傷の涙
 恐ろしいです……初めてです………
 この子をこんな風に恐れたのは………
 
 俺はこの子の手首を掴んだまま、握ったまま、動けなくなりました。
 視界に入るものは手首の傷だけです………


 俺に手首を掴まれていることに違和感を感じたのか……
 恋人は目を覚ましてしまいました……… 
 俺を………掴まれた自分の手首を………じっと………
 

 俺は、オレは………
 どうしたらよいのでしょう………
呼吸が苦しくなります。
 息がつまります。


 すると、


 恋人は口を開きます………


 寝起きの少しカスレタ、小さな声……  
「昨日………ツケタ傷………」

「……………………」

「その前にやったのは2日前………」

「……………………」

「その前が……3日前………」    

「ナルト…………」

「どーしてこんなことするのかって聞きたいんだろ?せんせぇ………」 

「……………………」 
手のひらとか、手の甲とか……色々……色んなとこ……」   
「何がしたかったんだ…………」
どこを切っても同じなんだってば ……………」
「……………
「……………………」
「………… ……………」
身体は傷つかないんだってば、オレは
「ナルトッ!!!!!」 
 名前を呼んだ声は絶叫に近いものです。
 俺は恋人を強く抱きしめました。
 それしかできないんですから。
 俺には、それしかできないんですから………
 
 可哀想と言うより……むしろ、
残酷です。  自分の存在に疑問を持つなど、こんなにも小さいのに………


「………っ………うっ………」

 嗚咽の混じる泣き声………
 声を殺した泣き声………   
「……っ…ふつうの……人にっ……なりたい……っ……」
残酷です。
「……いつか……」

 俺は無力です。

「…………………」  
ただの できません。
「……来るよ……」

 俺は無力です。

「…………………」  

「お前の願いが叶う日が…………」

「…………………」
「俺が叶えてやるよ…………」
「……ウン………」 
「もう…………自分を傷つけるのはやめろ…………
 傷つきたいなら…………
「……ウン………」 
「……消えない傷をたくさん刻み込むから………」 
「ウン………」 

 ”慰め”にお前を止めることなどできないのはわかってるよ。
 俺は無力すぎるよ………

 俺の目から、涙が頬をつたい落ちました………



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