其の伍
三会目は思いのほか早かった。


昨夜の火事場は呉服屋の大棚だった。
幸い出火の発見も早く、火元である台所を少々焦がした程度で済んだ。
店の主人は涙を流しながら喜んでいた。
「商品も倉も金も無事だったのはあんたらのおかげだよ」
水浸しの台所で、店主はわ組の頭・神田に大金を握らせた。

一一一一一金持ちの考える事はよくわかんねえな
神田は組の者に貰った謝礼を均等に配付した。一人頭五分。
「ついてたなあ、俊作。これで今日も花街に行けるって?」
「うん…」




一一一一一ぐっと耐えてる顔がたまらないって
真下屋の正義の言葉を思い出す。

一一一一一本気じゃないなら抱かないで!
すみれの涙を思い出す。

一一一一一また…来てくれるか?
藤室の瞳を思い出す。







藤の香りをした毒は、甘いのだろうか。






男を誘うなんて、もう何年振りだろう。
見世に上がったばかりの頃、訳も分からず男を誘った。
それがこの街で生きていくと言う事だから。
にこりと笑い、唇を寄せ、耳元で囁いた。

抱いて、と。

一月もしないうちにその必要はなくなった。
こちらから誘わなくとも、男達は襖を閉めた途端覆い被さって来たから。







上の唇に啄むように口付けする。
「あんた、結構有名なんだね」
下唇の輪郭を唾液で濡らした舌でなぞる。
「色んな人から話聞いた」
肉厚の唇に、藤室の紅が移る。
「どんな女よりも綺麗で、唄も踊りも上手くてさ」
濃い色をした紅が、血のように濡れる。
「あの時の顔がたまんないって」
触れていた唇をふ、と離して藤室は笑う。
「わ組の纏持ちだって有名だろう?」
「そう?」
「…度胸があって、器量も良くて」
もう一度深く口付けて。
「笑った顔が、とても優しいらしい…」
俊作はくすりと笑って、細い身体を抱き寄せる。
「本物を見た感想は?」
「…噂は信じない方がいいな」
なんだよそれ、とはだけられた胸元に手を滑らせた。




「オレ、男抱いた事ないからよくわかんねえんだけど」
「…教えてやる」
藤室はごつごつと骨張った俊作の掌を掴んで、平らな胸に導く。
俊作の指がそろそろと女を愛撫するように撫で回す。
紅く色付いた乳首に触れると、白い身体がぴくりと跳ねる。
指の腹で押しつぶすように弄び、肌を啄みながらそこを唇に挟む。
緩く歯を立て、舌で舐め回し、強く吸い上げてやる。
「あ…っ…はあ…ん…」
「ここ…感じるんだね…」
「ん…」
少し伸び上がって曝け出された項にべろりと舌を這わせ、耳を甘噛みしながら、
俊作は囁くように訊ねる。
「他はどこがいいの?」
導かれた掌が行き着く先は、まず脇腹。
さわり、と撫で上げると藤室は頭を仰け反らせ、甘い吐息を漏らす。
「他には?」
次に導かれたのは内腿。
引っ掻くように軽く爪を立てて指を滑らせる。
ふるふると頭を左右に振り、藤室は掴んだ掌を性器に導く。
「…ここ?」
緩く幹を握り込むと、薄く開かれた唇からは艶かしい喘ぎ声。
既にぬるぬるとした液が溢れ、上下に扱くとくちゅくちゅと淫らな音がする。
「んっ…あ…っ…いいっ…」
「いい声だね…女よりも色っぽいよ…」
ちゅ、と音を立てて眉間に寄せられた皺に口付けて、そのまま首筋や胸板や乳首
や臍に口付けを落として、先走りに濡れる先端を舐めあげる。
「っ…!俊作っ…」
「嫌?」
「嫌じゃ…ないっ…でも、お前が…嫌、だろう…?」
「ううん、嫌じゃないよ…気持ち、いいでしょ?」
無邪気に笑って、再び舐め始める。
深く銜え込み、強く吸い上げると藤室の腰ががくがくと震え出す。
「やあ…っ…もおっ…しゅ…んさっ…離し…っ!」
銜えていた性器が一瞬体積を増して、そのまま果てた。
「っ…げほっ!」
いきなり口腔内に射精され、俊作は驚いて咽せてしまった。
「しゅ…んさく、大丈夫か…?」
「ん、大丈夫…」
それよりさ、と藤室の唇に自分の唇を合わせ、舌で口腔を愛撫する。
「どうすればいいの?」






「…男らしい手だな」
「汚い手でしょう?」
無数に残る火傷の痕。その指を銜え、唾液で濡らす。
掴んだ手首を下肢の最奥へと導いて。
「入れていいの?」
小さく頷いて、指を入り口にあてがわせた。
つぷり、と狭い穴に指が入る。
「っ…あ…なか、で…擦って…解すんだ…」
掠れた声で藤室は教える。
女の膣を扱うように、ゆっくりと抜き差ししてやる。
「あっ…!」
ある所を指で擦ると、はっきりとした嬌声が上がった。
「ここがいいの?」
その部分を集中的に攻めてやると、性器が再び立ち上がって来る。
「ねえ、ここいいんでしょ?」
耳元でわざと意地悪な声で囁くと、藤室は何度も頷いた。
指を二本に増やして、尚もそこを嬲る。
「ああっ…しゅ…っん…いいっ…もおっ…」
「どうして欲しいの?」
いやいやをするように首を振る藤室は、濡れた瞳で俊作に強請る。
「いれ…て…」
震える手で、俊作の性器を握りしめた。








一一一一一本気じゃないなら抱かないで!








「お前が…欲しい」






遊びでもいい。
今だけでもお前が欲しい。






黒く濡れた強い瞳の意味を、俊作は気付かない振りをした。






「はあっ…んっ…しゅ…んさ…くうっ…!」
内壁を擦るように腰を打ち付けると、濡れた音がする。
初めはゆっくりと、次第に激しく。
「んんっ…あ…もっ…い…っ」
きつく締め付ける中は熱を帯びていて、熱い。
下腹で擦られる藤室の性器の感触。
白濁の液を溢れさせて、ぬるぬるとしている。
「や…もおっ…」





自分の腕の中で悶え狂う男の顔。





「…俊作っ!」









 


目眩がする程美しかった。

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