森博嗣 作品別 内容・感想

まどろみ消去  MISSING UNDER THE MISTLETOE   5点

1997年07月 講談社 講談社ノベルス
2000年07月 講談社 講談社文庫

<内容>


地球儀のスライス  A SLICE OF TERRESTRIAL GLOBE   6点

1999年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>


そして二人だけになった   7点

1999年06月 新潮社 単行本(新潮ミステリー倶楽部)

<内容>
 全長4000メートルの海峡大橋を支えるコンクリートの巨大な塊<アンカレイジ>。アンカレイジ内に設計されたシェルターで実地に生活してみるという実験をすることになり、内部に造られた窓ひとつない空間に集まった科学者・建築家・医師たち六名。その中に、建設の中心人物であった盲目の天才物理学者、勅使河原潤と彼のアシスタントである森島有佳が含まれていた。しかし勅使河原と森島は本人は参加せずに自分の替え玉をアンカレイジ内に送り込む。互いのパートナーに気づかれないように・・・・・。
 単なる実験であったはずのものがプログラムの異常により海水に囲まれ完全な密室となる。そしてこの建物の中で、次々と起こる殺人。最後に生き残るのはいったい・・・・・・


女王の百年密室   6点

2000年07月 幻冬舎 単行本

<内容>
 女王が統治する幸福で豊かな楽園。不満も恨みもない世界で起こる空前の殺人事件。女王の塔の中で殺されていたのは・・・・・・。完全なる密室、完全なる犯罪。誰が、どうやって、何のために?? 僕とパートナのロイディは推理を開始する。しかし、住民たちは皆「殺人」の存在さえ認めない。

詳 細


工学部・水柿助教授の日常

2001年01月 幻冬舎 単行本

<内容>
 水柿君33歳。のちにミステリィ作家となるが、いまはN大学工学部助教授である。専門は建築学科の建築材料。しばしば独身と間違われるが、須摩子さんというミステリィ好きの、二つ年下の奥さんがいる。水柿君は、いつしか自分の身の回りで起こるなにげないささやかな不思議を、須摩子さんに披露するようになっていた。水柿君の周りには、ほのぼのミステリィがいっぱい。今日もまた、あれが消え、これが不思議、そいつは変だ、誰かなんとかしろ! と謎は深まる。

 「ブルマもハンバーガも居酒屋の梅干で消えた鞄と博士たち」(「ポンツーン」1999年5月号)
 「ミステリィ・サークルもコンクリート試験体も海の藻屑と消えた笑えない津市の史的指摘」
  (「ポンツーン」1999年11月号)
 「試験にまつわる封印その他もろもろを今さら蒸し返す行為の意義に関する事例報告および考察」
  (「ポンツーン」2000年5月号)
 「若き水柿君の悩みとかよりも客観的なノスタルジィあるいは今さら理解するビニル袋の望遠だよ」
  (ポンツーン」2000年10月号)
 「世界食べ歩きとか世界不思議発見とかボルトと机と上履きでゴー」(書き下ろし)

<感想>
 創作エッセイ、とでもいったところ。
 森氏のファンなら買ってもいいかもしれない。特に森氏の筆調が好きな人にはおすすめ。といったところ。


今夜はパラシュート博物館へ   6点

2001年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 N大学医学部に通う大学生・小鳥遊練無は、構内で出会った“フランソワ”と名乗る令嬢に誘われ、「ぶるぶる人形を追跡する会」に参加する。その会の趣旨とは、N大内の各所に出没する謎の紙人形を観察することだという。ぶるぶる人形の謎を解こうとはりきる“フランソワ”に対して、いま一つ気分が乗らない練無だったが・・・・・・

 「どちらかが魔女」
 「双頭の鷲の旗の下に」
 「ぶるぶる人形にうってつけの夜」
 「ゲームの国」
 「私の崖はこの夏のアウトライン」
 「卒業文集」
 「恋之坂ナイトグライド」
 「素敵な模型屋さん」

詳 細

<感想>
 あいかわらず、つかもうとすると掌からするりと抜けていくような、本書の中にあるぶるぶる人形のような謎を展開してくれる。みている我々を嘲笑うように舞踊り、つかもうとするとするりと抜け、ときには狐につままれたように、ぱっと燃えてしまう。森氏の短篇にはあいかわらずつかみ所がないようだ。

「双頭の鷲の旗の下に」では謎そのものよりも、学生がイニシャルで示しているせいか、現在であるにもかかわらず、犀川の過去を思い浮かべてしまい、それが不思議にシンクロしていうような感覚におちいらせてくれる。

「ぶるぶる人形・・・」は人をくったような話であるが、最後は見事にだまされてしまった。UFO遭遇ツアーで本当にUFOに出くわしてしまったが、実は・・・・・・というような感覚。

 今回の作品で驚かされたのは、「私の崖は・・・」と「卒業文集」。「私の崖は・・・」はうまくまとまっており、森氏ノンシリーズの短篇の中では最高の出来に思えた。虚構と現実が混ざり合う様が見事な調和をとっている。「卒業文集」は森氏のいままでの作風からは想像できないものであるが、やさしく、きれいにまとまっている。

 今回はなかなかの力作ぞろいで、うまい具合に一つの作品集として並べられていると思う。


スカイ・クロラ   6点

2001年06月 中央公論新社 単行本

<内容>
 僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。
 その代わり、誰かの右手が僕を殺してくれるだろう。
 大空を舞う戦闘機パイロット、カンナミの物語。彼らに秘められた“キルドレ”という言葉とはいったい・・・・・・

<感想>
「墜ちていく僕たち」と本書が同時に発売された。二冊を買えば、どちらかはミステリーだろうと(最近の森氏の作品には警戒が必要)思い購入したのだが、どちらもミステリーではなかった。森氏の非ミステリー作品というのは自分には肌が合わないのだが、本書は結構お気に入りである。

 他の作品からも森氏が模型などに興味をもっていることがわかるが、本書はその中でも飛行機(戦闘機)を取上げたもの。当然森氏はエンジンとかフォルムとかに興味があるのだろうが、自分にとっては本書はマクロスとかのテストパイロット物語のような感覚で楽しむことができた。難点を一つあげれば、森氏作品特有のあの妙な繋がらない会話調をここまで持ち出すのはやめてもらいたかった。どうも、あの会話調はスピード感や爽快感をぶち壊しにするように思えるのだが・・・・・・

 あと一つ欲をいえば、こういう物語が好きなので結末をなくしてもらいたかったということか。別にそのような思想的な話に持っていかなくても大空を飛ぶパイロットの話だけでも私としては満足だったのだが。


墜ちていく僕たち

2001年06月 集英社 単行本

<内容>
 インスタントラーメンを食べると何故か男は女に! 女は男に! 奇妙な男女関係が描かれる5つの綺譚。

 「墜ちていく僕たち」 (2000年2月号「小説すばる」)
 「舞い上がる俺たち」 (2000年5月号「小説すばる」)
 「どうしようもない私たち」 (2000年10月号「小説すばる」)
 「どうしたの、君たち」 (2001年1月号「小説すばる」)
 「そこはかとなく怪しい人たち」 (2001年4月号「小説すばる」)

<感想>
 森氏の書く短編は必ずしも推理小説とは限らない!! これは「まどろみ消去」のときから変わらないことではあるが・・・・・・。それでもそのなかの1編「どうしたの、君たち」を読んだときは前のページをめくり、整合性などを確かめてラストに期待してしまったのだが・・・・・・。まぁ気軽に楽しめればいいのだということで。


虚空の逆マトリクス

2003年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「トロイの木馬」 (「21世紀本格」)
 「赤いドレスのメアリィ」 (「別冊文藝春秋」2002年3月号)
 「不良探偵」 (「小説推理」2002年10月号)
 「話好きのタクシードライバ」 (「KADOKAWAミステリ」2002年7月号)
 「ゲームの国(リリおばさんの事件簿1)」 (「メフィスト」2001年5月号)
 「探偵の孤影」 (「小説新潮」2002年1月号)
 「いつ入れ替わった?」 (「メフィスト」2002年5月号)

<感想>
 今回もさまざまな作品が掲載されているのだが、残念に感じるのはミステリ作品が少なく思えたことである。「赤いドレスのメアリィ」、「探偵の孤影」らはミステリというよりはホラー作品といってもいいようである。

「話好きのタクシードライバ」は実体験をもとに書かれたのではないかなという作品。ホラー小説かと思いきや意外なところでユーモア作品となっている。

 一番楽しいのは「ゲームの国」。これはまさにこれでもかといわんばかりに“回文”が並べ立てられている。事件簿1となっていて、これからも続くのだろうかと思いながらも、続編の回文のネタに困らないのだろうかといらない心配をしたくなる。内容自体もダイイングメッセージものであるのだが、なかなか明快にうまく作られていると感心してしまう。

「いつ入れ替わった?」は犀川と萌絵の作品。誘拐事件の内容もさることながら、シリーズの後日譚という設定も考えられているようである。


迷宮百年の睡魔   6点

2003年06月 新潮社 単行本

<内容>
 一夜にして森が消え、周囲が海になってしまった伝説の島イル・サン・ジャック。下界から閉ざされたこの島は通常外部からの人を受け入れることはない。しかし、ジャーナリストであるミチルはウォーカロンのロイディと共にこの島への立ち入りをすんなり許可される。
 そしてこの不思議な島にミチルが訪れたとき、殺人事件が起きることに! 1人の僧侶の死体が発見されるのだが、何故か首が持ち去られていたのだった。いったい誰が何の意図で?
 何のために存在するのか、不思議なこと島の数々の謎。そして殺人事件の真相。ミチルは全ての謎を解き明かさんとするのだが・・・・・・

<感想>
 これはまた一風変わったミステリーとなっている。殺人事件が起きてその首が持ち去られるものの、この事件自体はあまり気になるものではない。それよりも主となるべき謎は、この島自体の謎であろう。

 一夜にして風景が変わることがあるという島。そして島自体が何故か自転している。さらには島に住んでいる人たちの虚無感と、やたらと怪しい謎、謎、謎。たとえ不可解な殺人事件が起きたとしても、このような島であれば特におかしなこととも思えない。そして事件と解く鍵はやはり、この島自体の目的にも密接に関わってくるわけである。ミステリーの観点において、このような魅力的な島を設定した時点で著者の勝ちといえるであろう。設定の妙によるミステリーである。

 しかし前作でもそうであったが、主人公が足を踏み入れたとたんに今まで犯罪のなかった街に事件が起こるというのも考えさせられる。量子力学の話しではないだろうが、まさに観察することによってその事象に影響を及ぼしてしまうという現象が物語として語られているようでもある。これぞ理系ミステリーとまでいうのはいいすぎか。


ZOKU   5点

2003年10月 光文社 単行本

<内容>
 他人に迷惑をかけるが、それは訴えられるほどのものではないという悪戯を繰り返す犯罪組織「ZOKU」。そしてその犯罪を防止せんとする組織「TAI」。片や機関車、片や飛行機に乗り込み、火花を散らしてぶつかり合う!?

<感想>
 森氏のノン・シリーズの本には「そして二人だけになった」「スカイ・クロラ」のような名作もあれば、「工学部・水柿助教授の日常」「墜ちていく僕たち」のようにいまいち意味の伝わらない小説と大きく2つに分かれるような気がする。残念ながら、本書は後者のほうに属されるものとなっている。

 まさに、おもちゃ箱をひっくり返したかのような内容である。最初は物語り全体のテーマが決まっていたような気がするのだが、第2話からそれが破綻し、突然キャラクター小説となってしまっている。しかもキャラクターが立っていないにもかかわらず、そのような展開が押し進められる。

 当初のテーマは、犯罪として訴えられない程度の迷惑を社会に振りまくというもののようであった。それが最初の“暴音族”まではよかったものの、そこから良いネタが思いつかなかったかのように感じられる。その関連のネタのみで物語を構成できれば、また違った見方ができる小説になっていたかと思う。最初とラストだけは内容が決まっていたようなのだが、その間の話をうまくつなげる事ができなかったといったところか。


探偵伯爵と僕   6点

2004年04月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 僕が初めて伯爵を見たのは、小学校の隣にある公園だった。
 小学生の馬場新太は名前はアールで職業は探偵だという50歳くらいの男に興味をおぼえ、しだいに親しくなっていく。そんな折、新太の親友が行方不明になるという事件が起こる。その親友と最後に会ったのは新太自身かもしれないと思い、新太は事件を調べ始める事に・・・・・・そう、探偵伯爵と一緒に。

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<感想>
 本書を読んで感じたことは、この本の前に読んだ、同じミステリーランドの作品「いつか、ふたりは二匹」と犯人像がなんとなく似ているなということ。また、これも同じくミステリーランドにて書かれた殊能氏の「こどもの王様」にもどこか共通する雰囲気が感じられた。

 最近、こどもを狙う犯罪というものが多発している。そういう世相からか、このような子供向けの本といえるものの中に、子どもを狙う大人が描かれていてもそれほど違和感を覚えなくなった。今の世の中、子供達はそういう決して良いとはいえぬ安心できない状況の中で生きていかなければならないのかなと、ふと考えてしまった。

 といった私の思いに臆することなく、本書に出てくる主人公は強くたくましく生きている。大人達の思いをよそに、子供は子供で楽しく生きてゆくのだろうなという希望もこの本は与えてくれるものとなっている。

 本書の一番の特徴は主人公と探偵伯爵の掛け合いであろう。近所にこういった害のない名物おじさんという人はどこの地域にもいるのではないだろうか。それでもさすがにこの探偵伯爵のように知己にとんだような人はめったにいないだろう。しかし今時の賢そうな少年に対するのであれば、このくらいの人物でなくてはおじさん達はとても太刀打ちできないのではとも感じてしまう。

 起こる事件が少々陰惨なように思えるので、あまり手放しに薦められる本ではないのかもしれないが、それでも小学生がおくったひと夏の冒険物語というようにとらえてよいであろう。


ナ・バ・テア   6点

2004年06月 中央公論新社 単行本

<内容>
 クサナギは新しい基地に配属された。そこでも前にいた基地とは変わりなく、ただ空を飛び、また地上に戻る生活が繰り返される。ただ、その基地にはクサナギでさえも一目置く天才、ティーチャーと呼ばれるパイロットがいた。そして戦闘を繰り返し、生き延びてゆくうちに基地のNo.2という地位を確立してゆくクサナギ。飛行機も新型が配備され順風満帆の日々が続くと思われたのだが・・・・・・

<感想>
 本書は完全にミステリーではなく、戦闘機パイロットの物語という体裁をとった作品となっている。とはいえ、中途半端にミステリーにされるよりは、本書のように割り切って、物語として綴ってくれたほうが、読むほうとしては楽しめる。このシリーズは私にとって、森氏の作品の中では好きなほうに入る作品である。

 今回の作品では主人公クサナギが別の基地に配属されて、そこでの生活模様が描かれた作品となっている。最初のほうは感情が無機質的に描かれ、渇いた物語というような雰囲気(それがまた心地よい)なのだが、それが後半へ進むに従い、だんだんと主人公が感情にとらわれるようになり、しがらみに絡み取られるかのような不自由さを感じるものとなっていく。

 この主人公が望む世界こそが、何のしがらみにもとらわれない、ただ単に空を飛ぶだけのものであったはずなのである。しかし、その主人公が自分自身の選択によって、しがらみのなかに足を踏み入れてゆくことになるのである。

 本書では、結局人間は空を飛ぶだけで生きることはできないということを描いているのであろうか。自由に生きたいにも関わらず、地上のしがらみから逃れることは決してできないということが皮肉をこめて語られているようにも感じられる。

 ものの考え方は人それぞれであるのだろうから、こういう書き方の好き嫌いも人それぞれなのだろうけれども、私としてはもっと無機質な物語にしてくれた方が好みである。せっかく自由な気持ちで空を飛んでいるのだから、と考えるのは私だけであろうか。

 また、物語を通して最後まで読むと、直接的には関係ないにも関わらず、まるで“真賀田四季”の物語を読んでいるように感じられたのだが、こういった描き方もまた余分と感じられた。


ダウン・ツ・ヘヴン   6点

2005年06月 中央公論新社 単行本

<内容>
 クサナギは戦闘中、なんとか相手をしとめたものの、自分自身も怪我を負ってしまう。そのため病院に入院することになるクサナギ。入院先の病院は一般の病院であり、その一般世間に置かれたようにな状況にとまどいを隠せない様子のクサナギ・・・・・・しかし、怪我が治った後にはクサナギに新たな任務が・・・・・・

<感想>
 戦闘機物の締めくくりの作品となるのだろうか? それともまだ続くのか? 今作の感想はまさに“煮え切らない”といったところである。まぁ、その“煮え切らない”という思いは作品中のクサナギが一番感じているのではないかと思うのだが。

 この作品の後半の戦闘エピソードがこれら戦闘機物の物語の中でひとつの話に過ぎないというのであれば別にかまわないのだが、これが最後の幕引きというのであれば納得する事はできないというしかない。それに何か今回は特に戦闘機シーンも少なかったように思えたし・・・・・・。

 特に完結編とも書いてないから、まだ終わらないと考えてもいいのかな・・・・・・ならば、さらなる続編に期待ということで。


レタス・フライ   5点

2006年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「ラジオの似合う夜」
 「檻とプリズム」
 「証明可能な煙突掃除人」
 「皇帝の夢」
 「私を失望させて」
 「麗しき黒髪に種を」
 「コシジ君のこと」
 「砂の街」
 「刀之津診療所の怪」

<感想>
 森氏の講談社ノベルスでの短編というと、S&Mシリーズ、Vシリーズのキャラクターたちが登場するミステリー短編集という印象であったのだが、それも年々薄れてきたように思える。今作ではそういう意味で満足させてくれるのは「ラジオの似合う夜」と「刀之津診療所の怪」の2作だけであった。特に「刀之津診療所」では意外なキャラクターも登場し、なかなか楽しませてくれる趣向になっているので森ファンは必見の一作と言えよう。

 では、それ以外の作品はと言うと、短編というよりはショート・ショート並べられただけといったところ。私の印象ではショート・ショートというのは必ずなんらかのオチがついたもの(特にミステリー作家が書くのならば)と思っているので、特になにもなしに、そのまま終わってしまうと拍子抜けしてしまう。ある種の幻想小説ともいえなくはないのだが、幻想小説としても食い足りなさを感じてしまうので、色々な意味で中途半端。

 別にそんなに急いで出版しなくてもいいと思うので、もう少しそれなりの作品がたまってから出してくれてもいいと思うのであるが・・・・・・。


フラッタ・リンツ・ライフ   

2006年06月 中央公論新社 単行本

<内容>
 草薙水素(くさなぎ すいと)の部下であるパイロットのクリタ。クリタはそれなりに腕のいいパイロットであり、敵を撃墜してきた後には、娼館のフーコの元へと通い、また亡くなったパイロットの妻であるというサガラのところへ訪ねていく。
 そんな日々を繰り返すなか、クリタはいつの間にか草薙をとりまく陰謀の中へと巻き込まれてゆく。それは“キルドレ”という存在を否定するものの活動でもあり・・・・・

<感想>
 前作の3冊目でこのシリーズも終わったのかなと思い込んでいたのだが、4作目にして物語の視点となる主人公が変わり、今後もなんらかの形で続いていくような様相を見せている。

 本書の主人公は前作までの主人公草薙の部下であるクリタ。ただ、主観が変わったにもかかわらず、草薙の登場場面は多く、また物語自体も草薙を巡る内容であることに変わりはない。

 相変わらず、物語の背景となる全体像は語られないまま、パイロット達が戦線へと飛び立つ様子が描かれている。そのあたりは前作までとかわらないのだが、今回は“キルドレ”という存在に対しての大きな動きがあり、それにより草薙自身の地盤を揺るがすような大事へと発展していく。と、文字にすると大げさなようにも感じられるのだが、実際に大きな出来事が起こっているのはたしかなのである。にもかかわらず、相変わらず淡々とした語り口で展開していく物語のためか、緊迫感はどうにも薄く感じられてしまう。

 また、本書の特徴は主人公の感情描写であると思える。この主人公も草薙同様、あまり感情を剥き出しにするタイプではなく、淡々としたものゆえ、草薙の視点とはそう変わりはない。しかし、男性であるがゆえに彼が異性に感じる感情、遭遇する出来事、それに対する行動といったものが草薙とは異なるものとなっており、それらは初々しくさえも感じられる。

 といったところで、先の見えないこのシリーズ。別に本書で終わり、となっても無理のないような幕切れであるのだが、まだ今後も続くのだろうか? 続くのだとすれば、どのような形で話が継続されるのか? そこが一番興味深いところである。




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