My Lover...2.

「次の授業が始まるわ。皆、教室に戻って。この子は私が診てるから。」
リモージュは再びにっこりと微笑むと、4人に向ってそう言った。
「じゃぁ・・・次の休み時間に、また来ます。」
レイチェルはいがちに保健室を後にした。

「・・・当分、廊下でのキャッチボールは自粛してよ?」
マルセルは頬をぷうっと膨らませてゼフェルとランディに言った。
「あとでアンジェリークが目を覚ましたら謝りに行くよ。」
ランディは、本当に申し訳なさそうにレイチェルに言う。
レイチェルは溜息を付く素振りをしながらも、内心「チャンス!」と大喜びしていた。
「お前もあやまるんだぞ、ゼフェル!」
「だぁっ!解ってるよ!」

・・・本当に、アンジェはこのヒトに一目惚れしちゃったのかなぁ?
レイチェルの好み外のゼフェルを見ていると、段々不安になる。
でも、このヒトがぶつかったって言ってるしなぁ・・・?
アンジェリークってこういうヒトが好みだったんだ。
ちょっと、恐そうな先輩。

「じゃあ・・・本当にごめん。次の休み時間にまた行くから。」
ランディはレイチェルに丁寧に頭を下げる。
先輩の、そんな姿を見るとレイチェルは逆に申し訳なくなってしまった。
「あ、あの・・・あのコ、ちょっとほやほやしてる所あるから・・・大丈夫です」
レイチェルも、ぺこりと一礼すると教室へ向かった。
それから間もなくして、4校時目を告げるチャイムが鳴る。
___

場所は、2年C組。
そう、あの3人の教室。
優しい瞳の男性教諭がその時間の出席を確認していた。
「あれー?ゼフェルがいないようですねー。誰か理由を聞いている人はいませんかー?」
クラス全員が互いを見て首を横に振る。
「教室まで一緒だったのに、どこ行っちゃったんだろう?」
マルセルは小声で隣のランディに話し掛けた。
2人ともゼフェルがいなくなった瞬間を知らないらしい。
「・・・」
直感的に、ランディはゼフェルが向かった先を悟った。

さっき、保健室で見た、ゼフェルの表情。
誰も気づかなかったし、当の本人もまさか顔に出ていたとは思ってもいなかっただろう。
俺は確かに感じた。
あぁ、ゼフェルはアンジェリークをかなり心配しているな・・・って。
「女になんか興味ねー!」って言ってたけど彼女のことは気になるらしいな。
しかたない。こんな珍しいゼフェルに免じて、先生には内緒にしといてやるよ。

・・・どうやら、ランディの推測はピッタリと当たっていたらしく、ゼフェルは既に保健室の前まで
辿り着いていた。
がらっ!
勢い良くそのドアを開ける。
「まぁ、ゼフェル・・・また授業をサボったの?」
「ルヴァの歴史だぜ!?眠くってやってらんねーよ。」
くすくす、とリモージュは笑った。
「ルヴァ先生はとても興味深いお話をしてくださるのに・・・
 でも、今ここに来たのはそれだけの理由じゃないわよね?」

途端にゼフェルの顔が真っ赤になる。
別に、否定していればリモージュは「そう?」と納得してくれていた筈なのだが。
「お・・・俺はただ眠かっただけで・・・!!」
ますますゼフェルは赤くなる。
頭の中は真っ白になりかけているようだ。
「別に、この1年の様子を見に来たわけじゃ・・・」
しまった、と思った。
リモージュに本当のことを言われ、墓穴を掘る。
ますますリモージュは可笑しくなって笑う。
笑いながら椅子から立ち上がり、ドアへ向かった。
「どこ行くんだよ!?」
「職員室に行って、書類を整理してこなくちゃ。彼女、お願いね。」
企みを込めた笑みでゼフェルを見ながら、リモージュは保健室を出て行ってしまった。

「お願い・・・って・・・どうすりゃあいいんだよ・・・」
とりあえず、今までリモージュが座っていた椅子に腰を落とすと
肘を机に、手を顎に付け、風になびいている1枚のカーテンを見つめる。
そのカーテンの向こうには、アンジェリークが眠っているのだ。

何なんだよ、この感情は?
何で俺の心臓はこんなに激しく鼓動してやがるんだ?
廊下で人にぶつかる事なんて、別に珍しいことじゃねーし、
キャッチボールをして誰かにボールを当てるなんていつもの事だ。
先公に当てたことだってある・・・笑えねーけどよ。
けど、気になるんだ。この1年の事が。
あの潤んだ瞳が、暖かい掌が、忘れられねー・・・。

ゼフェルが考え事をしていると、カーテンがすっと開かれた。