ブラバン出身プチ侍の行く末(その1)

問い:中学・高校はブラスバンドでした。大学に入ってジャズがしたくてジャズのクラブに入りましたが、アドリブがよくわかりません。
 どうしたらいいでしょうか?

 という身も蓋もない仮想質問を考えてみましたが、このような疑問を持っている人達は、全国に1万人はいると思われる。言い過ぎか?
 しかし、いろいろな地方の大学生と話をしてみても、このような質問が最も多かったのは確かである。

 この質問の困ったところは、個人差がありすぎて回答する幅が多岐に渡りすぎるというところだ。そしてもっと困ったことに、質問した人も何が本当に疑問なのかわかっていない。漠然とした現状に対する不満と、しかしそれに対する具体的な解決策がでないがゆえのいらだちが、この質問の根底にある。


現状認識

 ここからは回答の幅を狭めるために、トロンボーン限定のお話。

 どうしたらいいか?

 じゃぁ、どうもしなければどうなるのでしょうか?

仮定のおはなし:

 もし、あなたのいるジャズ研だか軽音だかにフルバンド(ビッグバンドとも言う)があった時は、きっと経験者のあなたはそういうフルバンドに所属するでしょう。フルバンドは忙しいです。きっと充実した大学生活が送れることでしょう。ぱちぱち。

 三回か四回にもなればソロの一つや二つ割り当てられることでしょうが、これまた基本的な楽器の素養が出来ているあなたは猛練習の挙げ句、オリジナルの超絶技巧のよくわからないソロをコピーしてこなします。当然、みんなの尊敬を集め拍手喝采。自分のやり方は間違ってなかったんだ……という瞬間です。

 積極的なあなたはコンボ活動にも精を出すかも知れません。熱心なトランペットやサックスの同回生に誘われてMessengersのコピーかなんかをやります。経験者のあなたは、きちんとコピーをして、自分の持ち場をしっかりつとめあげます。ぱちぱち。

 フルバンで山野にでたり、定期演奏会のコンボバンドなどでそれなりに充実した大学生活を送っているうちに、四年間というのはあっという間です(時には5年間だったり6年間だったりしますが)。ついに卒業です。楽しいクラブ生活だったと思います。彼女(もしくは彼氏)も出来たし。でも入学当初に考えていたのと何かが違うような気がします。アドリブ?出来たらいいけどねぇ……と卒業を間近に控えたあなたはアドリブの事を考えると心がざわりと粟立つのを感じながらも、かわいい後輩に見送られ幸せにクラブを去ってゆくのでした。


 はい、これが大多数の「経験者」トロンボーンの人の、大学ジャズ研生活における行く末でした。だいたい50%以上の人がこういう経過を辿ります。しかもこれはこの路線において成功した部類の話です。ドロップアウトする例も多々ありますし。

 

 トロンボーンで入部した場合、アドリブをしなくてもクラブ生活を忙しく過ごすことは十分可能だという驚愕の事実があります。こういうフルバン的な小仕事やファンクバンドのバックなど、ホーンセクションとして必要とされる仕事はいくらでもありますから。

 つまり他のパートに比べてアドリブに対する絶対的な希求度がない。だからアドリブに真剣に取り組まなくてもクラブ生活が送れてしまうというわけです。

 また、基本的にトロンボーンのアドリブは
 難しい。
 難しい割に報われない。
 見本が少ない。

 という欠点を有しています。

 やらなくてもやってけるし、やっても困難だし、報われないということでは、アドリブに向かわないのも当然ですよね。実際殆どの(特にブラスバンド経験者の)トロンボーンの人は一度ならずアドリブに取りくむものの、そのとりつくしまのなさに密かなる撤退をすることが多いです。結果的に、きちんとアドリブソロに到達するトロンボーン人口は非常に少ない。(サックス・トランペットでも同様の傾向はありますが、やはりトロンボーンの場合こうした人の方がむしろ多数派を占めているという点が特徴的ではないでしょうか。)

 だが、吹奏楽部にいるのではなく、ジャズのクラブにいるということを十分すぎるほど自覚しているこの人達はやはりアドリブに対する憧れはあるわけで、結果として妙な屈折を呈する場合も少なくありません。



 こんなのいや?

 じゃあどうすればいいでしょう。

 続きます。

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