優作が自宅で麻子とイイコトをしている時、英斗はまだ鶯谷のホテルにいた。 だが、今はもうひとりではない。 バスルームからシャワーを浴び終えた三浦が、一仕事終えたようなさっぱりした顔をして出てきた。 「しかしあれだなあ。びっくりしたぜ。突然電話よこすんだもんな。どうしても逢いたいなんて、英斗らしくないこと言って」 「……ごめんね、三浦さん。仕事中だったんでしょ?」 「気にするな。英斗が来て欲しいって言ってくれれば、オレはいつだって来るよ」 陽気に振る舞う三浦とは対照的に、英斗は暗く塞ぎがちである。いつもは明るく振る舞っている英斗だけに、無口なほどにふさぎ込んでいる姿は、痛々しくて堪らない。何とか英斗の気分を解きほぐそうと、三浦はおどけて見せるが、英斗の心は貝のように閉じられたままだ。 急な電話で呼び出されこの部屋に入ってきた三浦は、英斗が裸で出迎えてきたのにも驚いたが、そんな暇もなく英斗の執拗な愛撫とともにあっという間に服を脱がされ、ベッドに上ることなく床の上でコトに及ばされた。 そんな英斗にいつもの余裕も妖艶さもなく、ただただ狂おしく男の身体を欲して、激しく乱れていた。英斗との付き合いは長いが、これほど狂おしく乱れる英斗の姿は、ついぞ見たことはない。しかも、1回では飽きたらず、何度も何度も求めてくるのだ。 何かがあったのは、三浦にも容易に想像はつく。だが、任侠の世界に生きる者として、野暮な質問(こと)はしたくない。英斗がそれでいいというなら、何度でも求めに応じるまで。 ようやく英斗が落ち着いてきたところで、三浦はようやく解放された。汗と精液でベタベタになった身体を、シャワーで洗い流して出てきたところだ。 三浦はぐったりと横たわる英斗を抱き上げ、身体を拭いて後始末をすると、脱衣所から持ってきた英斗の服を着せてやった。人形のように力のない英斗だったが、服を着せられるときに少し身じろぎして抵抗する。 「まだ……物足ンないよ。もっかいお願い……」 そう言ってしなだれかかる英斗に、三浦は当惑しつつ肩を抱き寄せた。 「もういいだろ? 英斗も疲れ切った顔してんじゃねえか」 「お願い……」 上目遣いに三浦を見つめる英斗の瞳には、妖艶な魅力どころか生気すら感じられない。三浦は無理矢理英斗にシャツを着せると、焦点のあっていない英斗の瞳を見つめて言った。 「今日はもう終わりだ。おまえだって、明日大事な用があるんだろう?」 「明日……?」 「忘れたのか? 明日、英司が大会に出るんだろう?」 「ああ。そうか……、そうだったっけ」 ようやく青白かった英斗の顔に、少しだけ血の気が戻ってきた。無表情だった顔にも、薄い笑顔を浮かべている。 「家まで送っていってやるよ。支度できるか?」 「うん」 英斗は力無く頷くと、三浦が持ってきてくれた服を着始めた。 ホテルの駐車場に停めてあった、黒のロータスヨーロッパスペシャルに乗り込むと、三浦はキーを差し込みエンジンを回した。英斗がシートベルトをするのを確認すると、ゆっくりと車を発進させる。 カーステレオすらついていない車内に、重苦しい沈黙が漂う。 「しかしアレだな。おまえが英司の試合忘れるなんて、珍しいじゃねえか」 やっとの思いで口にできた台詞に、英斗は沈黙をもって答える。重苦しい雰囲気で押しつぶされそうになるのを、三浦は笑って誤魔化す。 「まあ、何だ。何があったか知らねえけど、明日の英司の勝ち姿を見れば、つまらねえことなんか忘れちまうって」 「そうだね」 ようやく英斗が顔の筋肉をゆるめ、口を開いた。それを見た三浦も、安堵の表情を浮かべる。 再び車内を沈黙が覆ったが、先程よりも重苦しいものではない。 三浦のロータスは、本郷通りに入ると北上を始める。 |