I’ll be with you

3
 

 寛子は多香子の背とベッドの隙間に手を差し入れ、抱き起こした。
「えっ?」
 強引な行動に、一瞬、多香子は声をあげる。しかし、抱き起こされた身体は、ヘッドレストにそっと凭れさせられた。
「寛………子?」
 それに、寛子は出来る限りの柔らかい視線で答えた。その髪を、肩を、背中をそっとそっと撫でる。
--------安心、する。
 思わず寛子の胸にもたれかかり、多香子は小さく息をつく。そして、そっと寛子を見上げた。
「ん?」
 細められた視線が心地よくて、多香子は身を乗り出すと、寛子の顎に軽く口づけた。それから、更に起きあがり、寛子の頭を抱きかかえる。頬に、額に瞼にこめかみに、次々と唇を当てていき、最後に唇にそっと唇を押し当てた。
「多香………」
 唇が離れる度に甘く囁かれる。それだけで、心がどこかに飛んでいきそうな勢い。
 角度を変える度に、段々と深くなってゆくキスに酔いしれていると、そっと、寛子の右手がパジャマの上から多香子の胸元に当てられた。それを感じた瞬間、多香子はびくりと身を強張らせる。
「………多香」
 しかし、止めなかった。ひとつひとつ震える指で、ボタンを外す。それには、多香子は唇を噛み、懸命に震えを押し隠した。
 ひやり。
 冷たい空気が素肌にまとわりつく。けど、身体が震えるのは寒いからじゃ、ない。
「………………怖い?」
 あたしが、怖い?
 寛子は小さく訊いた。それに、多香子は小さく首を振る。
「寛子が怖いんじゃ………ない」
 判ってる。判ってるのだ。それは。
 寛子は苦しげに顔をしかめた。そして、耳元に唇を近付け、切なげに囁く。
「………ごめん」
 だけど、もう、止まらないのだ。方法も、何も知らないけれど………それでも、多香子が欲しいのだ。
 傲慢な子供。そう言われてなじられても、それでも………。
 寛子は、舌で多香子の耳をぺろりと舐めた。それに、一瞬、多香子はくすぐったそうに首を竦める。
「好きだよ………」
 言い訳なのかもしれない。この言葉は。
 そう思いながらも、寛子は囁かずにはいられなかった。
「大好きだよ………」
 耳たぶを軽く噛む。舌を這わす。差し入れる。
「んっ………」
 多香子は思わず声を上げた。くすぐったさとは違う何かが、背筋を走り抜けてゆく。
「多香………」
 囁きながら、寛子は首筋に唇を滑らせると、軽く喉元を噛む。
「んん!」
 思わずそらされる喉。何だか、それすら色っぽい。
 ごくりと唾を飲み込むと、寛子はそっとパジャマの前をはだけた。抜けるような真っ白な胸元が、目に飛び込んでくる。
「………寛子」
 甘えるような、すがるような声。それが、更に寛子を煽る。寛子は首筋から唇を鎖骨に滑らせると、軽くそこを噛んだ。
「くぅっ!」
 思わず浮かしかける上半身を、ヘッドレストに押しつける。それに寄りかかったまま、多香子は首を振った。
「………寛子」
「………………」
 無言なままの寛子に、多香子は懸命に訴えた。
「怖いよ………寛子」
 --------思い出すのが、怖い。

 

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