悠人が射精した後も、まだ後孔をバイブレーターが責め続けるとき、劉太戴と黄仲正が帰ってきた。
 中国行きを控えている黄仲正だから、日本での仕事の時間は長かったり短かったりの不規則である。
 今日は会議だけで、予定の仕事は終わりだ。
 二人がこんなに早く帰ってくるとは、予想外のことだった。
 もっとも、痴態をさらしている悠人のいる寝室に入ってきたのは、黄仲正だけだったが。
 受話器の横で尻を突き出すように転がっている悠人の姿に、黄仲正は悠人が何をしていたか理解した。
 ずかずかと大股で歩み寄る黄仲正に、悠人はびくりと身体を震えさせるが、それでも精一杯に黄仲正を睨み付ける。
「工藤くんのところだな」
 何の感情もこもっていないような声で、黄仲正が尋ねる。
 悠人は後ずさりをしながらも、黄仲正の目を直視して睨んだままだ。
 後ろを犯す機械が与える感触より、言い得も知れぬ黄仲正が放つ恐怖より、きっと優作が助けてくれるという信念に近いものが、追いつめられている悠人を気丈にしていた。
 黄仲正は手の甲を思い切り振り上げ、悠人の頬を打った。
 パシッという音が部屋中に響き、悠人の身体は勢い余って少し浮いた。
「まだ諦めていなかったのか」
 呆れたように黄仲正が言うが、悠人の気丈な態度は変わらない。
 後孔で蠢くモノが与える振動に歯を食いしばって耐えながら、悠人は絞り出すように声をあげた。
「オレは……あんたと一緒になんか、行かない……から、な……」
「なんだと?」
「オレは、中国に行かないって……言ってるんだ。優作と一緒に……日本……で暮らすんだから……」
「工藤くんにそう言われたのか?」
 悠人は黄仲正の目を見たまま、首を横に振った。
「オレが……オレがそう決めたんだ」
「……そうか」
 何かケチを付けられるのではないかと用心していた悠人だったが、黄仲正が思いの外あっさりと短い返事をしただけだったので、さすがに戸惑いを覚えた。
 戸惑いも束の間、黄仲正は革靴のまま悠人の後孔に入っているバイブレーターと袋の裏を一緒にグッと踏みつける。
 その痛みと快感に、悠人は身体を反らして身悶えをする。
「あっ? あぐ……う、あ……」
 踏みつけられる感覚が痛みなのか快楽なのかわからず、悠人はくぐもった声を口の端から漏らした。
 氷よりも冷たい黄仲正の目が、身悶えする悠人を睨み付ける。
「本当におまえが決めたのか? おまえが自分で考えたというのか?」
「そ、そ……うだよ……! …から……、だから、何だっていう……うああっっ!」
 黄仲正が足を少し動かすだけで、悠人の更に奥深くに蠢く物体が入り込む。
 奥を蹂躙される感覚に、悠人は更に身体を仰け反らせてビクついた。
 先程射精したばかりで、なおかつ踏みつけられたこの状態でも、悠人のペニスはしっかりと反応して、勃ち上がってきた。
 自分の意志に反して反応するこの身体が、悠人は恨めしかった。
「本当だな?」
 黄仲正がさらに問い詰める。
「ウソじゃな……いっ。オレは……優作が好……はあンッ!」
 話の途中で、黄仲正が悠人を踏みつける足を小刻みに動かし続けた。
 バイブレーターの振動と相まって、悠人の全身を快楽の波が突き動かす。
「あああっ! あっ! いやっ! も、もう……だめ、だっ……はあああっっ!!」
 切ない喘ぎ声とともに、絶頂に達した悠人のいきり立った先端から、白濁した精が勢いよく吹き出した。
 吹き出した精は、悠人の下腹部と黄仲正の革靴に飛沫となって落ちてくる。
 黄仲正は、固い表情のまま足を悠人の股間から離すと、悠人から吐き出された精液で汚された革靴で、悠人の顔を踏みつけた。
「汚れたぞ。舐め取れ」
 息も荒く疲れ果てている悠人に、黄仲正は冷徹に命令する。
 しかし悠人の目は死んではいない。精一杯の憎悪を顔に浮かべ、黄仲正を睨み付けた。
「舐めるんだ」
 黄仲正の口調が更に強くなり、悠人の顔を踏みつける足にも力がこもった。
 以前の悠人だったら、先程の時点で命令された通りに靴を舐めたかもしれない。
 しかし、今の悠人は違う。
 このような屈辱を受けながらも、黄仲正に対する反骨を失わない。
 しかし、そんな悠人の気丈な態度も長くは続かなかった。
 気力より先に体力が果ててしまい、顔を踏みつけられたまま悠人は気を失ってしまったのだ。



探偵物語

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