気が付くと、優作は何かが唇を啄む感覚で目が覚めた。
 まだ夢でも見ているのかと思い薄目を開けると、目の前には悠人の顔のドアップが。
「うわっ?」
 突然のことに驚いた優作は、思わず後ろに飛び下がり、勢い余って壁に頭をぶつけてしまった。
「〜〜〜〜っ」
「だ、だいじょうぶ?」
 後頭部を抱え込んで悶える優作を、悠人は心配そうにのぞき込んだ。
「ごめんね。だって、優作の寝顔見ていたら、その……つい……」
 口に手を当てて顔を真っ赤にして照れる悠人の表情に、優作は頭の痛みも忘れるほど、年甲斐もなくどぎまぎとしてしまった。
 こんなに可愛い悠人が、これからはいつも自分の側にいるんだと思うと、優作は力一杯悠人のことを抱き締めずにはいられない。
 突然の抱擁に、今度は悠人が驚く番だったが、すぐに優作の広い背中へと愛おしげに手を回した。
 熱い抱擁の後、二人は顔を見合わせ、どちらからともなく唇を寄せ、激しく深いキスをかわす。
 長い長いキスの後、名残惜しそうにお互いに顔を離す。
 窓から差し込む長くなった影を見て、優作が尋ねる。
「何時だ?」
「んと。六時になるのかな」
 ベッドの脇に置かれた時計を見て、悠人が答える。
 優作はおもむろにYシャツを脱ぎ捨て、床に投げ捨ててあった煙草を拾うと、さっそく火をつけた。
「そんな時間か。トワイライト開いていたっけかなぁ」
「もう飲みに行く気?」
 呆れたように悠人が叫ぶと、優作は不満そうに紫煙を吐いた。
「マサが言ったんだよ。悠人の帰還祝いやるって。ヤツのおごりだし」
「そうなの?」
「ああ。起きたら来いって言ってたけど、さすがに時間も時間だし」
 優作は煙草を片手に頭を掻いた。
 大きな瞳で優作の顔をのぞき込む悠人を見て、優作は悪戯心に駆られ、煙草をくわえたまま口を歪めて笑った。
 まだ長い煙草を灰皿に突っ込むと、悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、悠人を抱き寄せる。
「ゆっ、優作っ?」
 いきなり抱きつかれた悠人は、反論をするヒマもなくベッドに押し倒されると、優作に馬乗りにされてしまった。
「ちょっ……なんのつもりだよっ」
「え? 車の中で、悠人クンたら『休憩したい』っていってなかったっけ?」
 意地悪そうに優作が尋ねかえす。
「優作が言わせたんじゃないか!」
「でも、結局したかったんだろ?」
「……っ!」
 悠人は反論できずに唇を噛みしめ押し黙ってしまった。
 たしかに、優作と離ればなれになってから、ずっと優作とこうなりたいと思っていたのも事実だが……
 耳から首筋への啄むようなキスと、服の上から全身をまさぐる優作の微妙な手つきに、悠人は思わずビクリと身体をくねらせる。
「オレはずっとこうしたかったぞ。悠人のこと……」
「馬鹿……」
 あまりに正直に優作が思いを打ち明けるので、悠人は何て返答してよいかわからず、ついつい毒づいてしまう。
 だが、悠人の心の内を理解している優作は、にやりと笑うと、悠人の耳に優しく息を吹きかけた。
「やっ……!」
 甘い痙攣が全身を襲い、悠人は身悶えしてしまう。
 切ない喘ぎ声をあげる悠人の顔に、優作は優しく両手を添える。
 愛おしいものを見つめる真剣な眼差しで、じっと悠人の目を見つめて言った。
「悠人……愛している」
「優作……」
 いつになく真剣な優作の言葉に、悠人は思わず息を飲んで優作を見つめ返す。
 相手が真剣に愛を告白してくれているのなら、こちらも真剣にならざるを得ない。
 悠人は口の中にたまっていたつばを飲み込むと、同じく真剣な面持ちで優作の目を見る。
「優作……、愛してるよ……」
 緊張の走る部屋の中で、二人は互いを見つめ合うと、やがてどちらからともなく笑みをこぼした。
 優作は悠人の身体を抱き寄せ、口で悠人の首筋を責めながら、空いている手で悠人の服を脱がし始める。
 沈む夕陽が宵闇を呼び起こす前に、ド派手なネオンの電飾が一斉に雑多なこの街を照らし始めた。
 電気のついていない部屋の中にも、ネオンの明かりが入ってくる。
 チカチカと光るネオンの明かりで、素っ気もないこの部屋にも妖しい雰囲気が漂う。
 電飾の明かりに照しだされる悠人の肌に、鞭打ちの痕が痛々しげに残っている。
 優作は眉間にしわを寄せ、赤くなっている一筋にそっと指を這わせた。
「あっ……」
 喘ぎとも驚愕ともつかない声で、悠人が心細そうに優作を見つめる。
「痛むか?」
「ううん」
「しんどくなったら、必ず言えよ」
「だいじょうぶだって……」
「いいから、無理だけはするな」
 そう言いつつも、優作は悠人の喉に舌を這わせ、片手で胸を強く揉んだ。
「あンっ……!」
 胸を揉みながらも指の間に乳首を挟み込んで弄ばれると、悠人は快感に身体を仰け反らせた。
 喉や首筋を責め続けていた優作の唇が、段々と下がってきて、今度は空いている方の乳首を舐め始める。
「あっ……や、ううンッ! はっ、ンンッ!」
 両方の乳首を舐められたり摘み上げられたりしたので、悠人は更に身をよじらせた。甘くてじれったいような感覚を、悠人は無我夢中で貪っている。
 身をよじりつつも、優作の頭を抱き締める手を離すことなく、それどころか更に力を込めている。
 優作の手が腰に伸び、悠人の下半身を包むGパンに手が伸びた。
 脱がされると思った悠人は、反射的にびくりと身体を震わせたが、優作の指はGパンの上から悠人の腰骨を撫で回しているだけである。
 まどろっこしい感覚に、悠人は腰を左右に振って無言の抗議をする。
 物欲しそうに腰を振る悠人に、優作は顔を上げ意地悪そうな表情をして見せた。


探偵物語

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