電器屋がやってきて蛍光灯を替えて帰った後、優作と悠人は遅めの朝食兼昼食にした。
 昼食というには遅く夕食には早すぎる時間だったが、起きてから何も食べていないので、悠人が買ってきた豚まんでこの場をしのぐ。
 豚まんといっても、悠人の顔くらいの大きさはある豚まんで、小柄な悠人は一個でも充分だった。
「夕飯時になったら、小龍包のうまい店に連れてってやるよ」
 二個目の豚まんにかぶりつきながら、優作はそう言った。
 麦茶入りのカップを手にした悠人は、にこりと笑って頷く。
 こうして二人、肩を寄せて座っている雰囲気が何となく心地よくなって、悠人は優作のほうに体重を掛けた。
 優作は身体の重くなったほうを見下ろすと、悠人が自分に身体を預け、恥ずかしそうな笑みで見上げていたのが見えた。
 羞恥の中にも嬉しさを抑えきれないでいる悠人の笑顔が、何とも愛らしくてたまらなくなった優作は、豚まんを片手に持ち替えて悠人の唇に顔を寄せた。
 悠人も目をつぶり、素直に優作の唇を受け入れる。
 啄むような軽いキスを何度も繰り返しつつ、優作は悠人の上にのしかかる。
「……だめだってばぁ、優作ぅ……」
「んー? 何で?」
 切なそうな声で拒否する悠人に、優作は少々意地悪そうな声で尋ねた。
 悠人の身体をソファーに押し倒し、悠人の頬や耳たぶにキスの嵐を浴びせる。
 悠人の息は荒くなり、身体も火照ってくるような気がしたが、このまま優作のなすがままにされるのも何となく癪で、優作の方を押し返そうと力を入れる。
 そんな悠人のささやかな抵抗を、優作は体格差にモノを言わせて押し返した。
 優作の顔が悠人の首筋に埋もれ、唇で首筋をなでられると、悠人は思わず身体をびくりと震わせる。
 押し寄せる快感を必死で振り払い、悠人は何とか声を出すことができた。
「だって…、まだお昼だし……それに」
「それに?」
 優作が囁きながら悠人の上着のボタンを外し始めたそのとき、何の前触れもなく事務所のドアががちゃりと開いた。
「工藤ちゃ〜ん。今日こそたまったツケ、払ってもらうからね〜」
 のんきなしゃべり声とともに入ってきたのは、マサだった。
 突然の来訪者に、悠人は口から心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
 優作を押しのける腕に思わず力が入るが、優作の大きな体はびくともしない。
 驚いているのは、マサも同じだった。
 端から見れば、優作が悠人をソファーに押し倒し、エッチをしようとしているように見えるからだ。見えるも何も、実際、優作はそのつもりでいたのだが。
「あっら〜。ごめんなさいねー。お取り込み中だったの?」
「まったくだよ。これからイイトコだってーのに」
 悠人を押し倒したまま、優作は不満げに答える。
 優作の言葉に、はたと我に返った悠人は、せまりくる優作の顔を必死で押し返し、マサに愛想笑いを浮かべて見せた。
「いいんです! 気にしないでください。……って、いいかげんにどいてよ、優作ったら!」
 にべもなく悠人に拒否された優作は、飼い主に怒られた大型犬のように、しょんぼりとうずくまってしまった。
 拗ねる優作をあえて無視して、悠人は乱れた衣服を整えてソファーに座り直した。
「すいません、マサさん……。あの……」
 悠人は、ちょっぴり怒った表情を浮かべながらも、バツが悪そうにもじもじとしていた。
 言い訳しようにも、言葉が見あたらず、ただ口をもごもごさせるばかりである。
 そんな悠人を、マサは可愛くて仕方がないという思いで見つめていた。
「いいのよぉ。どーせ、工藤ちゃんが悪いに決まってンだから」
「何だよ。決めつけか?」
「あながち、間違いじゃないでしょ? 悠人クンから仕掛けるなんて、とても思えないわぁ」
 ころころと人を食ったように笑うマサに、優作は面白くないといった面持ちで睨み付け、煙草をくわえた。
「しっかし、意外と言うかやっぱりと言うか。あんたたち、会って間もないのに、そーゆー関係になったワケなのォ」
「あっ? いえ、これは、その…あの…」
 どう返答して良いかわからず、悠人はしどろもどろになって言葉を濁していた。
 慌てふためく悠人の肩を、優作が腕を回して抱き寄せる。
「言ったじゃねェか。いろいろあったんだって」
「そのイロイロがコレなわけ。工藤ちゃん、前に男は懲りたって言ってたから、コレばかりはないと思ってたけど」
「え?」
 マサの言葉に、悠人はぎょっとして優作の方を振り返る。



探偵物語

<<back   top   next>>