バッと勢い良く起きあがって、大助はあたりを見まわした。 そこは森だった。どこを見ても木、木、木。少し先に湖があったが。ここはどう見ても森だった。 「さっきまで、自分の部屋でゲームをしてたのに・・・」 再び空を見た大助の目に、あるものが映った。 「・・・・なんだ、ありゃぁ〜〜!?」 文字。 文字が空から現われ、また雲の影に消えて行く。 とても不思議な光景だった。
空を流れていく文字を、放心したように突っ立ったまま見上げていた。 大助にはその文章に見覚えがあった。 「・・・あれってプロローグじゃねーか」 そう。説明書やゲームの画面でも流れていたプロローグの文章そのものだった。 「何で、空を文字が流れるんだ。そういえば何でオレ、森なんかにいるんだ?」 大助はわけがわからないまま、とりあえず顔でも洗って目を覚まそうと湖の方へと歩いていった。 かがみこんで、水面を覗き込む。「うへっ!?」 水面に映っていた顔は大助のものと少し違っていた。 そこに映っていたのは、大助の写真をもとにして作った「レイル・グレイブ」の顔だった。 よく見ると服までもが変わっていることに気づく。 顔を触ってみても、服を引っ張ってみても、水面の「レイル」は同じように動いて。大助はソレが自分なのだと理解した。 「これってゲームの最新システム?聞いたこともない。・・・それとも・・・」 『ちょっとぉ、そこの人 気をつけてぇーーーっつ』 別の考えをつぶやこうとした瞬間、繁みの奥からせっぱつまった女の声が聞こえてきた。と、同時にそこから大きな影が飛び出してきた。そしてそれに反応する前に、大助は襲いかかってきた大きな影に押し倒され、のしかかられていた。 『ガルルルルルルル』 それはトラだった。いやトラだろう。見た目はトラなのだが毛が紅い。牙も口から少しはみ出ていたりと、知っているのとは少し(?)姿が違っていたが。 その「トラ」が大助の上に乗って、顔を近づけてくる。 「うそおぉぉぁぁ〜〜」 情けない声を出している。彼は半泣き状態だった。 「トラ」が口を開けさらに顔を寄せてきた。 「(うひ〜もうだめぇ〜)」 ベロンッ 目をぎゅっと瞑り、この世へ別れを告げようとした大助。しかし予想していた痛みは無く、ざらざらベトベトしたもので顔を撫でられた。 「は・・・?」 こわごわと薄めを開けて見た。「トラ」はゴロゴロとのどを鳴らしながら、大助に顔をすりよせている。その仕草は普通のネコが甘えているようでもある。 『ねぇ、君。大丈夫?』 わけがわからずボーっとしていた大助の耳に、再びさっきの声が入ってきた。 ガサッと繁みを割って出てきたのは15〜17才位の女の子だった。 「ちょっとそのままでいてね」 大助の方を向かずそう言うと「トラ」の方へ近づき、首輪(大助が見ただけでもかなり高価そうだとわかる)に紐をつないだ。 そして「トラ」を撫でながら、倒れたままの大助の横にしゃがみこんだ。 「ごめんね。この子案外すばしこくって。この子届けたらお礼でもするからさ」 大助は町の中を歩いていた。さっきまでいた森からさほど離れていない。 「結構活気のある町でしょ。・・・あ。そう言えば自己紹介まだだったね。私はリーナ・ファーリィ。旅しながらいろいろしてるの。あなたは?」 いきなり自分に振られ、なつかれてからずっと背にのしかかられたまま「トラ」を引きずっていた大助は、少し戸惑い一瞬おいてから口を開いた。 「オレはだい・・・・、レイル。レイル・ブレイブだ。ぴっちぴちの17才だぜ!」 「なんだ、同じね。私も17よ」人懐っこそうな顔で笑った。 「(かわいい・・・・)」 そんな会話をしているうちに、ある大きな屋敷の前まで来ていた。 町でも1・2を争う大きな屋敷らしい。リーナが立派な扉についているノッカーを叩いた。 しばらくすると、少々痩せギミの老女が扉から顔を覗かせた。 「リーナです。フランソワ−ズちゃん見つけてきました」と、まだ大助の背にのしかかったままの「トラ」”フランソワ−ズちゃん”を指差した。老女はそれを見て「まぁ!」と声を上げ、「奥様ー!」と屋敷の中へ戻って行った。 フランソワ−ズちゃんは大助の後ろで、切ない声をあげている。 |