◆ 暴走儀式 [03]

 カーテン越しでも、外からネオンサインの明かりが入ってくる部屋の中。
 優作と英司は裸体を密着させ、絡め合っていた。
 首筋に埋まる優作の顔。唇と舌が生き物のように動き、英斗の感じる部分を責める。英斗の身体がピクリと跳ねる。浮いた腰に、優作の腕が回る。
「あっ……」
 うわずった英斗の声。優作の耳に心地よく響く。
 英斗の身体を半回転させ、背後から英斗を抱きすくめる。胸をまさぐるが、乳房がないのが心許ないらしく、指先で英斗の胸板を弾くようにしていた。どことなくおぼつかない優作の愛撫に、英斗は時に苦笑を洩らすが、それでも優作の愛撫が他の誰よりも優しく、愛おしく、気持ちが良かった。
 口で背中を責めつつ、優作の指が英斗の小さな乳首を弾いた。快感に仰け反る英斗。乳首が感じるとわかると、優作は摘んだり弾いたりして、英斗の乳首を責めた。
「ああっ! あンッ! くどう……さん……っ! あうっ!」
 背中と首と胸を責められただけで、英斗はすでに下半身がもどかしく痺れ、ペニスが勃起してきた。後孔が物欲しげにヒクつくのが自分でもわかる。
 今まで、数多の男たちとこうしてきたのに、これほどまでに身体が反応するのは、初めてだった。こうした演技をすれば多くの男は喜ぶ。だが、優作にされているときは、演技ではない。初めて本気で感じている。こんな気持ちになったのは、英司のことを思い浮かべながら自慰行為をしていたときくらいである。
 上半身を蹂躙していた優作の腕が、今度は英斗の身体を伝って腰の方へと伸びてきた。
「あっ!」
 英斗は身体を仰け反らせて、抵抗した。なぜかわからないが、それ以上触られたくなかった。
 触られたらきっと……
 英斗の目にうっすらと浮かぶ涙。優作が涙で潤んだ英斗の瞳にキスをする。優作の手が、いきりたって先走りの溢れる英斗のペニスに回った。節くれ立った優作の指が、英斗のモノを包み込み、指先が先端を微妙に突っつき回す。
「ひ……っ、あ、ン……んっ!」 
 英斗の腰が跳ねる。優作の腕が、英斗の腰を抱えたまま逃がさない。
 腰に回っていた腕が、英斗の後ろに回り、引き締まった双丘をもみしだく。前を弄ばれている英斗の身体が、ビクリとしなる。後孔の奥が疼く。
 優作が優しく英斗の耳を噛む。
「英斗……」
 切なく甘いささやき。それだけで身体がとろけそうになる。
 無意識に英斗は腰を振り、こみ上げる欲求を満たそうと、激しく動く。
 突然激しく動き出した英斗。優作は最初は何事かと心配になったが、それが達したい欲求からくるものだとすぐに理解し、慌てて英斗の身体を押さえつけた。
「待てって。まだだ」
「……おねがい……っ、イカせてっ!」
 悲痛なまでの英斗の叫びに、優作は少々たじろいでしまった。だが、ここで先走らせても、英斗が辛いのではなかろうかと思い、かぶりを振って英斗の懇願を拒否した。
「まだだ。いい子だから、待ってろ。……もっと気持ちよくさせてやるから」
「工藤さん……」
 少々恨みがましい瞳で優作を見つめる英斗。優作は苦笑を浮かべ、英斗の口にキスをする。
 双丘の奥の蕾に、優作の指が滑り込むと、英斗の身体がビクリとしなる。英斗の先走りで湿った優作の指が、ゆっくりと英斗の蕾を解きほぐし、中へと入っていった。節くれ立った、太い優作の指。一本でも一杯になるような気分。
「ふあっ……んんっ……!」
「キツイ……か?」
 苦しそうに顔を歪めながらも、英斗は必死に首を横に振る。
 優作の指が英斗の中で蠢く。
「ああっっ!」
 自らの中で暴れる優作の指の感触に、英斗は思わず身体を仰け反らせた。まだ指だけだというのに、イキそうなほど感じてしまった。自然、顔が紅潮してくる。切なそうに喘ぐ英斗。紅く美しく染まる顔。優作はたまらず英斗にキスをして、英斗の中に次の指を入れた。
 ぶっとい二本の指が、英斗の後孔を蹂躙する。英斗は身体をのたうち回らせて、沸き上がる快感に悶える。指が英斗の一番感じる部分に当たった。たまらず、英斗が悲鳴のような声をあげる。
 最初は何事かと驚いた優作だったが、英斗の表情を見て、一番感じる部分、つまりは前立腺のあたりに当たったのだと思い、もう一度指で探りを入れる。再び英斗の絶叫。そこが一番イイと、英斗が言葉にせずに優作に告げる。優作は英斗のその部分を責め立てた。悶え、のけぞる英斗の肢体。蕾もかなり柔らかくなってきた。
 優作はすぐにでも挿入したい気持ちになったが、少し考えて止めた。
 もう一本指を入れて、もっと柔らかくなってからのほうが、英斗にかかる負担も少なかろうと思ったからだ。
 だが、英斗の方はというと、指二本だけでも、もうイキたくてたまらなかった。今まで経験したセックスの中で、一番激しく、一番満たされるような気持ちになっていた。同時に、一番やりきれない気分でもあるのは、時々、どうしても優作と英司の姿を重ねてしまうせいなのだが……。
 三本目の指が入る。きつかったが、不快ではなかった。英斗の中を責めながらも、腰や背中を優しく愛撫してくれる指と舌。不思議な安堵感が英斗を覆う。英司が優しい目で英斗を見ていた。とてつもなく愛おしそうな目つき。英斗もまた、顔をほころばせる。指が動く。身体が仰け反る。再び眼前に優作の姿。達しそうなのを堪えながら、英斗は苦笑を洩らす。
「そろそろ……いくぞ」
「ん……」
 ともすればガクガクとする身体にむち打ち、英斗は自分で身体を反転させ、優作に向かって尻を突き出す。しかし、優作は再び英斗の身体を半回転させ、仰向けにさせる。
「女と違うんだ……。後背位のほうが……挿入しやすい……」
 喘ぎながらも、男初心者にの優作に対し、英斗はそう教えた。そんな英斗の唇に優作は唇を重ねる。
「顔が見たい。……それだけじゃダメか?」
 英斗は答えず、ただ嬉しそうに顔をほころばせた。
 後孔の蕾に、いきりたった優作の先端が当たる。英斗は思わず息を飲んだ。再び優作がキスをする。
 丁寧に柔らかくほぐされた英斗の中に、優作のモノが入れられた。
 串刺しにされた気分。肺に達し、気管から口にかけて刺し貫かれるようだった。
「あっ……ぐっ、ううっ……ンくっ……」
 優作は苦しそうに悶える英斗の頬を優しく撫で、耳元で諭すように囁く。
「ゆっくり息を吐いて……そう、そうだ……腹からすべての息を吐き出すように……そう、ゆっくりでいいから力を抜いて……吸って……吐いて……よし、いい子だ」
 優作の言うとおり、素直に呼吸をする。不思議と身体の力が抜け、それまでの苦しさが嘘のようになる。ただ、後孔をいっぱいにしている優作のペニスは、次第に英斗の奥の奥まで挿入されていく。それでも、英斗はさほど苦しさを感じず、むしろ心地よさのほうが強かった。
「工藤さん……」
 逞しい優作の背筋に腕を回してしがみつく英斗。優作もまた、英斗に覆い被さるように抱きついた。
「……動くぞ」
「ん……」
 最初はゆっくりと、徐々にペースを上げつつ、優作のペニスが英斗の後孔を突いていった。英斗の中でほとばしる快感。喘ぎ声も思わず絶叫となる。スライド運動が激しくなるに連れ、英斗の脳の回線が火花を上げて弾ける。
「ああーーーーっ! あンっ! あふっ! くン……っ! ふあっ……あああっ!」
 千の言葉を以てしても語り尽くせない気持ちが、英斗の喘ぎ声に籠もっていた。甘く切ない英斗の声。それだけで優作は背筋がゾクゾクしてくる。イキそうになるのを必死に堪え、英斗の後孔に腰を叩き付ける。珠のように光る汗。仰け反る英斗。火花が散る。弾けると同時に浮かぶのは、英司の姿。優作の身体に腕と足を回す。
「英司……っ。英司……、もっと……もっと……えいじぃぃぃっっ!」
 一瞬、優作の動きが止まる。眉間に皺を寄せ、苦いコーヒーでも飲んだような顔。すぐに腰を動かす。
 わかっていたことだった。英斗の心から、英司が去ることはありえない。英斗が優作の中に英司を重ねている以上、意識が朦朧としていようとはっきりしていようと、今、英斗は英司に抱かれている。
 嘘でもいいからそう思いたくて、英斗は優作に抱かれた。優作自身もそれを承知しているつもりで抱いた。だが、いざ最中に英司の名前を叫ばれると、やはり胸が痛む。それでも、英斗に罪はない。いや、これは英斗と優作、二人の罪であろう。優作もまた、犯して殺した女の面影を、英斗に託しているのだ。
「えいじ……英司……愛して……る……、英司……ッ!」
 英斗の絶叫。だが、優作は何て答えていいのかわからず、ただ黙々と行為に勤しむ。
 英斗の身体の奥から、絶頂が駆け上がる。もうこれ以上我慢できない。
 優作もまた同じだった。吐き出したくてたまらなかった。
「イ……クッ! も、だめ……! きて……っ! 英司ィ!」
 涙と汗と涎の溢れる英斗の顔が、恍惚に光る。ラストスパートとばかりに、優作が英斗の中に叩き付ける。英斗の身体が仰け反り、細かく震える。英斗と優作の下腹部が、放出された英斗の精液で白くなる。優作もまた、英斗の中にすべてをぶちまけた。
 激しい絶叫の後、耳が痛くなるほどの静寂。優作の身体が英斗の上に倒れ込む。




探偵物語

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