買ったばかりの車を貸すことに、マサはかなり難色を示したが、結局脅され半分で優作に貸すことになった。そんなわけで優作は、でかい身体を折り曲げるようにしてミニクーパーを走らせる。 ノリの情報によれば、今日は東名高速の海老名サービスエリアにいるかもしれないということだ。 山下公園近くの公共駐車場に車を停めて事務所に戻ると、夜まで一休みをすることに決めた。まだ明るいうちなので、アイマスクをしてソファーに転がりこむ。 「こんな明るいうちから寝なきゃならんのか」 と言って間もなく、優作は静かな寝息をたてて眠ってしまった。 気が付いたときには、時計は9時過ぎを示していた。 「やべっ」 寝過ごしてしまってはいたが、それでも一応シャワーを浴びて身支度を整える。三十分ほどして支度を終えると、優作はドアの片隅においてあるキックボードを取り出し、大急ぎで山下公園の駐車場に駆けていった。 ヒデがサービスエリアに現れるのは、大概十時過ぎだという。 優作は急いでミニクーパーを走らせたが、ついた時間は十時半を過ぎていた。この時間では、人気者のヒデには、すでにお客がついている可能性が大だ。それでも優作は、黒のRZとその持ち主を捜す。 「それにしても、腹減ったなぁ」 慌てて出てきたので、優作は昼から食事を取っていない。 まずは腹ごしらえでもするか。 優作はスナックコーナーへ足を進めようとすると、背後から異様に冷たい気配を感じた。恐ろしいまでの気配なのだが、なぜか振り向いちゃいけないと、第六感は告げる。 だが、恐怖は向こうからやってきた。 冷たい気配の持ち主が、優作の肩を馴れ馴れしくポンと叩く。 「おにいさん、いい身体してンじゃない。どう? ボクと楽しまないかい?」 優作の背筋をぞぞぞっと気持ち悪いものが通った。 振り返ると同時に、優作は肘を振り上げて背後の男の顎をかちあげる。 何の前触れもなくいきなり優作の肘を喰らった男は、防御も警戒もするヒマなく、一瞬のうちに倒された。 「あ」 心の準備をする前にいきなり声をかけられた優作は、気が付いたら声をかけてきた相手を昏倒させてしまった。 やべっ! 心の底から優作は今の行動を悔いた。 せっかく向こうから声をかけてきたんだから、ヒデのことをこいつに聞けばよかったんだ。 しかし、やってしまったものは、どうしようもない。 男を外のベンチに寝かせ、濡れたハンカチを顎に充てると、優作は気絶している男に向かって拝んだ。 「ごめんなさい。オレ、まだ自分の尻が可愛いんです」 優作は逃げるようにその場を後にした。 さて、とんだことをしてしまい、余計に時間をロスしてしまった優作は、改めてヒデ捜しに乗り出す。 バイク置き場を見ると、黒のRZ250があった。ノリが言っていた通りの、古いだ。優作はバイクを見てほっとした。確かにヒデが来ているらしかったからだ。 念のため、優作はRZのナンバーを確認する。 練馬ナンバーである。 ということは、ヒデは都内の人間である可能性が高い。優作はナンバーを手帳に控え、ノリの言っていたハッテン場に向かった。 いよいよ、未知との遭遇である。優作は意を決してダークゾーンへと足を踏み入れた。 夜中のサービスエリアは一種独特の雰囲気があるのだが、ここは更に別天地である。ごつい男たちがあちこちにたむろして、何やら談笑していた。 優作がやってくると、それまでざわざわと賑やかだったのが、一瞬に静寂を呼び起こす。 男たちは皆一斉に、優作を値踏みするような目で見ている。 どーも、このカンジ好きになれそうにねーなー。 優作は背中にじっとりと嫌な汗を浮かべながら、サングラス越しにヒデを捜す。 たむろしていた三人グループが、優作に歩み寄ってきた。 「よお。でかいお兄さん、見ない顔だな。初めてかい?」 「はあ。おてやわらかに」 優作は帽子を軽く持ち上げると、引きつり笑いを浮かべて、挨拶をする。 グループの中でリーダー格らしい男が、優作の背後に回り込む。 細身の男が、頭からつま先まで優作を値踏みするように見つめている。 「着やせして見えるけど、結構いい身体してるじゃない」 「ホント。尻も締まりがよさそうだ」 そう言ってリーダー格の男が、優作の尻に手を当てた。 先程のこともある。あまり手荒いことはしたくない。 しかし、男に尻を触られるのが、こんなに気持ちが悪いものとは。しかも、リーダー格の男は、触るだけでは飽きたらず、今度は優作の尻を揉み始めたではないか。 |