My Lover...4.

『新入生歓迎会』は校舎の1番端に在る体育館で全校をあげて行われる。
毎年恒例の行事だった。
学園長の挨拶に始まり、生徒会長の学園紹介・先生紹介など
どこでもやっていそうなプログラムだったが、1年生がより楽しい学園生活を送れるよう
その一つひとつに工夫が施され、『つまらない』と口にするものは誰一人居なかった。
この学園では年間で、文化祭や体育祭と並ぶ催しだ。

「・・・続いては、部活動案内です。部活動に在籍している生徒は準備に移ってください。」
アナウンスが響くと、過半数の生徒が教室の方に移動を始めた。
『部活動案内』というのは、体育館にて1年生に部活動の簡単な説明をし、
気に入った部活動の詳細・入部を希望する生徒は自らそこの部屋に行く、というものである。
各教室はその為の部屋と化していた。

「ワタシは絶対サッカー部のマネージャーやるんだ。」
レイチェルはガッツポーズを作ってみせる。
「レイチェルの意思は固いのね。」
「アンジェはどうするの?」
「私は・・・」
ふっとゼフェルの顔が頭の中を通り過ぎる。
  先輩と同じ、帰宅部がいいな。
  他の人も入ってる帰宅部じゃなくて、
  先輩だけが在籍する『帰宅部』
「ゼフェル先輩が部活動してたらよかったのにね。」
アンジェリークはレイチェルの発言にどきっとして彼女を見た。
彼女は、にこっと笑う。
アンジェリークは鋭いレイチェルに脱帽してもはや声も出なかった。

やっぱり、アンジェはゼフェル先輩に恋をしたかぁ・・・。

「隠しても解るんだから。アンジェ、ゼフェル先輩のこと好きなんでしょ?」
「どうして・・・?」
「トモダチだもん!」
自信満々な答えにアンジェリークは涙が出るほど嬉しくなった。
生涯、あと何人、こんな友達ができるのかしら。
ううん、レイチェルのような友達はもう出来ないかもしれない—。
「さぁーてと。アンジェ!サッカー部の教室に付き合ってね。」
「うん!」
体育館から既にちらほらと移動する生徒の姿が見え始めた。
アンジェリークとレイチェルも立ち上がる。
「・・・帰りに、聞いて欲しいことがあるの。」
並んで歩くレイチェルに、アンジェリークは小さな声で呟くかのように言った。
「何でも聞くよ。」
レイチェルは極上の笑みでアンジェリークに返答する。

___

サッカー部の教室に行く途中の階段で、2人はゼフェルと出会った。
レイチェルの瞳が獲物を捕らえたかのように輝いた。
「丁度よかった!ゼフェル先輩、アンジェを預かってください!」
「え!?レイチェル!?」
「おねがいしま〜す」
半ば強引なレイチェルに、アンジェリークは置き去りにされてしまった。
「預かる・・って・・・物じゃねーんだからよぉ・・・」
ゼフェルは呆れたように呟く。
一度大きく溜息を漏らすと、アンジェリークを見た。
「おめーは、行くとこね—のか?」
「・・・今の所は・・・」
「俺もだぜ。教室は部活の奴らが占領してるからな。」
じゃあ・・・この時間が終わるまでは2人で居られるのかしら・・・?
ふっとそんなことが頭の中を過った。

気が付けば、貴方のことをこんなにも・・・
今日出会ったばかりなのに・・・

「今日の帰り・・・空いてるか?」
「・・・え?」
ゼフェルからすれば、『オンナ』に予定を聞くなんて珍しい事だ。
「・・・さっき、マルセルが言ってただろ?俺、放課後は作りモンしてるんだ。
おめー、興味あるみてーだからよぉ・・・見に来てもいいんだぜ?」
ぱっとアンジェリークの瞳が輝く。
返事を口にしなくても、その様子で明らかに解る。
「・・・ホントにおめ—って・・・面白れー奴。」

それから少しの時間が過ぎて、レイチェルが戻ってくると
2人だけの時間は幕を閉じてしまった。
けれど。
放課後にはその幕が再び開く・・・——。

つづく