二人は、きれいに整備された広い街道を歩いていた。すれ違う人もほとんどいなくなり、今はレイルとリーナの二人だけである。
そんな中、リーナは少しくたびれた感じでに言葉を続けた。
「 ———でね、さっきも言ったけど、魔物とかが出てくるからほとんどの人はあんまり町から出ないの。そりゃ、人にはいろいろ事情ってもんがあるから一生町を出ないなんてことは出来ないだろうし、魔物もそう直々出てくるわけじゃないけどね、やっぱり怖いもんは怖いのよ」
そこまで言って、一度間をおき、
「ま、怖いのは魔物だけじゃないんだけどねぇー」
薄く笑うと、隣を歩いているレイルにその笑みを向けた。レイルはワケガワカラナイとでも言うような表情で首をかしげる。リーナもそれと同じように首をかしげると、ふっと息を吐き出した。
「治安の悪いとこだと盗賊とか、賞金首だとか、そう言うタチの悪いのがうろうろしてんのよ。ま、それをそれをとっ捕まえるハンターはそのおかげでぬくぬく生活よ」
憂鬱な表情で皮肉る。その顔に怪訝な表情を返しながら「ハンター?」と繰り返す。それにリーナが目を見開いた。信じられない!!とでも言うように。
「あんたってほんとに何も知らないのね。いい?ハンターっていうのは、んまぁ、まんまだけど賞金稼ぎよ。悪いやつら捕まえて賞金もらうの。そんで、生計立ててる人たちのことよ。有名なとこだとレッド・ハットとか、トルティス・ブラックとか・・・あっ、あとアーツ・ハウルとかかな?」
わかった?と目で聞いてくるリーナに、肯定するように手をひらひらと振る。そのレイルの反応にリーナは軽く頷き、その先を促した。「まだある?聞きたいこと」
レイルはぷるぷると首を横に振ると、ふっと遠くに目を向けた。
「おおっ村だぞ、村!」
前方を指差しはしゃぎだす。リーナもそちらへ顔を向けると、確かに1kmほど先に村らしき明かりが見える。
「あらほんと、んじゃ、今夜はあそこに泊まりましょ。もう暗くなってきたし」
空を見上げると太陽はほとんど沈み、月が顔を出していた。
先ほどまで一面真っ赤だった空が今はもう、暗く、深い藍色に染まりつつあった。
2人がそこに入っていくと視線が2人に集中し、またそれぞれの会話の中へと戻っていった。
今二人がいるのは、村の宿屋(結構すんなり見つかった)。一階は食堂兼酒場になっているようだった。1人、または恋人同士で食事をしているところ、友人たちと酒を飲み交わしているところ様々で、狭いながらも席はいっぱいになっていた。そこを横切り、カウンターへと歩いていく。
カウンターには、白髪混じりの初老の男が座っていた。
「いらっしゃい。泊まるのかい?」
目をあげずに、声だけで2人に尋ねた。「おうっ」とだけ答えると、店員ははじめて顔を上げ「一緒かい?」と聞いた。少し顔を赤らめたレイルを押しのけ、リーナが出てきた。そして力一杯、
「別っ別です!!」
リーナにはさして反応を見せずに、店員は手を差し出した。
「15Gずつね」
ふと、レイルは目を覚ました。いや、覚ましていた。身を起こし窓のほうを見ると、カーテンの隙間から月の
光が漏れていた。レイルはベットから出て、マントを手に取りそのまま扉のほうへと向かっていった。
静かな夜だった。かすかに吹く風の冷たさがボーっとしている頭に心地よかった。レイルはそのままあてもなく歩き出した。
(『これはゲームだ—』)
ふっと、頭の中にあの声がよみがえってきた。あの砂嵐の中で聞いた声。
「(やっぱり、これってゲーム・・・なのか、な?)」
『ここ』に来て2日。ずっとリーナを質問攻めにし、レイル自身も考えもしなかった。
「(あの男・・・、どっかで見たことある気がすんだけどなぁ。・・・・・思いだせん)」
立ち止まり「むぅぅ」とうなったが、思い出せないのがわかると、また歩き出した。
「(それにしても、まじゲームだったらすげ—よな。風まで感じるし)」
またしても「うーむ」とうなりながら歩いていると、いつのまにか村の外れまできていた。
引き返そうかと思ったとき、いきなり強い風が吹き抜けていった。その風につられるようにレイルが村の外へと視線を移すと、小高い丘が目に入った。
その丘も夜に飲まれ、空に照らされ、黒く映えていた。そして、丘の頂上、月と重なるように小さな黒いシルエット。
「人だ」小さく呟くとレイルは丘のほうへ駆け出した。
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