暴力組織 [06]

 優作は高山の依頼と今までの経過を、かいつまんで話すことにした。
 とはいえ、英斗のことは話せない。
 優作は慎重に言葉を選びつつ、高山が男相手の売春でトラブルを起こしたこと、鞄の行方についてはまだ調査中であること、白虎組の連中が優作に警告に来たことなどを報告した。
 もちろん、衆道とは別世界に住んでいる裕次郎は、高山が男を買っているという話を聞いて、呆れ返っていた。そんなつまらないトラブルで、宝石入りの鞄を無くしているのかと思うと、国際警察機構が出張るのも馬鹿馬鹿しいような気さえする。
 しかし、盗品の宝石を取り返さないことには、裕次郎だって沽券に拘わるのだ。
 調査報告を順次行うという約束と、携帯電話を買うように念を押すと、裕次郎は電話を切った。
「ほんとにえらいことに発展しちまったなぁ」
 電話を切った優作は、そう陳老人にぼやいてみせたが、トラブル上等と言わんばかりに喜々としている優作の顔を見て、陳老人はニヤリと笑った。
「何を言うか。本当は楽しくて仕方がないくせに」
「へへっ」
 優作は鼻をこすって不敵な笑いを浮かべる。
 そのとき、林が服を持って部屋に戻ってきた。
「少爺、コレ!」
「あ。ありがと」
 手渡された服は、白のジャージにGパンだった。
「少爺ガ入リソウナ服、コレシカナイネ!」
 明るい口調で言い放つ林と対照的に、優作は思いっきり渋い顔をしている。
 それまで机の側から一歩も動かなかった陳老人が席を立ち、窓辺から外を見下ろす。顎で優作に来るように促すと、優作は陳老人の側に行く。
 窓の縁に隠れるように路地を見下ろすと、あまり人相のよろしくない日本人が何人かうろついていた。見たような顔が何人もいる。
「あいつら……」
「おおかたおまえを尾行(つけ)てきたんだろうな。しかし、おまえが普段から目立つ格好をしているのが不幸中の幸いだ。奴らが捜しているのは、黒スーツの背の高い男。背が高くても、ジャージにジーパンを着ている男ではないだろ」
「なるほど」
 優作は鼻を掻きながらジーパンを摘み上げた。
 いろいろな意味で目立つ存在故に、少し格好を変えただけで印象は変わる。
 着替え終わった優作の姿は、工藤俊作のコスプレから、ただの背の高い青年へと見違えるようになった。
 陳老人は机に戻ると、引き出しから携帯電話を取り出し、優作に渡した。
「何度言っても買わないからな。特に今回は急を要す。これをやろう」
「どうも」
 渋々という素振りを露骨に表して、優作は陳老人から携帯電話を受け取った。
「ここで下手な騒ぎを起こされても困る。帰りは表から出るがいい」
「そうさせてもらうよ。いつもすまないね、大老」
「気にするな。また何かあったら来なさい」
 優作は陳老人に礼を述べて入ってきたドアとは反対のドアから部屋を出た。
 陳老人はイスに座ると、再び読書に熱中し始めた。



探偵物語

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