結局、優作とマサは一言も会話を交わすことなく、江ノ島まで車を走らせてきた。
 海岸に着くと、優作は段ボールを担ぎ、片手に灯油缶を下げて、砂浜まで降りていく。
「工藤ちゃん。どっちか持とうか?」
「大丈夫」
 優作は短く返事をすると、すたすたと大股に海辺の方に歩いていった。
 波打ち際の近くに来て、ようやく優作は段ボールを降ろすと、段ボールの中から新聞紙を取りだして丸め始めた。
 開いた段ボール箱の中に丸めた新聞紙を放り投げると、おもむろに段ボールに灯油をぶちまけた。
 鬼気迫る優作の行動を訝しげに思ったマサは、黙って段ボール箱に近づくと、中から灯油で湿った写真を一枚取り出す。
「マサ止せ!」
 悲鳴に近い声で優作はマサを制止したが、時すでに遅く、マサはすでに写真を手にとって見ていた。
 写真を見たマサは、一瞬すべての行動が停止してしまう。
 それほどに、悠人の醜態写真は、マサにとってもショックだった。
「なによこれ!」
 奇声に近い声でマサが叫ぶ。
 優作はマサから写真を取り上げると、丸めて段ボールの中に投げ込んだ。
「だから止せって言ったんだ!」
 苦々しげな顔をして優作が叫ぶ。
 顔面を蒼白にしたマサが、落ち着かないように胸ポケットから煙草を取りだし、かたかたと震える手でライターを取り出す。
 しかし、震える手ではライターで火をつけることができない。
 そこへ、優作が火のついたライターを差し出した。
 マサは火に煙草を近づけると、思い切り吸い込んだ。
 優作もまた、煙草に火をつけ、大きく煙を吐き出す。
「まあ……、そういうことなんだ」
 多くを語らず、優作はそれだけ言うと、また煙草をくわえた。
「じゃあ、黄仲正が悠人クンを引き取る本当の理由は……」
「たぶんそんなトコだろうな」
「そんな……。こんなことってないわよ……」
 うわごとのように呟くマサを後目に、優作は煙草の煙を深く吸い込んだ。
 短くなった煙草を口から離すと、優作は火がついたまま段ボールの中に投げ入れた。
 火のついた煙草を投げ入れられた段ボールは、一気に燃え上がった。
 写真もネガも、大きな炎の前ですべてが塵と化す。
 燃え上がる炎の中に、マサもまた煙草を投げ捨てた。
 満ちてくる潮が、灰と化した悠人の写真とネガをすべてさらっていくのを確認した後、二人はやりきれない気持ちで車に戻った。



探偵物語

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