展望デッキから、上海に向かって出発する飛行機を、優作と悠人は見えなくなるまで見送った。
 その後、優作は空港内のレンタカー屋で大きめのバンを借りると、ロータリーの隅に放置してあったベスパを回収して乗っけた。
 白昼にノーヘルの二人乗りは、さすがにまずいと思ったからだ。
「大変だったんだぞ。明け方だってーのに、パトカーに追い回されるわ、何とか裏路地に逃げ込めたと思ったら、野良犬に囲まれるわで、そりゃもう大騒ぎだよ。一時は本気で間に合わないかと思ってさ」
 オーバーアクションを交えて来るときの状況を説明する優作に、悠人は思わず吹き出して笑った。
「オレも、ここまで連れてこられたときには、もうダメかもって諦めそうになったよ」
「でもまあ、こうして再び逢うことができたんだ。結果オーライってこった」
「そうだね」
 満面の笑みを浮かべて悠人が返事をする。
 煙草を口にくわえたまま、優作は悠人に片目をつむって見せると、顎で車を指し示した。
「乗れや」
「うん」
 悠人は頷くと、乗車口の高いバンの助手席に飛び乗るようにして座った。
 優作も運転席に座ると、キーを回してエンジンをかけると、車を走らせる。
「さて、これからどうする?」
「え?」
「疲れてんだろうから、真っ直ぐウチに帰るか? それとも、メシ食って遊んでいくか。もしくは、どこぞで休憩していくってぇ選択肢もあるけど?」
 最後のほうには、ちょっと意地悪そうな言葉の含みがあった。
 ニヤニヤと笑う優作の顔を見ると、言葉の真意が理解できる。
「16号線は休憩する場所、多いんだよなぁ」
 すっとぼけた口調で、優作は大きな声で独り言を言う。
 やっぱりだ。
 悠人は口を尖らせてむくれると、畳みかけるように優作が尋ねてくる。
「で、どうする。悠人クン?」
 むくれたままの顔で優作を睨み付けながら、悠人はしばし思案して答える。
「……メシ。それから休憩! これでいいのっ?」
「悠人さえよろしければ」
 相変わらず人を食ったような受け答えだ。
 それでもこんなやりとりが懐かしく思え、ふと悠人は笑みをこぼす。
 たった四日しか離れていなかったけれど、もしかしたらもう二度と会えないと思っていただけに、こうして冗談を言い合えることに、悠人は胸が熱くなる。

 館山自動車道を市原で降りると、二人はそこで食事にした。
 再び高速道路に乗って、東京アクアラインを通って神奈川県に戻ってきた。
 横浜方面に向かう湾岸線を通ると、悠人は何故か帰ってきた実感につつまれる。
 本当は東京を通って、どこかで休憩してから横浜に帰って来るつもりだったのだが、道中車の中でうとうととしていた悠人を可愛そうに思った優作は、どうするにせよまずは横浜に戻ることにしたのだ。
 運転している優作自身も、ぼやきはしないが疲れている。
 無理もない。
 悠人も優作も、お互いを心配し通しで、この四日間ロクに休んでいないのだ。緊張の糸が切れ安心感がどっとわき出、さらにお腹いっぱいご飯を食べたのだから、どうしても眠くなる。
 アクアラインを通っている最中、優作に寝ていてもいいと言われたが、日本の景色を改めて堪能したいと思った悠人は、眠さを堪えて雑多な景色に見入っていた。
 それでも目を擦って眠気を堪えることが多くなった悠人に、優作は心配そうに言った。
「このままウチに帰ろうか」
「ん……。でも……」
「ご休憩なら、ウチでもできるだろ。なあに、時間はこれからたっぷりとあるんだ。ホテル行きたきゃ、また元気なときに連れてってやるよ」
「うん……」
 目を擦って頷く悠人の頭を、優作は優しくそっとなでた。
 二人を乗せた車は、一路中華街を目指して走る。



探偵物語

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