暴力組織 [05]

 事の次第は、先程陳老人が言ったこととほぼ同じだった。
 消えた宝石は、咬竜会か白虎組のどちらかが隠匿している可能性が高い、というのが警察関係の見解だということだが、裕次郎はそう思っていない。
 調査の結果、宝石が消えた日を境に、冷戦状態だった咬竜会と白虎組の小競り合いが激しくなっている。お互いが宝石を盗られたと思っているらしい。つまり、咬竜会と白虎組とは別の第三者が宝石を盗ったというのが、裕次郎の推理だ。
『それについては、実は証拠らしいものがあるんだ』
「ほう。どんな?」
 自信満々に語る裕次郎に、お手並み拝見とばかりに優作は尋ねた。
『咬竜会の三下チンピラたちが、どえらい失態をやらかしたとかで、上層部に大目玉を食っていてな。何でも、夜店のために仕入れた人形をいれた鞄をどっかのガキに盗られたとかで、そんなことで上層部が目の色変えるのはおかしいと思ったんだよ。で、オレは情報屋を装って、チンピラに言ったんだ。「そういうことならいい探偵を知っている」ってね』
「……ちょっと待て」
 優作はこめかみに指を当てて、眉をひくつかせると、ゆっくりと、しかしドスを利かせた低い声で、裕次郎に尋ねる。
「昨日来た依頼人の高山って男。もしかしてアレは……」
『ピンポーン♪ おとうたまの紹介でーす』
「貴様かっ! あんなけったいな依頼人をよこしたのはっ」
 半径5km以上の人すべてに聞こえるほどの声で、優作は電話の向こうにいる父親に怒鳴りつけた。
 だが、当の裕次郎は、そんなことなど何処吹く風と言わんばかりで、逆に怒鳴る息子に対して不満そうに拗ねてみせる。
『怒ることはないだろ? 可愛い息子が、オレの意志を受け継いで探偵さんになってくれたんだから、開業祝いのひとつもやらなきゃなあって』
「そのおかげで、こちとら貞操の危機にまで発展したわい!」
『何だ。もう何か手がかりみたいなもの掴んだのか?』
「あ、いや……まだそこまでは」
 一瞬優作の脳裏を、英斗の顔がよぎった。
 今、鞄を持っているのは他ならぬ英斗なのだが、そのことを警察官である父親に報告するのは、何となくまずいような気がして、優作は言葉を濁す。
 そんな優作の心中などお構いなく、裕次郎は矢継ぎ早に質問を繰り出す。
『で、高山が言ってた依頼内容を、詳しく教えてくれないか? どういう経緯で盗まれたとか、盗んだヤツの特徴とか』
「秘守義務遵守ってーのはダメ?」
『ダメ。そんなこと言ってると、報酬払わないよ』
「最初から払う気ないくせに」
 とぼけつつも、優作は父親にどこまで話していいものやら悩んだ。
 ビデオの話をすれば、例の裏ビデオを捜し出して、主演男優を重要参考人として手配をするだろう。だが、事の発端がこのことである以上、話さないわけにはいかない。しかし、優作には英斗を売るような真似は、どうしてもできなかった。
 電話の向こうでは、裕次郎がうーんと唸っている。優作が情報提供に難色を示しているのは、報酬額を明示していないためだと思ったらしい。しかし、そう思ってくれたのは、優作にとってありがたいことだった。
『よーし。おとうたまのすごいトコを見せてやる。報酬は事務所の家賃一月分でどうだ?』
 なぜ家賃で換算する?
 とはいえ、決して悪くはない話でもある。だが、速攻言いなりになると、後々またいい様に利用されかねないので、もう少し吹っ掛けてみることにした。
「せめて一年分とか豪気なこと言えんかね」
『甘えるんじゃない』
「あ、そ。依頼人はそれ以上の金出して、この件はくれぐれも内密にって言ってたもんな。そんな端た金しか出せない警察の手下に、教えることはねえよ」
 報酬の交渉はしばらく続いていたが、結局半年分ということで話がついた。
 やってみるもんだ。優作は内心ほくそ笑んだ。
 


探偵物語

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