「えっ……?」
 悠人は一瞬耳を疑った。
 優作は構わず自分の想いをぶちまける。
「出会って間もないのに、狂おしいほど悠人のことばかり気にしている自分が信じられなくて。この気持ちが本当なのか、自分自身を見つめ直そうと思って、昨日は別々に寝たんだが、時間が経てば経つほどオレは悠人のことばかり考えてた」
「優作……」
「時間なんか関係ない。オレはおまえが好きだ。全身全霊で愛している。だから悠人、約束だからおまえを守るというより、オレがおまえを守りたい。愛しているから」
「優作っ」
 目の奥がジーンと痺れてきて、気が付けば涙がボロボロと溢れていた。
 それでも悠人の顔は、今までにないほどの嬉しさに溢れ返っている。
 悠人はまだ汗くさい優作の胸に顔を埋め、広い背中に手を回した。
 胸の中で泣きじゃくる悠人を優しく包み込むように抱き締めていた優作は、悠人が少し落ち着いたのを見計らって身体を離す。
 涙を流しながらも嬉しさを隠せない悠人の前髪を掻き上げると、艶やかな悠人の唇に自分の口を重ねた。
 長く深く激しいキスに、悠人は全身が痺れるような気がした。
 いつまでも続けたい天にも昇る心地のキスだった。
 優作が名残惜しげに唇を離すと、涙の跡が残る悠人の頬を優しく拭う。
「汗臭いわ、ヤニ臭いわ、酒臭いわのキスで悪かったな」
「ううん。優作とキスするのって、大好き」
「そうか」
 優作は悠人の前髪を掻き上げ、額と額をこつっと合わせた。
「シャワー浴びてくるけど、上がったらキスの続きするか?」
「えっ! あ、で、でも……」
 確かに激しいキスの後で、身体が、特に下半身が疼きだしていることは確かだ。
 だけど、早朝からエッチしようという気には、あまりなれない。
 それに、夕べはロクに眠れなかった上に、今悠人を覆う安堵感が心地よくて、このまま寝てしまいそうな気もする。
 返答もできずにもじもじしていると、優作はにやりと笑って悠人の頭をくしゃくしゃとなでまわした。
「冗談だ。それより、チェックアウトの時間は十時だから、それまで少し寝とけ」
「うん」
 悠人がベッドに潜り込んだのを確認すると、優作はタオルを持ってバスルームに向かった。
 シャワーの音を聞きながら、悠人はベッドの中でごろごろと寝返りをうつ。
 昨晩のように苦しくて寝付けないのではなく、優作の口からはっきりと『愛している』と言われたのが、たまらなく嬉しく、少し恥ずかしくて、つい身悶えしてしまう。
 こんな幸せな気分になれたのは、初めてかもしんない……
 悠人は枕を抱きかかえながら、そう思った。
 時間が経つほどに幸せ気分が昂揚してきて、どうしても眠ることなんかでしない。
 このまま寝てしまったら、今までのことが夢になりそうで。
 たまらず悠人が上体を起こすと、タイミング良く優作がバスルームから出てきた。
「まだ寝ていなかったのか? バイクで帰るから、途中で寝ているなんてことできないぞ」
 呆れたように言うと、優作はビールを開けて一気に飲み干した。
 冷蔵庫のドアポケットにしまって置いたスポーツドリンクを取り出し、悠人に歩み寄る。
「それとも、マサに車で迎えにきてもらおうか。あいつ、わりとここから近いし」
「大丈夫だよ。それより優作」
「ん?」
 悠人は優作に手渡されたスポーツドリンクを少し飲むと、恥ずかしそうに俯いて口を開いた。
「その……、一緒に寝てくれる?」
「はあ?」
 半分冗談とはいえ、シャワーの前に続きをするかと言ったときに断られたので、てっきり悠人にその気はないのかと思っていただけに、優作は思わず上がり調子な声を出してしまった。
 悠人は慌てて弁解するように首と手を振る。
「あ、いやその……。一緒に寝るっていっても、本当にただ添い寝して欲しいなあって思っただけなんだけど……。ダメなら……」
 悠人は自分が悪いことをしたかのように、バツが悪そうに俯いて言った。
 申し訳なさそうに下を向く悠人に、優作はつい可笑しくなって、思わずぷっと吹き出した。
「そんなことか。そのくらい、おやすいご用だ」
 そう言うなり、優作はベッドの中に潜り込むと、悠人の身体を抱きすくめて転がった。
 悠人の小さな頭の下に腕を通して腕枕にすると、二人はお互い顔を見つめ合って、同タイミングで静かに笑う。
 シャワーを浴びてきたばかりの優作から、石鹸の匂いがしてくる。
 ほのかな石鹸の香りと包み込むように抱き締めてくれる優作の感触に、悠人は心休らいでくるような気持ちになり、幸せな気分のまま意識が遠のいていった。



探偵物語

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