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 光の使徒
  第一章 ヴァンブリア編


第一話「爆弾魔」

 12.
 彼は空になった弾倉をリリースし、地面へと落とした。半ば反射的に、次の弾倉を銃床に再装填し、ケースレスを解除する。
 30発装填の、オートマチックバースト拳銃。プロの間で定評のある、精度の高く、そして信頼性の高い、高級オートマチック。秒間12発の連射は、ハンドガンながら高火力を実現してい

る。MC−DAQ……通称ダックと呼ばれているその拳銃を、彼も愛用していた。
 バーストの連射は、確かに手応えがあったが、撃たれたそれは、闇の中に霧散していた。まるで夜の暗闇に溶け込むように、突然消えた。
「……ガラテア!」
 ゼッツは思い出したように声を張り上げ、彼女のところへと駆け付けた。

 彼女は放心したように、そこに立ち尽くしていた。何かに取り憑かれたように、フラフラと何となく立っているような様子だ。
「大丈夫……か?」
 ゼッツが声をかけると、彼女は顔を向け、何事も無かったような表情を返してくる。
「はい。とりあえずは事件解決ですね」
「解決、つったって……」
 彼は困った顔をした。犯人と思われる男は消え去り……。
 あの男の動きは、ゼッツでも捉えきれなかった。直感で移動先を悟ったが、あの速度で突然動ける人間は、普通は存在しない。肉体強化が施されているとしても、死ぬと消える事など……。
「証拠は、燃えた車と……。車……?」
 考え込むようにボソッと口にし、ゼッツは気づいた。
「俺の車!?」
 戦闘の余韻が冷め、やっと彼は自分の愛車がどうなったかを認識した。
「燃えていますね」
 ガラテアは状況を正確に伝えるかのように、冷たくサラッと応えた。
 無情にも、ゼッツの車だったものは未だに狼煙を暗闇の空へとあげていた。そろそろ赤い炎は消えそうだ。
「さっぱり言うな……」
「事実ですから」
 いつものように冷静に彼女は応じる。
「……」
 ゼッツは少し沈黙し……。
「買ったばかりだぞ!」
 やはり腹の虫が収まらないのか、声を張り上げた。
「銃も残念でしたね」
 ガラテアは更に傷口を広げるかのように、もう一つの事を口にした。
「……」
 彼はふと何事かと一瞬考え……。
「……ちっくしょぉ!」
 車と共に燃えているだろう、高級オートマチック長銃の事に気づいた。


 緑色の観葉植物を手で弄りながら、ガラテアはワードナーの出したコーヒーを手に取った。
「お嬢さん、今日はゆっくり出来ますか?」
 冗談めかして言う彼に、ガラテアはにっこりと微笑み返した。
「傷は大したことありませんから」
 前回は大怪我を負っていたが、今回は軽い打ち身程度だ。
 それを聞いた店主は、奥の冷蔵庫から、いつかと同じイチゴプディングを取り出し、彼女の前に置いた。
「ありがとうございます」
 彼女はお礼を述べて嬉しそうにその菓子に手を付けた。
 口に含むと程良い酸味と甘みが、心地よく舌に溶け込む。
 小さなイチゴの乗った可愛らしい色合いのプディングは、この店でも人気の商品であった。
「それで、今回の事件は解決したんですか?」
 ワードナーもカウンターの相向かいに腰掛け、彼女へと尋ねてきた。
「どうもこうもねぇ!」
 ガラテアの隣に座る中年男性が、機嫌悪そうに声をあげた。いつものようにぼさぼさの髪の毛が、更に不機嫌そうに掻きむしられている。
「俺の新車をお釈迦にした奴を仕留めたって言っても証拠が無いだの、これじゃ保険は降りないだと……」
 愚痴るように口早に語る彼の横で、ガラテアは軽く苦笑を浮かべた。
「おや、車の保険降りないのですか?」
 ワードナーが意外そうな顔をして漏らした。
「車どころか折角買ったばかりの銃の保険も下りやしねぇ。騒ぎの責任まで追及されて、減給ものだ」
 苦笑を浮かべながらワードナーは隣に座る女性に視線を送る。
 彼女は涼しげな表情で、彼の話を気にした様子も無かった。
「お嬢さんは?」
「私はただの同行者でしたから。私の身を危険に晒したと言う責任も、彼にはかかっていますよ」
 そして思い出したように……。
「あと、無免許運転の件も」と、にっこりと微笑んだ。
「まあ、そう言う事だ……」
 うなだれる彼の横で、ガラテアはあの時の事を思い出していた。
 闇の使徒……か。
 彼女の心には、その単語がいつまでも引っ掛かっていた。

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