夜桜バースディ (中)
「いやさ、運転の練習にって都内走ってたらおまえの事思い出してさ、俺朝絶対帰って来いって言っただろ?
だから迎えに行ってみようかと思って今電話かけてみようかと思ってたところ。」
運転しながら電話をかけようとしたらしく高耶は左手に携帯電話を握っていた。
千秋は助手席に乗り込むとカバンを後ろの席に投げネクタイを緩める。
「この車どうした?」
「あ、レンタカー。お前の車に乗ってぶつけたら何言われるかわからないからな。」
高耶の運転練習には散々付き合わされた千秋である。休みとなれば車に乗せろ乗せろと高耶は千秋を引っ張りまわしていた。
自分も乗るときは自分の愛車を使っていたが同乗しない時は絶対乗せないと言っていたので高耶は自宅近くのレンタカーでこの車をかりてきたらしい。
「これから夜桜見に行かね?でもその前に飯か。この辺りに美味いトコある?あ、酒はダメだぜ。」
これまでの早く帰れなかったお詫びもかねて嬉しそうに誘う高耶の誘いを断る事はできず千秋は高耶の運転する車を近くのコイン駐車場へと誘導した。
帰宅時間だけあって走っている車も駐車車両も多い。3件目の駐車場でやっと空いている場所を見つけ駐車した。「おまえ駐車も上手くなったな。」
思わず素直に千秋が褒める。意外な言葉に高耶が変な顔で千秋を見た。
「どうした?降りるぞ。」
「いや、素直に褒められてビックリした。」
「俺様だってたまには褒めるのよ?素直に受け取れっての。」
千秋高耶の髪をクシャっと撫でるとロックを外して車を降りる。高耶も数秒遅れて車から降りた。
駐車場から少し歩いたところにある表通りに面した小さな店へ二人は入って行った。
この店はランチの時間には列ができるほど並ぶが夜はそうでもないらしく店の中には数組しか居なかった。
ランチで食べて千秋が気に入ったメニューを高耶に勧める。
30分も待たないうちに大判の白いお皿に綺麗に盛り付けられたオムライスが二つふたりの席へ置かれた。
「なあ、やっぱり飲まねー?」
千秋が親指で一つ向こうのテーブルを指す。そのテーブルでは数人のサラリーマンがビールを美味しそうに飲んでいた。
それを見て我慢できなくなった千秋である。
「じゃー1杯だけ。」
「そーこなくっちゃ!」
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「一杯だけったろー。」
あれからビールを4杯も飲んだ千秋である。5杯目を飲もうとした千秋をさすがに高耶が制した。
高耶は1杯だけ付き合いあとはウーロン茶を飲んでいた。
「だってよービール美味しそうに飲んでんだもん。こっちだって飲みたくなるだろー。
おまえは1杯で足りたのか?あ、車の心配?だったら置いてけば問題なっし。」
久しぶりに酔っ払っている千秋である。
「あ、そういやオムライスどうだった?美味かったか?」
「ああ、あのオムライスは美味かった。あんな美味いの食ったのはじめて。」
高耶は気に入ったらしく満足な笑顔だ。千秋が腕時計を見ると11時を指していた。
さすがにこの時間になると大通りといえども車の量は減る。
「よし、行くぞ。」
帰ろうかと駐車場へと歩こうとした高耶だったが千秋は駐車場ではなく大通りを挟んで逆側のコンビニに向かって歩き出した。
高耶があわてて後を追う。千秋は追ってくる高耶を速度を落とし待ちながらコンビニへと入っていった。
次で完結の予定です。
もっと短いお話の予定だったのだけど調子乗ってたら長くなってしまい・・・・(苦笑)
千秋、次回ベロベロに酔っ払う予定。どーなるか・・・・・
2004年6月8日 貴月ゆあ