[学校へ!]
[教室]
[語学の苦労]
[驚いたこと]
[カバンを担いで…]
学校へ!
次女の翔は長女の夏穂と違い、男女共学の公立学校に通っている。
この学校、共学ではセントルシアで一、二を争うといわれているが、そんな感じはしない。でも就職する子達向きで、自由な感じがする。
かくして、翔のCastries Comprehensive Secondary School での生活が始まった。
教室の中は、日本の学校の「教室」とはくらべものにならないほど汚い。
落書きもひどい。壁、机、イス、黒板、ドア。教室のどこを見ても必ず落書きがある。
マーカーや、修正ペン、ペンなどを使って自分のニックネームを書くのである。こんなに書いて、
なんの意味があるんだろうと思うけど…。
教室が汚いのは、生徒達だけの責任ではない。元々建物がひどいのだ。
天井もひどいものだ。
黒板は、日本の物のようにカーブもしていなければ、薄い線もついていない。ただの黒い板。
下のほうに行くにつれ、(塗料がはげているので)見えなくなり、いくら黒板消しでこすっても消えない。光を反射するので、
チョークの字が読めない。
最初の二、三か月は本当にパッパラパーだった。
なんといっても最大の苦しみはフランス語だった。
なんで英語でフランス語を習わにゃいかんのだー!
生活をしてゆく中で、たくさん驚くことがあった。
期末テストは、ちゃんと問題用紙が回って来るけど、その紙に直接書きこまない。
何度も同じ問題用紙を使うからだ。
もう一つは、計画性がないこと。
さて、向こうについたはいいものの、払う金がない子がいる。
学校を出る前に先生がお金を集めたクラスがあったのだ。
クラスなんて関係なしにとにかくやって来てしまった生徒達は困った。
長い映画が終わって、さて、帰ろう。もう下校時間は過ぎていた。
ある先生は全員学校まで戻って、それから家へ帰らなければならないと言い、
ある先生は学校までの間に家がある人はそこでバスを降りればいいと言う。
そんなことをごちゃごちゃやっているうちに、生徒達はさっさと行ってしまう。
三つ目は時間の感覚だった。
四つ目の驚きは、スピーカーのことである。一年生の時の話だが、あのひどい教室にも、
小さなスピーカーが設置された。
学校の一日は、お祈りから始まる。翔は関係ないのでただ見てるだけ。
とにかく翔は、忘れ物がないように、と、一日中、一生懸命重いカバンを担いでいる。
10月18日水曜日、事件はおこった。
30分ほど時間が過ぎた。
コートの中央には木陰にはいれない生徒達がポツリポツリと雨傘を日傘にして立っている。
翔は1日分の教科書の入ったカバンをぶら下げてなんとか立っていた。すると急に生徒達が活気付いて動き始めた。
なんとかバスをとめて乗りこんで…
次の日にみんなに聞いてみると「電話したの、女の子らしいよ。ココの生徒じゃない?」
と、言う。全く迷惑なイタズラだな…もうコリゴリだよWritten by Shou
ルシアンは、ヤジウマである。
彼等がなんでこんなにケンカ好きなのかは謎だが、
日頃おとなしい子でも、ケンカが始まるとみんなを押しのけて行ってしまう。
先生が教室にいない時なんか本当に全員が駆けて行くから、
翔だけがぽつんと教室に残されてしまう。
一度、翔の教室でケンカが始まった事があった。先生が欠席していて、自習をしているべき時間だった。
ちなみに、学校側はケンカした子に対して停学処分を下す。
停学はうちの学校では「suspention」、いのこりのことを「ditention」という。(いのこりを週に何回か以上受けると停学になる)ditentionは火曜日と木曜日の放課後に、学校の掃除をする、というものらしい。(落書きをした場合はペンキ塗りという事もある。)
Written by Shou
ルシアンは悪者好き。なんだか日本人の感覚とは違う。
「Bad boy」が、いいんだって。
男の子達はみんなワルっぽくふるまって、
女の子達もそういうのが好きらしい。(翔はごめんだよ)
学校の校庭には、いろんな動物がいる。
始めて学校に行った日(母と、転入のための書類をもらいに行った。)
教頭先生が、
「一年生の教室はあそこです」
と、指差した先には翔がそれから一年間を過ごした みすぼらしい小屋 教室があったのである。
数日後、翔は真新しい制服を着て、学校に向かった。赤いスカートの上から白いブラウスをたらして、
本当にこの制服はこんな風に着るのだろうか?と、思いながら…。
学校に着くと、お母さんと別れて、翔は担任の先生に連れられ、自分の教室に向かった。
正門から入ってすぐの職員室から見ると、中庭のようになったグラウンドの向こう側に、翔の教室があった。
翔は三段の階段を上って、教室に足を踏み入れた。
翔は、異次元に入りこんだような、不思議な感覚を覚えた。すべてが、今までいたところとは違う気がした。
教室に入ったとたん、クラスメイトに取り囲まれたので、気が動転したせいだろうか。
とにかく、教室の中は暗かった。電気はついていなかったし、
なんと言っても壁の色が緑色で、日本のような明るい白ではないのだ(セントルシア人は派手好き、青色の壁や、紫色の壁の教室もある)。
何がなんだか分からないまま翔は教室の前に立って、片言の英語でなんとか自分の名前だけを言った。(「よろしく」とか「始めまして」も言うことができなかった。)
そして、席につく。こうして、翔はForm1-3の一員になったのだ。Written by Shou
トタン屋根、高床で、木の壁の小屋である。近頃生徒が増えたので、あとで建て増しされたものらしい。
まず、学校の中はすべて土足。給食はなく、みんな朝から家から持ってきたお菓子や、
スナック、学校で買えるジュースをいっぱい食べて(飲んで)、そのまま床にポイ。
ごみ箱も一応あるのだけれど、それでもやっぱり床に捨てる。昼休みの後に掃除するとかいう習慣はない。
学校が終わった後で、お掃除のおばさんがモップを担いでやってきて、
掃除をしてくれるのである。だから生徒達は自分たちの好きなだけ教室を汚して帰って行く。
そういう子達があまりにも目立つから、最初はみんながそんなんなのかと思ったけど、本当は、そういう事をするのはごく一部。全然そういう事をやらない子もいるんだよね。(翔もその一人だぜ)
高床式で(40cmぐらい)しかも床板が薄いので人が歩くとぎしぎしゆれる。
(貧乏ゆすりをする子の近くに座ったらおちおち字も書いていられない。)
ふし穴、すきまだらけなので、お金やペンを落とすと、床下(縁の下みたいで、ジュースのボトルとかが山のように捨ててある)に入ってしまう。
椅子に座っていると、椅子の脚がふし穴にはまって、こける。これは、最悪の気分である。
白くて薄っぺらい天井板は水を含んだせいで垂れ下がり、所々、穴があいている。
雨がたくさん降る日は、ごみ箱をバケツ代わりにして床においておかなければならない。
英語のできない、筆記体も読めない翔に、この黒板で授業をうけるのは大変だった。Written by Shou
中一でちょっと英語を習って、まあまあの成績だと思っていた翔はここで何も言うことができなかった。
一体人がなんと言っているのか、次はどこへ行けばいいのか、宿題はなんなのか、
などちょっとしたことも分からない。
授業内容で分かったのは数学だけ。その数学も〔かける〕とか〔わる〕、〔たす〕とか〔ひく〕も英語なのだからまいってしまう。
スペイン語も習っていたのだけれど、スペイン語のほうは父母に教えてもらえるし、
書いてある事をローマ字読みのように読めばいいだけなのでなんとかなる。
でも、フランス語は発音がすごく難しいし、こっちの子はパトゥワっていうフランス語に近い言葉を知ってるけど、
翔はなんも知らんからメチャクチャ。でもやっと、3年になって、
科目を選択して、フランス語をはずしたから楽になった。(ほっ‐0‐)Written by Shou
まず一つ目は、テストの問題を黒板に書くこと。ここでは印刷やコピーもお金がかかるから、
先生方は黒板にテスト問題を書いて、生徒達が自分の持ってきた紙(持ってない子はノートのページを破って使う)に答えを書く。そして先生がその紙を集める。
ある日、二年生達が英語(English B-物語の勉強をする)の勉強で、映画を見に行くことになった。
映画館は、ショッピングセンターの二階にあって、150人ぐらいの人が入れる。
見た映画は、アフリカから奴隷として誘拐された人達が船の上で反乱を起こし、
アメリカに流れ着く、という話だった。
まず、二年生たちは集合時間に正門前の駐車場に集まった。
三十四、五人のクラスが4つ、130人以上である。
それなのに、迎えに来たのは15人乗りバスがたった二台(?!)。
おーい、こんなん乗れるわけないじゃん!とにかく、バスは乗れるだけの人数を乗せて行ってしまった。
残された子達は「さあ、どうする?」と、首をかしげる。あの二台のバスが行って帰ってくるまで待つ?
そんなことをしたら日が暮れてしまう。
と、いうわけで行動的な生徒達は道路に出ていってまるでヒッチハイクのように手をあげて、バスをつかまえると、自分たちだけさっさと出発。
先生方もしかたないから道路でつかまえたバスのドライバーに交渉して、130人、なんとか映画館に出発した。
お金を持っている先生はまだつかないのである。
とにかくお金を持っている生徒達が、自分の映画館の入場料も出して、なんとか危機を脱した。
結局、ばらばらに始まって、ばらばらに終わった。
待ち合わせとかがあると、日本人の感覚なら15分前に、
とか、渋滞するかもしれないから、とか、いろいろ考る。でもセントルシアの人は違う。
学校の行事とかで、8時から始まるはずのものが、午後になっても始まらない、なんてことはまれじゃない。
生徒達はそれでも腹を立てない。彼らは「待つ」ということを苦にしないのである。
なーんて、翔は日本人なので、すっごい苦痛である。
みんななにもしないで、よく待っていられるね、あたしゃ、早くうちに帰りたいよ。ってね。
でも、こういうことになれた頭のいい子もいるもんだ。イギリス人のクリストファー君はちゃんと「ウノ」を輪ゴムで束ね、
ポケットに入れてやってきた。後はなんにも持っていない。手ぶらで学校に来るなんて!
と、もし翔が今日本で生活していたら思っただろう。
でも、長年この国で生活してきた彼は、正しかった。
翔はいりもしない筆箱と、ノートをカバンに入れて持ってきていた。
(なんか、むなしい)翔はクリストファー君と、インド系の女の子を誘って、
もう一人ぶらぶらしていた男の子を引っ張り込んで終業式が始まるまで二、三時間、遊んでいた。
発展途上国なのに教室一つ一つにスピーカーがあるなんて、と、翔は感心した。
が、やっぱり発展途上国である。ある月曜日の朝、教室に入った翔の目は点(・0・)になった。
教室の奥の壁に、大きな穴が…教室の前、黒板の上を見ると…
!!スピーカーがない!せっかくの新しいスピーカーは土日のうちに何者かによって持ち去られてしまったのだ。
もとあった場所にはワイヤーが二本、むなしく垂れ下がっていた。
(その穴はその後、事務のおじさんに閉じられるまで、生徒達の出入り口になった)
Written by Shou
お祈りが終わると、朝の会(なんか幼稚な言い方…)。出席をとって、話を聞いて、テキトウに終わる。
月曜日には全校朝会、水曜日には宗教、木曜日は学活。
授業は40分一科目、間の(5分)休みはないので先生が遅れて来たり、
移動教室だったりすると授業できるのは30分ぐらい。一日八教科。
(ニ、三時間、同じ科目が続くこともある)この科目、全部のノートと教科書を持って行っていたら、
カバンはすっごく重くなる。しかも、ここで使う教科書は(三年生からの理科関係は特に)、3年間分の物が一冊に入ってるから、ムチャクチャデカイ。
でも、みんなのカバンはぺっちゃんこ。
みんな全科目の教科書は持ってこない。ポケットにはペンが一本、筆箱は、なし。
宿題は朝、昼休みなどに写し合いながらやる。たくましい、と言おうか、ちゃかりしてると言おうか…。
と言うのも、この学校ではすぐにお金や教科書、ペンなどが盗まれてしまうので、
いつもカバンは肌身離さず持っている。
ロッカーは以前は使われていたが、あまりにも管理が悪いので廃止されたらしい。
今はそのロッカー、お祭りの時に裏向きにおいて、舞台として使われている。Written by Shou
事件
翔は、いつものとおり宗教の時間を校長室前のランチテーブルで過ごし、
ベルが鳴ったので1時間目の物理の実験室に向かった。
いつものとおり授業が始まって、もうすぐ授業が終わるという時に意外な放送が入った。
≪全校生徒、教員は、大至急、裏のバスケットボールコートに集合しなさい。繰り返します…≫
それはいつもの聞き慣れた校長先生の声だった。
みんなは授業がつぶれるのを喜び、すぐに教科書やノートをカバンにつめて
教室を出た。「緊急事態」とかそういう感じは全然なかった。でも所々から「爆弾脅迫だ!」
という声があがっていた。生徒達はおふざけ半分にグラウンドを横断してバスケコート
へ向かった。日はガンガン照りで、髪の毛がこげそうだった。みんなは整列するわけでもなく、
木陰に集まっていた。クラスとかもばらばら、先生方も生徒達を集合させもしないで
生徒達を押しのけて木陰に入っていた。
「家に帰れ!」と、裏のゲートに向かって駆け出す。
「え?ホント?一体なにがどうなってるの?」
とか言いながら
(ま、帰れと言うなら帰らしてもらおう♪)と、生徒達の波にのって裏門を出た。
消防車、救急車、パトカーが並んでて(あ、やっぱなんかあったんだ)と、確信した。
それから道に出てバスを待った。近くにいた女の子の傘に入れてもらって、じぃーっと、三十分ほど。
黒い靴、黒いカバンだから背中は汗びっしょり、足はやけどするぐらい熱くて…灼熱地獄ー!!!
家に帰った時にはシャツは汗ぐしょぐしょ、足は棒、頭はガンガン。
その夜のテレビで爆弾事件は、イタズラだったと発表された。
ヤジウマ
特に、ケンカが大好き。授業中でも学校のどこかで「ケンカだ!」
という声が上がったら机でも飛び越えて駆けて行ってしまう。
たとえそれがグラウンドを越えた向こう側でも気にしない。
でも大体の時は「見れんかった〜」としょんぼり帰ってくる。
ケンカの匂いを嗅ぎつけたルシアンの素早いこと。
事態を理解できないまま、翔は空の教室に取り残される。
ケンカのきっかけがなんだったのかはよく覚えていないけど、
二人の男の子が取っ組み合いのけんかを始めた。
ガターン!と、机が倒れたのを聞くと同時にみんなはガバッっと席を立ってまきぞえをくらわないように避難。
よく状態をつかめていなかった翔だけが、ぽつんと自分の席に座っていた。
みんなは止めに入ろうともせずにはやしたて、盛り上げようとする。
被害にあわない程度の距離をおいてぐるっと取り囲み、歓声を上げる。
当然それを聞きつけたほかのクラスの子達も集まって来て、教室の中は大変な騒ぎになった。
でも不思議なことに、みんながはやしたてればはやしたてるほどケンカの勢いは弱まる。
だからヤジウマもけんかを止めるのには効果的だった。ケンカが始まったら、静まり返って見守ったり、
無理に止めに入ったりするよりも、みんなで喜んだ方が良いかもしれない…と翔は思った。
悪者好き
例えば、「ドラゴンボールZ」の英語版がここでもアメリカのケーブルテレビで
見ることができる。こっちの子が好きなキャラは?「ベジータ」と、「ピッコロ」。
いずれも最初敵だったのが仲間にくわわったキャラ。
(みんな知ってるよね)
翔から見れば、やっぱ主人公の悟空と、
息子の悟飯がいいようなな気がするんだけど…うーん…
こうもみんながみんなベジータファンだとなんか取り残されたような気になるな…。
(でも悟空のこと嫌ってるわけでもないんだよ)
でも悪者といっても、やっぱ「本当の悪者」はみんな嫌いらしい。
(ナッパとか、ラディッツとか…フリーザとか…)
悪者っぽいけどいいもんのサイドにいるやつが好み…?
(人造人間18号が好きって子もいる…)
…とにかく、日本とは違う感覚で、
日本のアニメとか見てくれるのも良いと思う。
(隠されたキャラの魅力を見つけてるんだよね)
翔も、みんなのこういう反応を見るのは楽しいし、いろんな発見もできる。
それに、日本で作られたアニメをこっちの子が夢中になって見てるのを見るのは、
なんだか嬉しいな。^^Written by Shou
校庭の動物たち
それらは決して学校が飼っている訳ではない。正体不明である。
まず、ニワトリの集団がいる。
雨の後なんかにグラウンドをつっつきながら歩き回る。
時には「コケコッコー!!」とおたけびを上げて授業を妨害してくれる。
生徒たちに驚いて、ばさばさばさっ!っと飛んで逃げることもある。
(頭の上ぐらいまで飛べるんだよ^0^)
食べ物を売っている「カンティーン」のそばには足の悪いメス犬がいる。
時々、食べ物の残りをもらっているようだ。(なかなかかわいい^^)
他に、うちでは「カラス」と呼んでいる鳥たちがいっぱい巣を作っている。
体つきは全然カラスじゃないんだけど、色が黒くて、
なんか「カラス的な存在」と言う事で…この鳥達、授業のないクラスに入りこんで
机の上にありがたーいプレゼントを残していってくれたり、(*_*)
かんだかい声で鳴いて集中力をなくしてくれたり…
その他にはハチドリも花のミツを吸いにやってくるし
木の上や石の上ではトカゲ達が駆けまわっている。
(なかなかかっこいいトカゲだよ)
虫も、結構いる。授業中に足をかんでくる蚊やサンフライの他に
チョウ、アリ、トンボ、バッタ、ムカデ、ナドナド…
翔はこうゆうのをいつも見てるんだけど(好きだから)
こっちの子は動物とか虫にはあんまり関心を示さない…
Written by Shou