夜桜バースディ (後)

 

     店内には数人の客しか居ない。入り口に設置してあるねずみ色の買物カゴを持って千秋はどんどん店内に入って行った。
     後ろから高耶が早足で追いかける。店内に客はまばらだ。

     「何買うんだ?」

     「酒だよ酒。花見ったら酒だろ〜。もうビールほとんど冷めてるしぃ。時間も遅いし大丈夫。」

     ほろ酔いで気分がいいのか酒のコーナー前で千秋は高耶にピースして見せた。

     「違うと思うけど・・・・」

     がっくりうなだれる高耶である。免許を持っていなくても酒が販売できるようになった今は酒を置いているコンビニも多い。
     千秋は適当に冷蔵庫からビール2本と乾き物をカゴに入れた。

     「他に欲しいもんあるか?」

     「酔い覚ましにお茶。緑茶がいいかな。」

     そう言うと千秋は隣の冷蔵庫からミニペットボトルのお茶を1本カゴに入れレジへ持って行った。

     

     コンビニを出ると少し冷たい風が吹いた。

     「ちょっと寒くないか?」

     高耶が両手で自分を抱く。

     「そお?俺にはちょーどいいぜ。」

     それはきっと酒のせいだ。という台詞を高耶は飲み込んだ。信号を渡って二人は近くの公園へと歩く。
     数は少ないが桜のある公園が近くにあることを千秋は同僚から聞かされていた。
     昼間はにぎわっているらしいが夜は場所的なものもありあまり人が居ないらしい。
     テレビの撮影とかにもよく使われるのだと例の経理課の彼女が言っていた。
     二人は大通りに面して歩いていたが1本横道があるのを思い出して大通りからそれる。少し離れただけで車の音はかなり小さくなった。

     「な、手だしてみ?」

     千秋が荷物を持つ手と逆の手を高耶に向かって伸ばす。

     「手?」

     高耶がポケットに入れていた手を出すと千秋がそっとその手を繋ぐ。

     「な、なんだよ。」

     「たまにはいーじゃん。人も居ないし。」

     珍しく酔っ払いご機嫌の千秋スマイルに高耶は大人しく手を繋がれたまま公園までの道を歩いた。夜の住宅街は静かだ。
     家賃数十万、買ったら億はしそうな住宅街を5分も歩いたところで目的地である公園に着く。
     公園は小高いところにあり夜景と桜が見られる少し変わった場所だ。千秋も近い場所にオフィスはあるが来るのは初めてだった。

 

     目の前には夜景、後ろには桜の木。

     「夜景と桜ってちょっとミスマッチだけど綺麗だな。」

     高耶は夜景と桜を交互に見て嬉しそうだ。夜景の見える位置に設置されているベンチに二人は腰を下ろす。
     園内には二人の他に人は見当たらない。さっそく買ってきたビールを取り出すと勢いよくプルトップを開ける。
     シュっといういい音が聞こえた。お互いの缶を近づける。

     「乾杯」という千秋と「誕生日おめでとう」という高耶の言葉。
     高耶の言葉に「は?」と千秋が反応した。高耶はやっぱりという顔をして

     「今日、誕生日だって事覚えてた?」

     「いや、忘れてたわ。」

     自分の誕生日なんてすっかり忘れていた千秋である。
     誕生日だから高耶が迎えに来た事、ビールを飲んでも何も言わなかった事をわかっていなかったようだ。

     「なーなー誕生日プレゼントは?」

     自分が誕生日だと認識したとたんプレゼントをねだりだす。いかにも千秋らしい。

     「ケーキは買ってあるけど。」

     時間のあった高耶は近くのケーキ屋で昼間に小さいサイズのケーキを買ってきていた。

     「手作りじゃないの?」

     「作れっか!」

     「ま、いっか。帰ったら食おーぜ。あーんって食べさせてね。景虎ちゃん。」

     千秋はウインクして高耶に甘える。反論しようと思ったが呆れて言葉が出ず高耶は何も言わずにビールを口に運んだ。

     「あ、でもその前に、もっと食いたいもんみ〜っけ。」

     千秋はビールを勢いよく飲みほすとその缶を投げていきなりベンチに高耶を押し倒す。

     「うわ、バカ!」

     いきなりの事に高耶の手からビールの缶が落ちた。千秋はそんなのおかまいなしでそのまま高耶にキスをする。
     高耶がじたばたと暴れるが両手で押さえ込んだ。

     「このままここで食べてもいい?」

     首をかしげながら聞いてくる千秋。完全に甘えモードだ。

     「絶対ヤダ。」

     「えー。」

     「えーじゃねぇ、どけってーの!」

     「ヤダ〜。」

     完全に千秋に遊ばれてる高耶である。
     高耶はひとつ溜め息をつくと「千秋」と名前を呼び強引に千秋の頬に手をそえ自分の方に引き寄せると高耶は濃厚なディープキスを千秋にした。
     予想外の展開に千秋が顔を仰け反らせようとしたが高耶の手がそれを制す。時々吐息が漏れるような熱いキス。
     時間にしたら数十秒だがやけに長く感じた。思う存分貪ったところでやっと開放される。

     「まー激しいこと。」

     まったく予想していない嬉しい展開に千秋は笑いながら高耶に言う。

     「言ってろ。」

     そう言った高耶の顔は月明かりで見えにくいが真っ赤だ。二人は起き上がるともう一度そっとキスを交わす。
     さわやかな風が二人を包んだ。そんな二人の後ろでは桜の花びらが風に吹かれ紙吹雪のようにヒラヒラと舞い落ちていた。

 

END

 

 


    あとがき

     夜桜を見に行くがテーマだったんですけどそのまま誕生日も祝っちゃえって感じで千秋バースデイ物でした。
     最終巻が出てしまった今こんなのほほん物書いてていいのかな〜なんて気もしますが自分癒しの為って事で大目に見てください。(苦笑)
     調子に乗ってアレもコレもと書いてたら終わらないは激甘になっちゃいました。(‾▽‾;)

     数年前に書いた千秋birthも「ちーたか」っていうより「たかちー」になっちゃったけどどっちかというと今回もそんな感じに近いかもデス。
     二人で幸せそうなら貴月は文句無しです。そうそう、今回のお話で登場する場所等は全て存在する貴月のお気に入りスポットです♪

     よかったら感想等をお聞かせ下さいませ〜。

     

     2004年6月13日 貴月ゆあ