あれから悠人は、劉太戴の運転するベンツに乗り込むと、黄仲正によって目隠しと手錠をされてしまい、車がどこを走ってどこに辿り着いたのかもわからないまま、気が付けばこの部屋に押し込まれていた。
 黄仲正と二人きりになると、ようやく悠人は目隠しと手錠を外されたが、一息つく間もなく黄仲正のビンタが悠人の頬に飛んだ。
「心配ばかりかけおって……」
 固い表情のまま黄仲正が悠人に詰め寄る。
 恐怖で顔を強ばらせながらも、悠人は頬に手を当てじりじりと後ろに下がった。
 後ろに下がっていると、悠人の背中が壁についた。
 これ以上逃げられない、と悠人が思った瞬間、反対側の頬に強烈な平手打ちが襲いかかる。
 脳を揺るがすほどのビンタに、悠人は床に叩き付けられた。
 倒れ込んだ悠人に、黄仲正は容赦なく髪の毛を掴み上げて悠人を立たせた。
「五年だ。おまえのせいで、この私が五年も空閨を強いられた。この礼は、おまえの身体で返してもらう」
 あまりに勝手な黄仲正の言い分だが、悠人は何も言い返すことができす、髪の毛を掴まれたままベッドに放り投げられた。
 倒れた悠人の上に黄仲正がのしかかると、黄仲正は悠人の服を裂き、首筋に顔を埋めた。
「やっ! やだ……、いやっ! やめて……よっ!」
 耳から首筋を蹂躙するように舐め回す黄仲正が与える快感に、悠人は身をよじって必死に抵抗した。
 同じコトをされても、優作の愛撫は優しく暖かい気持ちになれるのに、黄仲正のそれは昔から背筋が凍る思いがする。
「いやあっっっ!!」
 むき出しになった悠人の胸を、黄仲正の指がツツっとなで回す。
 恐怖と快感で緊張した胸の突起部分に指が触れると、悠人はビクリと身体を震えさせた。
「嫌がっていても、身体は正直だ。もっとも、仕込んだのは私だがな」
「やだやだ……。ゆ…さく……、たすけ…て…。優作ゥ!」
 黄仲正に責め立てられながらも、悠人は必死に抵抗しながら、優作の名前を叫ぶ。
 悠人の声に一瞬黄仲正の手が止まったが、すぐに悠人を責め始めた。
 しかし、小柄で華奢な悠人だって、五年も経てば多少は背も伸びるし、力だってつく。
 力で感嘆にねじ伏せられていた小学生や中学生の頃とは、事情が違ってきている。
 必死の悠人の抵抗は、思いの外黄仲正を手こずらせていた。
「いくら叫んだところで、工藤くんはここには来ない。いい加減、観念するんだ」
「いやあっ! 優作っ、優作ゥッ! たすけて、助けてよぉっっ!」
「悠人っ!」
 半狂乱になって優作の名を叫ぶ悠人に、黄仲正は往復ビンタを喰らわした。
 それでも悠人は暴れるのを止めず、何とか黄仲正から逃げようと必死だ。
 仕方なく黄仲正は、悠人の身体をうつ伏せにして顔を枕に押しつける。枕に阻まれ悠人の悲鳴はくぐもった声にしかならない。
 苦しみもがく悠人の両手を後ろに回すと、黄仲正はネクタイを外して後ろ手にきつく縛り上げた。
 暴れる悠人が苦しみ疲れるまで、黄仲正は悠人の頭をぎゅっと枕に押しつける。
 やがて、呼吸が苦しくなって暴れ疲れた悠人が大人しくなると、黄仲正は悠人のズボンとパンツを一気にずりおろした。
「……!!」
 息苦しくて声を出せない悠人は、黄仲正に尻を突き出すような格好になったことで、余計に声を失った。
 こんな恥ずかしい格好を見られていると思うと、悠人の悔しく恥ずかしい思いとは裏腹に、自分のペニスが緊張していくのがわかり、余計に情けなくなる。
 黄仲正は、自分の思い通りに反応する悠人の身体をしばらくじっと見ていたが、しばらくして立ち上がるとベッドから降りた。
 部屋の脇に置いてあった鞄の中から、様々な責め道具を取り出し、悠人の目の前に陳列する。
 身の毛もよだつ恐い思い出が、再び現実のモノとして悠人の目の前に現れ、悠人は思わず目を見張ってしまった。
「どれでもおまえの好きなモノで可愛がってあげよう。さあ、どれがいい?」
「あ、あ……」
 ただでさえ声が出しづらいのに、嫌なモノを眼前に差し出されたせいで、悠人は更に声を詰まらせる。
 返事をしない悠人に、黄仲正はニヤリとイヤらしい笑みを浮かべて、悠人の後孔に中指をねじ込んだ。
「あっ!」
 無理矢理進入してきた指の感覚に、蕾は痛みを訴えたが、悠人の中で縦横無尽に動き回る感覚が、悠人の全身を襲った。
「言わないなら、これ全部を使って愉しむとしよう。いいな?」
「ひあっ!」
 黄仲正の指が悠人の前立腺を刺激すると、悠人ははねるように全身を痙攣させた。
 これから起こることは、悠人の人生の中で、最も最悪のことかもしれない。
 革ひもを伸ばしながら悠人に近づく黄仲正の姿が、急にぼやけた。
 涙が溢れ出してくる。
 優作、優作。
 声も出せないほどの恐怖の中、悠人はのどの奥で必死に愛しい人の名を叫ぶが、それすら言葉にできなかった。



探偵物語

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