いくつかのドアをくぐり抜けると、中華街大通りに面した、大きな土産屋の店内に出られる。土産を物色する観光客の人垣をかいくぐり、何気なく大通りを歩く。 しばらく歩いたあと、ふと陳老人の家の前に置きっぱなしのキックボードのことを思い出したが、見張られているところにのこのこと取りに行くこともできない。優作はキックボードはとりあえず諦めたが、足がないのも不便なので一応事務所に寄ろうと考えた。 しかし、事務所のほうもすでに見張られており、何人かのやはり人相のよろしくないヤクザ風が数人、張り込んでいた。 見た顔でもないし、優作が側を通っても反応がなかったところを見ると、話で聞いただけのチンピラのようだ。 でも、ここでヘタを打つとまずいと思った優作は、事務所を素通りした。 腕時計をのぞくと、お昼はとうに過ぎていた。 まだ眠気も取れない優作だったが、事務所に帰ることもできない。否が応にも外での捜査を続けるしかない。 手近な煙草の自販機でキャメルを買うと、優作はようやくありつけた煙草に火をつけ、噛みしめるように吸い込んだ。 煙草を一本灰にしたところで、ようやく頭がすっきりしてきたような気がした。 「さて」 優作は手帳をのぞき込み、パラパラとめくって目的のページに目を通すと、一人納得して中華街を後にした。 歩き回ることしばし、優作は関内駅に着くと、携帯電話を取り出して電話をかける。相手番号は、昨日知ったばかりのところ。 10回ほどコール音が鳴り響いたが、電話には誰も出ない。諦めて切ろうとしたそのとき、『もしもし?』と声が聞こえた。 『誰?』 「英斗か。オレがわかるか?」 『工藤さん? 何で……』 「挨拶は抜きだ。例の鞄のことで話がある。今、会えないか?」 『今から? それはちょっと……』 「学校は春休みなんだろ」 『休みだからこそ、バイトがあるんじゃないか』 「バイトしてんの? フツーの?」 『コンビニのレジ打ちくらいできるよ。7時頃にはあがれるから、それからだったら』 「OK。鞄は今どこだ?」 『今は川口の駅構内にある。鍵は今俺が持っているよ』 「なら丁度いい。8時に川口に来られるか?」 『大丈夫。じゃあ、その時間に』 「ああ」 優作が返事をしないうちに、電話の向こうから英斗を呼ぶ声が聞こえると、電話はすぐに切られた。優作もまた、電話が切れたのを確認すると、オフボタンを押す。 約束の時間まであと8時間近くある。 しかし、優作には英斗に会う前にやらねばならないことが、たくさんあった。 再び携帯電話を手に取ると、手慣れた手つきで別の電話番号にかけ始めた。 |