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 光の使徒
  第一章 ヴァンブリア編


第一話「爆弾魔」

 11.
「済まなかったな……」
 二人の乗る四輪車は、再び地上区のハイウェイを走っていた。
 すでに日は沈み、街は鮮やかな人口光で満たされていた。多くの四輪車が共に走り、横をすり抜ける。対向車線を走り抜ける、ヘッドライトの閃光が五月蠅かった。
「何がでしょうか」
 彼女は惚けたように、そしらぬ返事を返してきた。
「……」
 彼は言いづらそうに沈黙する。
「何だ……。俺が誘っておいて、ぶち壊したからな」
「気にしません」
「……」
 何とか口を開いた彼に、ガラテアは簡単な返事を返す。ゼッツは何か言いたげな表情を一瞬だけ彼女に向け、運転に集中するように前へと向きなおした。
「冷てぇな」
「前からです」
「……」

 二人の乗った車は、地上区の高級地から外れた郊外の方へと入っていった。
 それまでは派手な人口光の独特な光の世界により、逆に夜だという事を認識させていたものが、今度は闇によっての真の意味で夜を知らせていた。
 ガラテアは、彼が向かっている先が、スラムの方面だという事に何となく気づいていた。
「準備は良いのですか?」
 ふと尋ねた彼女に、ゼッツは親指を立てて、後ろの座席を指した。
 釣られるようにガラテアは、後部シートを見ると、そこには接近戦用の長銃が寝かされていた。
 それを目にしたガラテアは、あら……と多少驚いたように声を漏らした。
「準備は良いのですね」
「まあな」
「あんな風においたまま、車を離れるなんて、不用心ですけど」
 彼女は、衣類店へと入ったとき、そのまま車を離れた事を言っていた。
「……」
 ゼッツは言われて気づき、「しまった」という顔を一瞬浮かべたが、すぐに惚けた表情を浮かべる。
「盗まれる事はないと思ってな」
「また保証の無い事を……」
「細かい事、気にするな」
 好きに言ってなさい、とガラテアは応えながら、銃の性能を思い出していた。
 高級なオートショットガン。複数の弾丸を連続発射する完全オートマチックの長銃だ。高度なコンピュータ制御により、FCSを有し、扱う人間の負担を軽くする。従来のようにコンピュー

タの援護を利用しなくとも使用出来る、クラシックな銃だ。名銃グローリーブレイクの姉妹機で、名は確かロイヤルブレイク……。
「その銃持っていましたっけ」
「おう」
「2週間前には持っていませんでしたよね」
「おう」
「昨日買ったのですか」
「おう」
「なるほどね……」
 誤魔化すように同じ返事を繰り返すゼッツに対し、ガラテアは呆れるように苦笑を漏らした。
「まぁ、欲しくなってな……。車を買ったついでだ」
「……」
 確かに高給取りの彼が、何にもお金を使っていない事は、ガラテアも知っていた。逆に一回金を使い始めると、一気に使い込んでしまうのだろう。
 二人が乗る車は、大分高級地から外れ、物寂しい地区へと入っていった。主要な施設もなく、品の悪い建物が続く。
 物寂しい暗闇の道を、一台の車は走っていった。空には雲に隠れるように月が顔を覗かせている。
「……ん?」
 ゼッツが何かに気づき、声をあげた。ガラテアもそれに気づき……。
 ヘッドライトが照らす、前方に続く車道の脇に、一人の男が突っ立っていた。不気味な存在感。暗い空間の中に、いると言う事が何故か認識出来る……それだけの存在感を、それは示してい

た。
 深緑のロングコートに身を包み、一見、軍の関係者かと思わせる。
 車は、その男の横を通りすぎた。
 ガラテアがすれ違う瞬間、男の顔を覗き見た。
 コートを深めに被り、顎を引くように顔を下へと伏せる男……。一瞬、彼の瞳が彼女のそれをかち合う。赤い視線が、彼の瞳に光っていた。
「……!」
 ゼッツは突然、ブレーキペダルを強く踏み込み、車は激しいブレーキ音を響かせ、道路を横滑りし始めた。
 クラシックな四輪車は、ABSを装備していなかったのだ……。

 激しい爆音を辺りに轟かせ、その赤い車は、それよりも鮮やかな紅色で燃え上がった。そして、同時に真っ黒な煙が吹き出し、闇の空へと溶けていっていた。その煙に巻かれ、月の光は届か

ない。
「いってぇ……」
 ゼッツは道路の上で、愚痴るように漏らした。
「いきなりな挨拶じゃねぇか」
 激しい爆音で、彼の頭は混乱しているが、彼自身もそれに気づいていた。
 頭を振り払うようにしながら、立ち上がると、車の爆炎で明るくなっている周辺を見渡す。
 そして、彼の姿を見つけた。
 向かって正面……。背の高いコートの男……。彼は脚を引きずるように、ゆっくりと近づいてくる。
 ゼッツの背から発せられる爆炎の激しい光が、その男の姿を赤く染め上げ、赤の死神を彷彿させた。
『ヤミは……ドコに……イル?』
 それは言葉を喋った。人の使う、意味を持った音。……声、と呼ぶべきなのか……。
「ご挨拶じゃねぇか」
 彼は再び同じ言葉を言い放つと、腰の拳銃を手に取った。だが、彼がそれを構える前に、男の姿は消えていた。
「!」
 ゼッツは気づいた。
「ガラテア!」

 ゼッツの声が耳に入り、ガラテアは姿勢を正した。
 車から飛び降りたときにか、それとも地面を転がったときにか、彼女は左肩を痛めていた。それを庇うように立ち上がると、正面から何かが迫ってきた事に気づいた。
 咄嗟に右の手の平を前へ突き出すと、何かが手に当たり、偶然ながらそれを弾き返していた。当たった感触から、その大きさは拳大だろうかと推測する。
「くっ!」
 彼女はその正体に気づき、後ろ方向へ思い切り飛び込み、地面を転がった。
 再び起こる激しい爆音。度重なる近くでの激しい爆音に、ガラテアは耳がおかしくなっていないかと気がかりだった。ツーンと言う不快な音が、鳴っている気がする。
 良い運動になる、と彼女は考えながら、片手を付いてすぐに立ち上がった。
 初めに立ち上がった場所から10メートルは後方へと下がっている事を確認する。左側には、燃えさかるゼッツの車の残骸があった。
 すぐにガラテアの前に何かが迫ってきていた。右手で弾いたものとは違い、それは大きく……。
 ガッ。
 何かがぶつかる鈍い音が、一際響いたように感じた。
 ガラテアの顔のすぐ目の前に、男の顔が迫っていた。男は彼女を押し倒そうとするように覆い被さろうとしている。
『シトは、マダなのか……?』
 はっきりとした男の台詞が、ガラテアの耳に入った。呪いの台詞のように、彼女の耳へしっかりと刻み込まれていた。
 男の身体は、ガラテアに触れるすぐ手前で、二つの浮遊球によって阻まれていた。
 普段は彼女の肩の上にただ浮いているだけの黒い水晶球……。それは盾となり男の両腕を押し返していた。
 そして……。
 ガガガガガン!
 けたましい銃声が連続で響いた。
 男の身体は吹き飛ばされるように錐揉みし、ガラテアの右横へと吹き飛ばされていた。
 ドサッと音を立てコートの男は地面へうつ伏せに倒る。
『シトを……やミのしと……』
 最後の台詞と思われるものを残し、まるでいつか見た光景を再現するかように、それは闇へと霧散した。
 彼女はその様子を目にし、ただ何かに考えを巡らせていた。

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