優作たちが事務所に着くと、留守番をしていたマサは、悠人が帰ってきたのを心から喜んでいた。
 眠そうにしている悠人をベッドに寝かせると、優作は大きく伸びをしてソファーに腰掛けた。
「だあああっー! さすがに今回は疲れたぁ」
「お疲れさまー」
 マサは優作にねぎらいの言葉をかけると、缶ビールを投げてよこした。
「おう。さんきゅー」
 よく冷えたビールの口を開け、優作は一気にビールを飲み干す。
「ホントは悠人クンも一緒にって思ったんだけど。無理もないわね、あの様子じゃ」
 マサはそう言うと、缶ビールの口を開けて悠人が寝ている部屋に向かってビールをつきだした。
 二本目のビールに手を伸ばした優作は、半分ほど飲むと大きなため息をひとつつく。
 その様子を見たマサは、心配そうに優作に尋ねる。
「工藤ちゃんも疲れてんじゃなぁい?」
「まあね」
「工藤ちゃんも悠人クンと一緒に休んだら? アタシはもう少ししたら仕事に行くけど、起きたら二人一緒にお店においでよ。一杯くらいならおごるわよ」
「一杯だけかよ?」
「全部おごりなんて言ったら、あんた底なしに飲む気でしょ? そんなことしたら、アタシ破産しちゃうから、やめてよね」
 不平を洩らす優作に、マサはシャレにならないと言わんばかりに言い返す。
 それでもまだぶーたれている優作だったが、さすがにもう言い返すほどの気力はない。
 またひとつ大あくびをすると、ごろりとソファーに横になった。
「ほらほら。そんなとこで寝てないで。どうせ寝るなら、悠人クンのとこへ行きなさいよ」
「あいつも疲れてんだから、ひとりでぐっすり寝かしてやったほうがよかねぇか?」
「そんなことないわよ。ようやく恋人に会えたのも夢のようだっていうのに、起きて一人じゃ返って心細いんじゃないの? 目を開けたとき、すぐ側に工藤ちゃんがいることが、今のあの子にとってなによりよ」
「そんなもんかねぇ」
「そういうものよ。例えそんな小汚い顔でもね」
「小汚いは余計だ」
 優作はそう言ってむくれると、ジャケットとネクタイを外してその場に放り投げる。
「まあ、起きたとき営業時間内なら、邪魔しに行くから。とりあえず、オレももう寝る」
「じゃあ、アタシもそろそろ仕事に行くわ。お休み〜」
 そう言うと、マサはバッグを手に取り、軽やかな足取りで事務所から出ていった。
 マサが出ていったあと、優作はドアの鍵をかけ、またひとつ大きく伸びをしたあと、悠人が寝ているベッドルームに足を進める。
 規則的な寝息を立てて眠る悠人の表情は、安堵に包まれていた。
 安らかな眠りを邪魔するのは気が引けたのか、優作がやはりソファーで寝ようかと思ったその時、悠人は寝返りを打って何やらもごもごと寝言を言っている。
「……ゆうさくぅ」
 完全に眠っているはずなのに、この眠り姫ははっきりと優作を呼んだ。
 優作は目を白黒させて驚いたが、すぐに口をほころばせると、寝返りを打った悠人が開けてくれたスペースに身体を潜り込ませた。
 そして悠人の小さな頭を胸に抱き、優作もまた眠りの世界に誘われていく。



探偵物語

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