ソングブックの比較:

—コードブックを読み比べる。

 コンボでアドリブソロを吹く際に、元になるのはテーマとコード進行だけが書かれた汎用の曲集、"Song book"とか"Fake book"とかいわれているコード・ブックです。セッションなどに行く場合、持ちネタの蓄積としてこういう本が必要。

 問題は、トロンボーンっ子の標準はヘ音記号であること。こういう汎用スタンダード・ブックは、基本的にはピアノ譜だから、ト音記号なんですよね。

 こういうコードブックは、ほぼ100%※ト音ですし、たとえばセッションなどで、「俺その曲知らん」とかいう人が居れば、一緒に見たりしますから、やっぱり汎用性がある方が望ましい。

 僕に関していえば、セッションでぶっつけ本番で対応する場面に何度か出くわし、あきらめてト音記号で読むようになりました。初学の段階では読みやすい形でへ音で書き直していました。譜面を書く練習にもなりますし。

 へ音記号で通そうというのであれば、前もってト音をへ音に書き直しておく必要があります。幸いトロンボーンの譜面はinCですから、コードは書き直さなくて済むのが唯一の救いでしょうか。

 そして、他のメンバーのために in Cの譜面も出来れば用意しておく、と。

 さて、そういう訳で、残念ながら、トロンボーンっ子である限り、ト音で書いてあるどの市販のスタンダードブックも不十分である、ということになります。とはいえ、スタンダードブックにも色々特徴がありまして、それぞれ一長一短があります。まず何を買えばいいかというのは、難しい問題です。なんぼでもお金があるなら申し分ないですけれども。

Amazonコメント
コスト…コストパフォーマンス
入手性…入手しやすさ 視認性…譜面の「現場」での見やすさ
スタンダード・ジャズハンドブック
伊藤伸吾
中央アート出版
 コスト…S 入手性…A 視認性…A 携行性…B
 ある種、もっともコストパフォーマンスに優れた一冊。
 どうしても一冊、という事になれば、これが一番無難な選択に思われる。コードも大きく、譜面の視認性もよい。曲もアルファベット順に並べられ、選曲も大体必要なものを網羅している。唄もの7割、ジャズオリジナル3割、といったところか。とにかく使いやすいのである。
 欠点としては、ヴォーカル向きではないところ。歌詞の記載もないし、Verseも載ってない(唄ものの比率が多い割には、これは不親切だ)。
 コードは簡潔さを優先させている。時に正確さよりも簡潔さを優先させているように見える部分もあるので注意。(出入りしているジャズライブハウスのオーナーはこの本が「諸悪の根源」という表現をしていましたが、それにも一理あると思います)
 昔のバージョンにはBlue Bossaが入っていたりとか、版によって収載曲がちょっと異なる。それにしてもThermoとか、誰がやるんだろうか。
新版 スタンダードジャズのすべて 1・2
高島 慶司
全音楽譜出版社;
 コスト…B 入手性…A 視認性…C 携行性…C
上下二巻で、それぞれ401曲ずつ。結構な曲数です。唄ものも、ジャズオリジナルもそれなりに多い。
 唄ものは歌詞もVerseの部分も載っているので、もしあなたがボーカル兼業のJack TeagardenかNils Landgren、verseまできっちり唄うボーカルの人の歌伴をするのならば、お薦めです。
 しかし実際にステージ上で使うには難点がある。曲順にはっきりした法則がなく検索しにくい。文字が小さく読みにくいし、B5だが、分厚く重いので持ち歩きにも適さない。譜面台に立てても安定しない。
 これは、一種の辞書のようなものと考えて、ここからリード・シートを写すという風に使われるべきかと思う。
 僕はこの前の版(表紙は水玉みたいな柄)を持っていましたが、新しい曲よりはバップ以前の中間派とかスウィングなどの古い曲が充実しているという印象がありました。で、コードの書き方もちょっと古い感じがした。版が変わって、ずいぶん曲は入れ換えたということなので、今の版がどうなのかはちょっとわかりませんが。
The Realbook コスト…A 入手性…B 視認性…B 携行性…A
もともとはアメリカでミュージシャン用に作られた、海賊版なんです。だから普通の書店では売れないので、昔は輸入マイナスワンとかを扱う都市部の大手楽器店などや、洋行帰りの人しか入手出来ない本でした。今はこうやって正規版として売られているなんて隔世の感があります。
 譜面はさすがに読みやすい。ビッグバンドの譜面によくある、手書き風譜面です。選曲も、割と新しいジャズチューンも入っていたりして、便利です。但しコードの書き方に関しては統一性にやや欠けるきらいがある。
 難点といえば、やや厚みがあるので持ち歩きにくい。また、リング綴じなんですが、今ひとつ強度がよくなく、持ち歩くと本が痛みやすいんです。
 どうせ伊藤本はみんな持っているから、これを買うと仲間内で喜ばれるかもしれない。現在はVolume3まであるらしい。
 あと、この本のいいところは、tp/sax用に、全く同じフォームで、Bb用、Eb用の本もあること。ご丁寧にへ音記号版もあるらしいので、へ音じゃないと駄目な人は、それを買うというのが市販譜では唯一の方法だと思う。
ジャズマスターシリーズ はじめてのジャズ セッションで困らないための必修スタンダード50曲 (楽譜)
富塚章
コスト…A 入手性…A 視認性…C 携行性…C
ジャズライフ肝いり企画本。僕が学生の末期頃に出版された覚えがある。この本は厳密にいうと、コードブックというよりは初心者用の総説本のような意味合いが強い。よく出来ています。前半部では理論オタクにならない程度の概説がわかりやすい。「文章」を多くしてわかりやすくさせようという印象があります。
 で、後半部にはセッションでよく演奏されるような初級〜中級のスタンダード曲を50曲掲載。初心者がジャムセッションに行っても、なんでも出来る訳じゃないから、自分で「この曲をやりたいんです」と持っていく曲としては格好の50曲が選曲されています。ご丁寧に、一ページにCだけでなく、Bb/Ebキーでも同時に書かれているので、他のキーの管楽器の人も、楽に使えます。但し、字は小さいので、これをそのまま譜面台に載せて使うのはおすすめできません。
コンテンポラリー1001 VOL1
中央アート出版
コスト…C 入手性…B 視認性…A
前述した「Realbook」が裏決定版とすれば、この1001は表決定版とも言える本。譜面として、最もかっちりしている印象があります。
 選曲もかなりバリエーションが広いですが、特に60年代〜70年代の小難しい曲及び、フュージョンなどの譜面は、これにしか載ってないのが結構あります。
 コードは、大きく読みやすいのですが、テンション、分数コードの記載が厳密な印象です。11とかsus4とかもよく出てくる。思うに伊藤本は、最大公約数的なコード表記を心掛けているのに対し、この本は、有名盤のやっているテイクに厳密に再現しているというような感じがします。(といっても、コードシンボルのレベルですがね)。そういう意味では、ジャムセッションでは、逆に使いづらいかなーなんて思うこともある。
 一番の問題は値段の高さ。高い!やたら高い!個人でこれを所有するなんて、はっきりいってスネ夫です。サークル/クラブで共同購入するのにオススメではあります。このシリーズにはラテン曲の1001もあったりしますが、やっぱり高い。

 トロンボーンで、あくまでへ音記号の譜面がいい人は、1:Realbookのへ音記号版を注文するか、2:青い表紙の『スタンダード・ブック』伊藤本を、友達に借りて(もしくは自分で買って)、へ音に写すのが一番いいかもしれません。自分で写すのであれば、どのスタンダードブックを持っていても、結局は一緒という気もしますが。

 最近はジャズ・トロンボーンの教則本もぼちぼち出ていますし、今後トロンボーン用のよい譜面が発売される可能性もありますが、譜面を自分で作るっつーのは、案外重要なことです。

(Feb, 2007初稿)