今でもまだ幼さの残る悠人だが、この写真の悠人はもっと若い。おそらく小学生くらいだろう。
 その小学生の悠人が、苦悶の表情を浮かべ、全裸で、足を大開きにしたまま縛られている姿の写真だ。
 小さな身体には、痛々しいほどの鞭の痕が全身くまなくついていた。
 口の周囲や下腹部に、白濁した液体がこびり付いている写真もある。
 毛も生えたばかりの悠人のナニにはきつく糸が縛られており、まだ小さな後孔にバイブレーターが押し込まれている写真になると、悠人は涙も枯れ憔悴しきっている表情をしていた。
「昔から、本当にあの子は可愛かった。私は今でもあの子のことを愛して止まない。あの子を再び手中に収めるためなら、何だってするよ」
 恍惚とした顔で黄仲正が見ていたのは、懐に閉まっておいた優作が持っているものと同じ写真である。
 苦悶の表情を浮かべ、苦痛と快楽に悶え苦しむ幼い悠人。
 兄という障害がなくなった今、再び悠人にあの地獄の苦しみを与え続けようというのか。
「……ふざけるなっ」
 優作は目をかっと見開き、地の底を這うような低い声で吐き捨てた。
「あいつの気持ちはどうだっていいと言うつもりか? あいつだっていつまでもガキじゃねェ! 自分のことくらい、自分で決められる。いつまでも大人の敷いたレールの上を歩いているだけだと思ったら、大間違いだ」
 必死に悠人をかばう優作の態度に、黄仲正は笑いを堪えきれないという感じで苦笑を漏らしている。
「まあ、いいさ。それより、ビジネスの話をしようか」
「あんたとビジネスをする気はない」
「そう言うな。悠人を引き渡してくれたなら、成功報酬は倍の二百万払おう。それにプラスして、今まで私が秘蔵してきたあの子の写真を、ネガごとすべて渡してもいい。どうかな?」
「……脅迫のつもりか?」
「ビジネスさ。さて、そろそろ別の用事があるので、私はこれでおいとまさせて貰うが、よく考えておいてくれ。と言っても、私もあまり時間がないものでね。色好い返事を期待しているよ」
「その前にひとつ聞きたいんですがね」
「なんだね?」
 席を立とうとする黄仲正に、優作は怒りを押し殺して話しかけた。
 浮かした腰を再びイスにおさめて優作に尋ねる。
「あいつの背中にある彫り物は一体……?」
 優作の問いかけに、黄仲正はにやりと笑って答える。
「黄家の宝さ」
 それだけ言うと、黄仲正は後生大事に悠人の写真を懐のポケットにしまい込み、席を立って劉太戴ともどもバーを後にした。
 優作が慌てて立ち上がり出口を振り返ったが、彼らは振り返りもせずに去って行き、後ろ姿を確認することしかできなかった。
「お帰りですか?」
 立ち上がった優作の背後から、ウェイターが丁寧な口調で訊ねてきた。
「あ、いや……。そうだな、もう一杯もらおうか」
「かしこまりました。シェリーでよろしゅうございますね?」
「……いや。ウォッカをロックで」
「承知いたしました」
 ウェイターが立ち去ると、優作はどかっと席に腰を下ろした。
 テーブルの上には、悠人のあられもない姿の写真が散乱しており、優作は慌てて写真をかき集めて茶封筒ごと懐のポケットにしまい込んだ。
「……くそっ!」
 二度と見るつもりはないが、写真の悠人の表情が脳裏に焼き付いて離れない。
 本人から経緯を聞いていたにもかかわらず、実際に写真を見せられると、さすがの優作も相当のショックを受けた。
 しかも黄仲正の話によれば、この写真はまだまだあるという。
 写真をネガごとすべて処分しない限り、いつまた悠人が黄仲正に脅迫されるかわかったものではない。
 だからといって、ネガと悠人本人を交換するなど本末転倒な話だ。
 運ばれてきたウォッカを飲みながら、この状態をどう打開するか優作は考えた。



探偵物語

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