実は、劉太戴が何かして悠人の身体の自由を奪ったあとも、悠人の意識ははっきりしていた。
 だが、叫ぼうにも暴れようにも、どうにも身体が動かない。
 そうこうしているうちに、悠人は元の部屋に連れてこられた。
 寝室に入ると、劉太戴は悠人の靴を脱がせて、ベッドに横たわらせた。
「申し訳ございませんが、しばらくの間そのままでお許しください」
 劉太戴はそう言って一礼すると、寝室から姿を消した。
 薄暗い部屋の中でただ一人。
 意識ははっきりしているのに、指一本動かすことのできないもどかしさ。
 こうしているうちに、どのくらいの時間が経っているかさえ見当がつかない。
 頭の中でいろいろなことがぐるぐると蠢き、気分が悪くなってきた。
 そんな状況下では、悠人の気持ちは悪いほう悪い方へと向かっていく。
 明日には中国に行く。いつ日本に帰ってこられるかわからない。
 もう二度と優作に会えないのか。
 そう思うと、目の奥が熱くなってきた。
 あふれでる涙を、悠人は止めたいと思わなかった。
 これが今、悠人にできるただひとつのことなのだから。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。
 流した涙は、すでに乾ききっている。
 ふと、寝室のドアノブが回る音がして、何者かの足音が聞こえてきた。
 自由に動かない体では、音のする方向を見ることもできない。
 劉太戴なのか、黄仲正なのか。
 悠人は不安で押しつぶされそうになってきた。
 卓上灯の明かりがついて、見えたのは黄仲正の顔だった。
 悠人の不安は一気に倍増した。
 黄仲正の手が、悠人に向かってのびる。
 逃げたくても、悠人は指一本、口ひとつ動かせない状態だ。
 叩かれるっ!
 悠人は目をつむって歯を食いしばりたい衝動に駆られたが、どうすることもできない。
 しかし、悠人の予想とは裏腹に、黄仲正の手は愛おしげに悠人の頬と顎を撫でるだけだった。
「この馬鹿者が……」
 言っていることとは裏腹に、口調は優しかった。
 悠人が驚いていると、黄仲正はまるで独り言でも言うように呟き続ける。
「私はいつだって、おまえのことを考え続けてきた。どんなときでも、おまえの幸せを願って止まないんだ。おまえが本当に幸せになれるというのなら……」
 黄仲正の言葉はそこで止まったが、悠人は心臓を握りつぶされたかのように苦しくなった。
 今更そんなことを……!
 悠人を不幸のどん底に陥れたのは、他ならぬ黄仲正ではないのか。
 もし悠人の口だけでも動けば、そう叫んでいたかもしれない。
 だが、言いたくても言えないのは、劉太戴の技で体の自由を奪われているせいだけではない。
「悠人……。大きくなったな」
 こんな愛しく切なそうな目で悠人を見るのは、初めてなのだ。
 悠人の心臓が段々と高鳴っていくのがわかるが、何故か黄仲正に知られるのはイヤだった。
 そんな悠人の心の内を知ってか知らずか、黄仲正はゆっくりと悠人の首筋に顔を埋めた。
 いくら身動きがかなわないからといって、拘束もされずしばかれもしない黄仲正とのセックスは初めてだ。
 責められるたびに少し身体を震わせることができる程度で、相変わらず声すらあげることができない悠人だったが、どうしていいかわからないまま、やがて絶頂へとつきあげられ果ててしまうと、悠人はそのまま意識を失った。


探偵物語

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