優作は受話器を取り、電話に出た。 「はい。工藤優作探偵事務所」 『オレだ、わかるな?』 「どちらのオレさんですか?」 ドスの利いた深みのある声に対し、優作は空っとぼけて応対する。当然、電話の相手はお冠だ。 『昼間、あれだけ痛い目に遭わせたってえのに、わかってねえらしいな。今まで女とデートとは、ずいぶんなめられたもんだ』 その言葉に対して優作は返答はせず、煙草を取り出して火をつける。 『鞄はどうした』 白虎組の佐藤は、声を一段と低くして、優作に問い詰めた。脅し口調も何処吹く風と言わんばかりに、優作はのほほんと煙草をふかす。 「現在、目下捜査中です」 『早くしろ! さっさと引き渡さないと、おまえもおまえの女もただじゃ済まさんぞ!』 「どうしたんです、慌てたりして。よっぽどあんたらの背後にいる、中国黒社会が恐いと見受けられますが?」 『う、うるせえ! いいか? 一日も早く鞄をよこさないと、本当にただじゃ済ませねえからな!』 佐藤はそれだけ言い放つと、一方的に電話を切った。 最後の優作の一言が核心を突いていたのだろう。余程慌てふためいていた様子だった。 優作は受話器を下ろすと、部屋の暖房を点けて、カーテンを閉める。吸い終わった煙草をもみ消し、ジャージとワイシャツを脱いで上半身裸になると、せっせと歯磨きをはじめる。歯磨きをすませてベッドの上に身体を預け、大の字になって天井を見上げた。 そのとき、バスタオルだけを身体に巻き付けた麻子がバスルームから出てきて、ベッドの端にちょこんと座る。 「電話は終わったの? 彼女かしら」 「いや、こわいおぢちゃん。昼間、ボクのことをいぢめたの」 わざとらしく甘える素振りを見せて、優作は麻子の太股に顔を埋めた。 麻子は可笑しくて仕方がないと言わんばかりに、くすくすと笑って優作の後頭部を撫でる。 「いて」 腫れ上がった部分をさすられたことで、優作は頭の鈍い痛みを思い出した。 言葉は短かったが、優作はかなり本気で痛がっているらしい。麻子は驚いて、手を離した。 「ごめんなさい。大丈夫?」 「もうだめ。死ぬ前にお願いが」 「なあに?」 大げさに痛がる優作に、麻子は苦笑をもらしつつ、優作の"お願い"とやらを聞いてみる。 「麻子ちゃんの豊満な胸の間で息絶えたい」 「いいわよ。そのかわり、ちゃんと成仏してね」 笑いの止まらぬ麻子をベッドの上に引き寄せ、優作は麻子の上にのしかかるとキスをして、優しく愛撫をしながらバスタオルをはずす。 |