それからの優作と悠人の生活は、まるで新婚さんのようだった。
 妹の久美が出産してからというもの、家庭料理にとんと縁がなくなった優作だったが、父子家庭だった悠人が料理上手であるとわかり、悠人の手料理をありがたがって食べている。
 悠人もまた、自分の手料理をこんなに喜んで食べてくれる優作の姿を見ていると、幸せな気分になれた。
 20cm以上ある身長差では、悠人から優作にキスしたくてもそうそう届かないが、悠人が物欲しそうに背伸びをしてくると優作は膝をかがめて悠人のキスを受けいれる。
 夜も最初の頃のような無理はしないかわり、優作の腕枕のなかでいろいろな話をする。
 まさに二人にとって、ささやかながら幸せな日々だった。
 もっとも、悠人はまだ叔父の陰に怯えていたので、依頼の期限までは外出は常に優作と一緒。
 優作が仕事で出かけるときは、事務所で留守番かマサのところにいるかのいずれか。
 基本的に悠人は電話に出ない。
 優作はこのために、お気に入りだった黒電話をやめ、留守電機能付きで番号通知タイプの電話に買い換えた。
 念のため、悠人と自分用に新しい携帯電話も購入した。
 最先端の電気機器が嫌いなアナログ主義の優作がここまでするとはと、長年のつきあいのマサも信じられないと言っていたが、悠人のためと知って納得した。
 もっとも優作はレトロが好きというだけで、最先端機械が扱えないわけではない。
 事実、70年代の雰囲気漂う探偵事務所にも、パソコンなどのOA機器はある。今のご時世では、ないと仕事にならないからだ。
 ただ、携帯のメール打ち込みは面倒くさいことこの上ないと、電話に八つ当たりしていた。
 優作が携帯を持ちたがらない理由のひとつである。
 だから、黄仲正に連絡用にともらったプリペイドの携帯電話も、現状ではほとんど使っていない。



探偵物語

<<back   top   next>>