本日は決勝戦ということもあり、会場は多くの人と熱気に包まれていた。 優作が駐車場に車を直し会場に着くと、柴が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。早々に試合ははじまっており、麻子の弟・陽一は決勝戦への駒をひとつ進めたということだ。 「それだけじゃない。陳さんところの子衛も勝っているぜ。二人が上手く勝ち進んでくれれば、優勝決定戦は横浜勢同士の対戦だ」 酒屋の若旦那が熱くなるのもわかる。全国大会の決勝戦で、同郷同士が戦うなどというシチュエーションは滅多にない。 優作は柴からトーナメント表をもらい、対戦相手の分析をしながら、ある人物の名前を捜す。 酒屋の若旦那が長々と垂れる講釈を右から左に聞き流していると、ようやく目当ての名前を見つけた。 有馬英司 (東京都 滝野川商業 2年) 英司が今度3年生になるのなら、兄である英斗は少なく見積もって、今年高校を卒業したくらいか。詳しくは聞いていないが、本人がまだ学生だと言葉を洩らしていたので、英司とは年子くらいかと推測できる。 そして今日、英司の活躍を見るため、英斗はこの会場に来ているはずだ。 大勢の観客と広い会場の中で、英斗を見つけるのは至難の業かもしれない。 「何ぼーっとしてんだよ、優ちゃん」 対戦表に目を落としながらも、心ここにあらずといった感じで立っている優作に、柴は怪訝そうに声をかける。柴の声に我に返った優作は、愛想笑いで答える。 「あ、いや……。ちょっと考え事をね」 「しっかりしてくれよ。まだ若いんだから」 呆れたように呟く柴は、優作から対戦表を取り上げると、応援席へ戻っていった。優作もまた、苦笑いを浮かべながら柴に続く。 ここんところ、身も心も英斗に振り回されっぱなしで、心身共に疲れがきている。いずれカタをつけなければならない相手ではあるが、何もこんな日に捜す必要はない。優作は自分にそう言い聞かせると同時に、いつの間にやら英斗の影を捜して追っている自分に驚いた。 とりあえず、今日すべきことはマイクロでの送迎と、地元高校空手部の応援。 ヤクザのこと、宝石のこと、父親の話、そして英斗のことは忘れることにした。 |