目が覚めた時、一番先に目に入ったのは空だった。

バッと勢い良く起きあがって、大助はあたりを見まわした。

そこは森だった。どこを見ても木、木、木。少し先に湖があったが。ここはどう見ても森だった。

「さっきまで、自分の部屋でゲームをしてたのに・・・」

再び空を見た大助の目に、あるものが映った。

「・・・・なんだ、ありゃぁ〜〜!?」

文字。

文字が空から現われ、また雲の影に消えて行く。

とても不思議な光景だった。


ここにひとつの世界があった


6つの巨大な大陸と、小さな島国が無数にあり

人間と動物、様々な種族が存在する世界が・・・

2000年もの昔。この世に1つの闇が現れた

その闇は新たなる闇を生みだし、世界を侵食していった


今、世界は魔物、魔族、魔王の影に怯え暮らしている

誰もが、救いを求めていた




空を流れていく文字を、放心したように突っ立ったまま見上げていた。

大助にはその文章に見覚えがあった。

「・・・あれってプロローグじゃねーか」

そう。説明書やゲームの画面でも流れていたプロローグの文章そのものだった。

「何で、空を文字が流れるんだ。そういえば何でオレ、森なんかにいるんだ?」

大助はわけがわからないまま、とりあえず顔でも洗って目を覚まそうと湖の方へと歩いていった。

かがみこんで、水面を覗き込む。「うへっ!?」

水面に映っていた顔は大助のものと少し違っていた。

そこに映っていたのは、大助の写真をもとにして作った「レイル・グレイブ」の顔だった。

よく見ると服までもが変わっていることに気づく。

顔を触ってみても、服を引っ張ってみても、水面の「レイル」は同じように動いて。大助はソレが自分なのだと理解した。

「これってゲームの最新システム?聞いたこともない。・・・それとも・・・」

『ちょっとぉ、そこの人 気をつけてぇーーーっつ』

別の考えをつぶやこうとした瞬間、繁みの奥からせっぱつまった女の声が聞こえてきた。と、同時にそこから大きな影が飛び出してきた。そしてそれに反応する前に、大助は襲いかかってきた大きな影に押し倒され、のしかかられていた。

『ガルルルルルルル』

それはトラだった。いやトラだろう。見た目はトラなのだが毛が紅い。牙も口から少しはみ出ていたりと、知っているのとは少し(?)姿が違っていたが。

その「トラ」が大助の上に乗って、顔を近づけてくる。

「うそおぉぉぁぁ〜〜」

情けない声を出している。彼は半泣き状態だった。

「トラ」が口を開けさらに顔を寄せてきた。

「(うひ〜もうだめぇ〜)」

ベロンッ

目をぎゅっと瞑り、この世へ別れを告げようとした大助。しかし予想していた痛みは無く、ざらざらベトベトしたもので顔を撫でられた。

「は・・・?」

こわごわと薄めを開けて見た。「トラ」はゴロゴロとのどを鳴らしながら、大助に顔をすりよせている。その仕草は普通のネコが甘えているようでもある。

『ねぇ、君。大丈夫?』

わけがわからずボーっとしていた大助の耳に、再びさっきの声が入ってきた。

ガサッと繁みを割って出てきたのは15〜17才位の女の子だった。

「ちょっとそのままでいてね」

大助の方を向かずそう言うと「トラ」の方へ近づき、首輪(大助が見ただけでもかなり高価そうだとわかる)に紐をつないだ。

そして「トラ」を撫でながら、倒れたままの大助の横にしゃがみこんだ。

「ごめんね。この子案外すばしこくって。この子届けたらお礼でもするからさ」



大助は町の中を歩いていた。さっきまでいた森からさほど離れていない。

「結構活気のある町でしょ。・・・あ。そう言えば自己紹介まだだったね。私はリーナ・ファーリィ。旅しながらいろいろしてるの。あなたは?」

いきなり自分に振られ、なつかれてからずっと背にのしかかられたまま「トラ」を引きずっていた大助は、少し戸惑い一瞬おいてから口を開いた。

「オレはだい・・・・、レイル。レイル・ブレイブだ。ぴっちぴちの17才だぜ!」

「なんだ、同じね。私も17よ」人懐っこそうな顔で笑った。

「(かわいい・・・・)」

そんな会話をしているうちに、ある大きな屋敷の前まで来ていた。

町でも1・2を争う大きな屋敷らしい。リーナが立派な扉についているノッカーを叩いた。

しばらくすると、少々痩せギミの老女が扉から顔を覗かせた。

「リーナです。フランソワ−ズちゃん見つけてきました」と、まだ大助の背にのしかかったままの「トラ」”フランソワ−ズちゃん”を指差した。老女はそれを見て「まぁ!」と声を上げ、「奥様ー!」と屋敷の中へ戻って行った。

フランソワ−ズちゃんは大助の後ろで、切ない声をあげている。