自分がいつ気を失ったのかも覚えていない。 昨晩の激しい責め立てに身体中が悲鳴をあげて、身体を起こすこともままならない。 周囲を見渡したが、昨晩悠人を愛してくれた男の姿が見あたらなかった。 悠人は身体に毛布を巻き付け、何とかベッドから降りたが、腰と尻奥を襲う鈍痛に、思わず身体を強ばらせた。 それでも何とか起きあがり、部屋のドアを開ける。 事務所では、優作がデスクの上に長い足を置いて、何やら難しそうな顔で本を読んでいた。 悠人が事務所に入ってきたのに気がつくと、本をデスクに置いてにこりと笑った。 「おう。起きたか」 「おはよ……」 ドア枠にもたれかかっているのが精一杯といった感じの悠人に、優作は意地悪そうな笑みを浮かべてにやにやする。 「ゆんべは激しかったからなぁ。大丈夫か?」 「もう! 意地悪言わないで、何とかしてよ」 ふくれっ面で反論する悠人が可愛くてつい苛めたくなってしまうが、優作はいじめっ子のような感情を抑えて悠人に近づく。 小柄の悠人を軽々とお姫様抱っこすると、事務所の中へ連れてきてソファーに座らせた。 そのまま優作は悠人になだれかかると、唇や頬をついばむように軽いキスを何度も繰り返す。 だが、毛布の中に手を入れられると、体のだるさも手伝ってか、さすがに拒否したくなる。 「ん……。優作…、だめだっ…て……」 「じゃあ、せめてキスだけ」 「ん……」 何だか強引だが、結局押し切られる形で悠人は優作の唇を受け入れた。 激しく深いキスをされるのかと思いきや、優作は悠人の下唇をちゅっと吸っただけで、それきり悠人から顔を離してしまった。 あまりの拍子抜けに、悠人は思わず目をぱちくりとさせる。 「え? もう終わり?」 「何だ。もっと激しいキスをして欲しかったのか?」 「ばっ……!」 少し想像していただけに、核心を突かれた悠人は思わず顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたが、言葉にはならない。 悠人の反応に満足して、優作はにやにやと顔をゆがめた。 その顔を見て、悠人はようやく自分がからかわれているとわかって、さらにむくれた。 「冗談だよ。舌なんか突っ込んだ日にゃ、こっちがそれ以上のコトしたくなっちまうからな。何か飲むか?」 「じゃあ、とりあえず麦茶くれる? それからコーヒー淹れて」 「おいよォ」 意地悪な優作に仕返しするつもりで、悠人はあれこれと注文する。 優作は軽い調子で返事をすると、冷蔵庫から麦茶のペットボトルと取り出しマグカップを出すと、悠人に手渡した。 悠人が麦茶を飲んでいる間、優作はコーヒーを淹れる準備を始める。 寝起きと昨晩の疲れでのどが渇いていた悠人は、あっという間に三杯の麦茶を飲み干した。 一気に麦茶を飲み干しため息をつく悠人に、優作が声をかけてきた。 「大丈夫か? まだ身体だるいのか?」 「だって、優作ってば、昨晩調子に乗って三回もするんだもん……」 「オレ、姫君の寝顔を眺めるのがシュミなんだ」 「誰が姫君だよ……」 にやにやしながらロートの中のコーヒー豆をかき混ぜる優作に、悠人はぎっと睨み付ける。 悠人が怒るとわかっていながら、ついからかいたくなるのは、優作の悪い癖だ。 コーヒーができあがると、砂糖が入っているほうのマグを悠人に手渡した。 優作はというと、今回は酒抜きであるが、相変わらずブラックにこだわる。 「メシはどーする? ちょっと遅くなったけど、お粥屋でも行ってみるか?」 「ううん。まだ食べたくない」 悠人は少し甘めのコーヒーをすすりながら、そう答えた。 寝起きのせいか、まだ食欲がわかないのだ。 それに、優作が悠人の中で達したのは三回だが、悠人はそれ以上イカされている。 身体がだるくなるのも、無理はない。 だるそうにコーヒーをすする悠人を見て、昨晩はさすがにやりすぎたかなと、優作はちょっぴり反省した。 「だいじょうぶか? おまえ」 心配そうにのぞき込んでくる優作に、誰のせいだよ、と悠人は突っ込みたくなったが、本気で心配しているのは事実だ。 「大丈夫だよ。寝起きで少しだるいだけ」 「昨晩、無理させすぎたか? 悪かったな」 「大丈夫だって。心配しないでよ」 「お詫びと言っちゃなんだけど、どっか行きたいトコある? 何処でも連れてってやるよ」 そう言われて悠人は少し考えた。 「……海」 「海?」 「海が見たいな……」 「海なんて、港が見える丘公園とか山下公園でも見えるんじゃないか?」 海に面した中区で、海を見に行きたいと言われてもと思い、優作は不服そうだった。 だが、悠人は首を振って話を始める。 「ううん。そういうのじゃなくて、ちゃんとした海岸みたいなところ。泳ぐにはまだ早いけれど、別に海に入りたいわけじゃないから」 「海、ねぇ」 優作はしばらく考え込んだ後、本棚から地図を取り出して、近郊の海岸を確認する。 「横浜市内は海水浴場ないからなぁ。近郊で有名どころだと、材木座、由比ヶ浜、稲村ヶ崎。もう少し足を伸ばして江ノ島ってところか?」 「江ノ島……」 江ノ島という言葉に、悠人はぴくりと反応した。 何か思い出なりがあるのかもしれない。 一応、悠人に伺い立てるように話しかける。 「江ノ島、行ってみるか?」 「……うん」 |