風間大助はあるゲームを手にしていた。

「なんだ・・・コレ?」

 そう言いたくなるのも当たり前。彼の手にしているゲームには名前が無かった。表も裏も白く、ただ裏に制作会社名(よく見たら結構有名なところだ)やらバーコードやらが書いてあるだけ。

「(印刷ミス?何かあやしぃー)」

とは思ったものの、大助はそのゲームに惹きつけられる何かを感じ、そのままレジへと向かって行った。


 今、彼の姿は自室にあった。

 家に帰ってきてすぐ部屋へかけこみ、ゲームの封を開けた。

「たくよー、こんな怪しいゲームなのに金はきっちりととりやがんの。」

 当たり前である。

 中にはいたって普通の(とはいってもやはり白い)説明書とソフトが入っていた。説明書の中身はゲームの内容を説明する文書、目次、操作方法、諸アイテムなどなど。

「・・・?」

 ふと、大助はあることに気が付いた。大体の説明書にはつきものの主要キャラクターの説明・脇キャラクターが書いていない。見落としかと思い、再び始めから見なおす。するとそれらしいページを見付けることができた。
==操作キャラクターについて==

 このゲームではプレイヤーの使うキャラクターを、プレイヤー自身が作成することが出来ます。

ソフトをパソコンにセットし『キャラクターの作成』を選択して下さい。

 始めから入っているパーツ(顔・服装等)の他に、イラスト・写真などをスキャナ等で読みこみ、パーツをつけることも可能です。

 さぁ、あなたもLet‘s TRY!!

「これまた大雑把な・・トライってなんだよ、こんなの聞いたこと無いな最新システムか?ま、イーや。やってみよ、ア、どうせだから自分の写真使うか☆」

と、アルバムをあさり調度良い写真を見つけ出しスキャナで読みこむ。

 しばらく部屋の中にはカタカタとキーボードを叩く音と、マウスをクリックする音が響いていたが、やがて面白くなってきたのか画

面に向かう顔がみるみるおもちゃで遊ぶ子供のようになっていた。 
「えーと、髪は茶色くして、・・・服はこんなもんだろ。んで、基本能力値はっと、あんまり高くしてもつまんないよな。名前は、レ・イ・ル・・・うん、これでいこー!」

 つぶやきながらパソコンの画面と格闘すること1時間。

「よっしゃーっ!出来た。んで?あとはセーブしてゲーム機に入れるっと」
 
大助は立ちあがり、さっそくゲーム機へとソフトを入れ、電源を入れた。

チャッチャラ〜♪

オープニングが流れ始めると、大助はもう画面に集中していた。

説明書にも書いてあったプロローグが、画面の中でスクロールしていく。

町に入り、会話をし、敵を倒して行く。

そして、ゲームを始めてから2〜3時間ほど経ったが・・・。

「な〜んか、普通だよな。仲間になりそうなヤツもいねーし。説明書にも書いてなかったし。あれって自力で探せってことじゃないのかなぁ・・・」

 キャラクター作りにあんなに燃えていた気分が、今はぐーんとさめてしまっていた。

「大助ー、ご飯よ。もう降りてらっしゃーい」

下の階から女性の声が響いた。母親である。そして大助が母親に返事を返そうとした時、異変が起きた。


テレビの画面が、突然、砂嵐になった。

「・・・??うっおっ!?」

呆然と画面を見つめていると、いきなりすごい力で画面に引き寄せられた。

「(ぶつかる!!)」

ぎゅっと目を瞑った。が、大助の体は画面にぶつからずに、そのまま画面の中に吸い込まれて行った。


カチャッ

「大助?」

ドアを開け母親が入ってきた。が、そこには砂嵐のテレビが付いているだけだった。

ふう。とため息をひとつ吐くと、テレビを消し部屋を出て行った。



遠くの方で砂嵐の音が聞こえる。

大助は意識が朦朧としていた。

『君にいいことを教えてあげよう』

いきなり頭の中に声が響いてきた。

『これから君は今までしたコトの無い冒険をする。どんな結末になるかは君次第だ』

大助は声の主を探そうとしたが、体が動かなかった。

『君には主人公の特権をつけてあげたよ。だって、そうでなきゃ後が大変だからね』

大助にはこの声が何のことを言っているのかさっぱりわからなかった。

『これはゲームだ。でも本当に死んでしまうこともあるかもしれない。どうなるかは私にもわからない。でも君の可能性を信じて待っているよ』

声は一方的に話し、そこで一旦口を閉じる。

再び砂嵐の音が聞こえてきた。

『もう1度言うよ。これはゲームだ。また会える日を楽しみにしているよ。・・・・・レイル君』

「(えっ・・・?)」

声が消えると同時に、フッと大助の意識も薄れていった。

薄れゆく意識の中で大助は、砂嵐の向こうに黒スーツに眼鏡の男が立ち、ニッと笑っていたように見えた。