◆ 危険を買う男 [01]

「さてと」
 優作はネクタイでヒデの手首を縛ると、ベッドの枠に腕を吊すようにしてくくりつけた。こうするまでにはひどく暴れられたが、縛り上げられてからは観念したのか動きもしない。
 しかし、口を尖らせて優作を睨み付ける目は相変わらずである。
 レコーダのマイクテストを終えた優作は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、勝ち誇ったようにヒデのそばに寄った。
 そして、マイクを手に取り一言。
「えー。3月26日深夜1時……今何分だ? ……20分か。これから、ヒデさんにいろいろと質問をしてみようと思います」
 そう言うと、優作はズボンの後ろポケットから財布を取りだし、一万円札を10枚程、縛り上げたヒデの前に並べた。
「何だよ、これ」
 怪訝そうな顔をしてヒデが尋ねる。
 優作はと言うと、相変わらず涼しい顔をしたままだ。
「正直に答えれば、ここにあるお金はみんなヒデくんのもの。だが、これから行う質問に対し、嘘偽りをひとつ述べるごとに一万円ずつ減っていきまーす♪」
「なんだよ、それは?」
「では、質問開始。えー、まずは本名から」
「ぜってー、言わねえ!」
「はい。じゃあ一万円没収♪ では続いての質問」
「汚ねえぞ! てめえ!」
「年はいくつですか。正直にお答えください」
「……24」
「またまた一万円没収〜」
「なんだよ! ちゃんと答えただろうが!」
「オレは『正直に答えてね』と言ったんだ」
「だから!」
 反論しようとするヒデをあからさまに無視して、優作は次の質問に入った。
「これは正確に答えたら、一万円プラスのボーナス問題。住所を述べなさい」
「都内特別区(23区内)!」
「続きは?」
「教えてやんない」
 ヒデは首を回して子供のようにぷいっと拗ねてみせた。
 優作は顎に手を当て少しの間唸ると、ぽんと膝を叩く。
「まあ、今回はおまけで保留、と。では次」
 こうして、幾つかの質問をぶつけてはみたが、ヒデの口は思った以上に固く、せっかくの本人インタビューも、あまり成果はなかった。
 一枚、また一枚と引っ込められる一万円札を、歯ぎしりしながら見逃すが、ヒデはそれ以上に自分に対して詮索を受けるのは嫌なのだ。だが、お陰で優作は本当のヒデを垣間見ることができた。
 5人のチンピラに囲まれてもひるむことなく挑み、男の相手をするときは妖艶な美女のように艶っぽく、常にクールを装っているヒデが、実はこんなにも直情的で子供っぽく膨れることがあるなど、ノリでさえ知らないだろう。



探偵物語

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