいと感じられた。本書のなかでは一番のお気に入りの作品。
「トゥ・オブ・アス」は上記のとおり「二の悲劇」の原型となる作品。私は法月氏の作品のなかでは一番「二の悲劇」を気に入っているので、満喫して読むことができた。長編と短編の出来を比べたいところなのだが、長編のほうは、はるか昔に読んだきりなので比べることができない。どうにも「二の悲劇」を再読したくなってしまったのだが、さて、どうしたものか。
<内容>
4人の男たちは交換殺人を行うことを決意する。トランプのカードを使い、互いのターゲットを決め、実行にうつす。
法月警視は自分が担当している不可解な事件を息子の綸太郎に相談する。その話を聞いて、綸太郎はとある仮定を示すのであるが・・・・・・
<感想>
犯行を行う側から描いた倒叙小説。事件が起きた後に法月警視と綸太郎が事件の検討を行っていく。
読んでいる最中に思ったのは、倒叙ゆえに、交換殺人であるということは読者にはわかっており、では探偵役の法月綸太郎は何を検討してゆくことになるのだろうかということ。通常の倒叙小説であれば、犯人のミスなどを足がかりに探偵役が犯行方法を指摘するという展開。ということで、この作品も同様に進むのかと思いきや、そこはさすがと言わせんばかりに、もう一捻りを加えた予想外の展開が待ち受けている。4人による交換殺人という設定を実にうまく利用したミステリ作品と言えよう。
最近この法月綸太郎シリーズというと、ロス・マクドナルド風でエラリー・クイーン的という趣に思えたのだが、本書はちょっと異なる作風が感じられた。ちょっと違うかもしれないが個人的にはアガサ・クリスティ風というようにとらえられた。近年、法月氏はSF作品を書いたりと、昔と比べれると多岐にわたる活動をしているように感じられるので、その調子でいろいろなものを書いてもらいたいと期待している。
<内容>
[天秤座] 宿命の交わる城で
[蠍 座] 三人の女神の問題
[射手座] オーキュロエの死
[山羊座] 錯乱のシランクス
[水瓶座] ガニュメデスの骸
[魚 座] 引き裂かれた双魚
<感想>
気がつけば前作から5年の月日が経っていた。そんなに時間が経っていないように思えたのだが、もはや法月氏に関しては待ち慣れたか!?
今作も平均的に水準の高いミステリ作品が並べられている。論理的に優れているというよりは、うまく話を作っているという風にとらえられた。直感的な推理が冴えるサスペンス系ミステリ作品という感触。
[天秤座]宿命の交わる城で
タロットカードにより結びつけられた二つの事件。しかし、何故わざわざ別の事件と思われたものを結びつけなければならなかったのか? というところがポイント。「キングを探せ」の別バージョンという趣でもある。内容としては、“策士策に溺れる”が見事なくらいに表されている。
[蠍 座] 三人の女神の問題
かつてのアイドルユニット“トライスター”、その元事務所社長が殺害された事件。犯人は“トライスター”の元ファンクラブ会長と思われたのだが・・・・・・。自殺してしまった容疑者の携帯履歴から事件を推測していくという内容。表面に見える事象と、実際に行われていた真実との差異が明らかにされる。また、芸能の世界を描いた業界系ミステリとも言えなくもない。
[射手座] オーキュロエの死
動物病院で働く獣医がストーカーに付きまとわれていた。ある日、そのストーカーが殺害されたことにより、容疑は獣医に向けられてしまう。彼は法月綸太郎に助けを求めるのだが・・・・・・。きちんとしたミステリ作品と言えよう。何気ながらもストーリー上にきちんと配置されている真犯人。その試みが何とも心憎い。ストーリーとしてもうまくできている作品である。
[山羊座] 錯乱のシランクス
連絡がとれなくなった音楽評論家が自宅で死亡しているのが発見された。何者かに襲われダイイングメッセージを残していた。マンションには監視カメラが付いていたが、犯人と思しき者は映っておらず・・・・・・。何気に密室ミステリ。ストーリーがきちんとしている分、見事にレッドヘリングに引っ掛かり、真犯人の登場に驚かされる。ただし、ダイイングメッセージにはいまいちピンとこない。
[水瓶座] ガニュメデスの骸
法月綸太郎は奇妙な身代金の引き渡しを経験した男から相談を受ける。それは人の身代金ではなく、亀の身代金というのだが・・・・・・。前代未聞の身代金の引き渡し。何しろ身代金を渡した本人が、自分の身代金を渡しているのではないかと錯覚する事件。事件の解決については強引な推理のように思えるのだが、誘拐を描いた作品としては面白い部類と言えよう。
[魚 座] 引き裂かれた双魚
オカルトに取り付かれた会社社長を助けるために、インチキ占い師の化けの皮をはがそうとする法月綸太郎であったが・・・・・・。詐欺師たちの上をいく、狂乱の論理。その狂乱ぶりに法月綸太郎らも見事に翻弄されてしまう。しかし、その狂気っぷりに話は見事に収まってしまうという変わったミステリ。
<内容>
「ノックス・マシン」
「引き立て役倶楽部の陰謀」
「バベルの牢獄」
「論理蒸発 − ノックス・マシン2」
<感想>
読み足りなさが残ってしまう、色々な意味で中途半端な作品集。個々の作品は、それなりに面白いとは思えるのだが。
ノン・シリーズ作品集とするならば、もう少し作品を掲載してもらいたかった。「ノックス・マシン」をSF作品とするのであれば、SF作品集として統一してほしかった。「ノックス・マシン」をミステリ・パロディ作品とするのであれば、「引き立て役倶楽部」のような作品をもっと書いてもらいたかった。それぞれの作品が互いにリンクするような感じがするのに、全く関連のなさそうな「バベルの牢獄」が入っていたりして、中途半端加減がどうにも残ってしまう。
「ノックス・マシン」はタイムトラベルと古典ミステリの世界を共有したような不思議なSF作品。といいつつも、最後は“オチ”的な終わり方。
「引き立て役倶楽部の陰謀」は、古典ミステリ名作に登場するワトソン役の者達を配して、ミステリ会議が行われる。議題はアガサクリスティの「そして誰もいなくなった」について。著者が単なるミステリ好きにとどまらず、研究者・評論家としての側面を作品に表したかのような内容。
「バベルの牢獄」はSF作品であるが、法月氏らしくないようなオチの付け方。他の作家であれば、こういったことをやる人もいるのだが、こんなことまで法月氏がやってくれるとは。ただ、この作品集の中では唯一浮いているという感じがしてならなかった。
「論理蒸発」は「ノックス・マシン」に続く続編。それならいっそ“ノックス・マシン”だけで作品を構成してもよかったのでは? と感じてしまう。法月氏お得意と思われるクイーン論について、SF的に言及している。
<内容>
怪盗グリフィンの元に怪しげな依頼が!? 伝説のSF作家が遺した未発表原稿「多世界の猫」を盗んでほしいと。依頼主が言うのはそれは贋作であるので、自らの手で処分したいという。依頼を引き受けたグリフィンであったが、事態は意外な展開を見せることとなり・・・・・・
<感想>
「怪盗グリフィン、絶対絶命」に続く第2弾ということなのであるが、前作とはだいぶ作風も異なるので、別個の作品として見てもよいくらい。前作を読まなくても、これだけでも十分楽しめる。
ただし、楽しめるといいつつも読者を選ぶ作品であるかなと。基本的にはスパイ小説、冒険小説という構成ではあるのだが、その中身はSF小説っぽい。いや、SFというよりはもはや“物理小説”と言ってもよいくらいの内容。物理学に関する話や、物理的(というか、量子力学的?)な設定などが、これでもかと言わんばかりに披露される。そうしたなかで、伝説のSF作家(モチーフはたぶんフィリップ・K・ディック)の未発表原稿の争奪戦が繰り広げられる。
そんなわけで、SF的・物理的な設定を楽しむことができれば、あとはスパイ小説としての話の流れを堪能できることであろう。また、私が読んだのは文庫版であるのだが、そのあとがきに法月綸太郎氏の作家活動の軌跡がまとめられており、それを非常に興味深く読むことができた。
<内容>
省 略
<感想>
読んでみるまで内容が全くわからない作品であったが、その実態は!? “読者への挑戦”のパロディ・批評集!!
読者への挑戦の形式で語られた作品集であり、それらが99編収められている。中には某作品のパロディであったり、ありえない作品に対する架空の挑戦状であったり、皮肉を込めた挑戦状となっていたりと、色々な形式の“読者への挑戦”を眺めわたすことができる。
もちろん、単に“読者への挑戦”形式のものが並べられているだけなので、トリックとか真相とか、そういったものは皆無の作品である。“読者への挑戦”を並べることにより、何気にミステリ作品に対する批評も読み取ることができ、ある種のミステリ批評とも捉えることができる。
あくまでもミステリ・マニア向けの作品。ミステリを読みこんでいる人であれば、ニヤニヤしながら読むことができるであろう。ただ、気軽に手に取るには値段がやや高いような・・・・・・